まめの創作活動

創作したいだけ

黒金の戦姉妹0話 プロローグ

この作品はキンジが "本当の意味でクロメーテルさんになってしまう"
特殊なHSSを基にした二次設定作品です。

基本的に原作の話の流れからずれないように改変していこうと思います。
あくまで"流れ"だけですけど……

ただ、キンジの過去の設定がどうしても独自設定として必要になるため、
後々、原作とは違った流れになってしまうかもしれません。
 
 

 

プロローグ

 

 

 

私の相棒パートナーが死んだ。

 

いかなる時にも正義を貫き。比肩するものがいない程強い。それと同じく、とても美しい人。

数々の仕事を共にこなし、死線を潜り抜けてきた唯一の相棒だった。

私の背中はあの人にしか任せられない。その逆であって欲しいとも思っていた。

 

今でもふと考える時がある。これは何かの間違いではないのかと。

 

あの人が誰かに負けるわけがない、死体だって見つかっていない。

死んだことが証明できなければ、生きている可能性は否定できない。

そんな言い訳がましい苦言のような妄想を…。

 

 

でも、

単独任務を終え、眠りについた私が次に目覚めた時には――

 

彼女は…カナは行方不明のまま、死んでしまっていたのだ。

 

 

 

 

 

 

硬いコンクリートに立ち並ぶ背の高いビル群。

チカチカと点滅する信号に急かされた車が、赤信号に変わった横断歩道を大した減速を伴わないままに横切っていく。

 

見慣れた灰色の街角を人が歩いている。

懐かしくもないし、真新しくもない。記憶ではなく目で見る世界は過去でも未来でもなく、紛れもない現代の姿だ。

 

平穏な生活を送る人々の表情は満たされているようには見えない。

安全な場所で送る日々の平和が彼らにとっての常識だから、何かを得ている実感が湧かないのも無理はない。

 

 

信号が変わる。

フライング気味に白線を踏んでスーツの男が足早に渡り始め、隣で携帯を弄っていた高校生が吊られて足をあげてから顔を上げて一瞬止まる。

並んで歩く小学生、端に寄って渡る女性。人の波は合戦の正面突撃のようでありながら、器用にすれ違って行き、私も陰に紛れて渡り切った。

 

横目で見たニュース掲示板には昨日起こった爆弾騒ぎが報じられていたが、平和に生きる人々にとって意識を割く暇など無い。そういうものなのだそうだ。

 

誰も自らに関係ない事には意識を割いてまで興味を示さないのだと。

それが普通なのだと、私も努めて人の輪に隠れてきた。

 

彼女が今の私と出会ったら何と言うだろうか?

優しく諭してくれるだろうか。それとも静かに怒るだろうか。

いや、考えるだけ無駄な想像だ。彼女に会えるのなら、私はそんな考えを持つ必要はなかったのだから。

 

 

ふと、私は人の流れに倣って忙しなく動かしていた足を止める。

後方を歩いていた男が迷惑そうな顔を見せ付けるように一睨みして、新たな人の流れを作り出し雑踏の中に消え去った。

 

(…あれは……!)

 

目の前を歩いていく姿に見覚えがある。そうだ、見間違えようもない。あの後ろ姿は、

 

(カナ!)

 

ずっと憧れたその背中はいつだって大きく見えていた。

「女性にそんなこと言わないの!」なんて言われそうだから、口には出さなかったけど。

いつになったら追いつけるのかと、悩んでいた時期もあった程だ。

 

それが今は、ひどく小さく見える。いや、徐々に遠ざかっているのだ。

一歩、また一歩と背中が小さくなっていく。

 

(いや!いかないで…っ!)

 

しかし、声が届いていないのか、名前を呼んだはずの姉は振り返る素振りも立ち止まることもない。

叫びながら追いかけているのに、走っているはずなのに、その距離が縮まらない。

どんどん遠ざかってしまう。

 

(私を置いてかないで…一人にしないでぇ…)

 

追いつけない。私はまだ彼女に追いつけないのか―

嗚咽を含んだような悲愴な声もむなしく、遂には人ごみの中に消えてしまう。

 

(あ――)

 

まるで体中を刺し貫かれるような、嫌な視線を感じて周りを見回すと、いつの間にか大勢の人間に取り囲まれていた。

蔑むようにこちらに向けられた目は、見たことがある。いや、忘れるわけがない。

 

「無能な武偵だな」

「被害を未然に防げないなんて」

 

カナを…私の大切な相棒を侮辱する声が、次々と投げかけられる。

 

 

    いたい  くるしい  はきけがする

 

 

体中に突き刺された針が血流にのって心臓に殺到する。

 

(やめて…!カナはとても優秀で…被害者だって一人も…)

 

彼女はいつだって正しかった。

今回だって人命救助を成し得た末、己の義を貫いたまま散っていった。

 

でも世間は違う、カナは失敗したのだ。1か0、その過程は関係ない。

2008年12月、その時確かに事故は起こってしまったのだ。

 

痛みから、苦しみから、その声から逃れたい一心で。

目を瞑り、耳を塞ぎ、その場にしゃがみ込む。

 

(武偵なんて、武偵なんて!!)

 

口から出掛かった言葉はそこで止まった。その先の言葉は私がカナを否定するのと同じだ。

代わりに口をついて出た言葉は

 

(なんて…損な役回りなんだ…)

 

徐々に目の前の光景が白く歪んでいき、視界も覆いつくされていく。

 

(ああ、これは…)

 

 

 

 

 

そこで目が覚める。寝ぼけた目に映るのはいつもの天井。

さっきの白い靄は、カーテンの隙間から差し込んだ光のようだ。

 

嫌な夢からは解放されたが、憂鬱な毎日からは逃れられない。

ふと時計を見ると、時刻は朝6時半。まだまだバスまでは時間がある。

 

悪夢のせいで汗が背中を濡らしているのに気付き、

 

「シャワー浴びよう…」

 

せっかく早起きした朝を気分転換ゆういぎに使うことにした。

 

(今日は始業式か)

 

そう、今日は武偵高校の始業式。探偵科二年としてまた一年間、あの普通じゃない高校に通うのだ。

―自分の相棒が死んでしまった原因となる武偵を育成する高校に。

 

(この力は封印するんだ)

 

あの日、そう決意を固めた。自分には必要ないものだと、自分には過ぎた力であると。

相棒を奪い、いずれ自らを破滅に導くこの力を二度と使わないと。

 

 

 


 
 

ちょっとだけ加筆修正入ってます。
誤字脱字が散見されると思いますが、ご容赦ください。

次回以降はとりあえず過去に跳びます!