まめの創作活動

創作したいだけ

黒金の戦姉妹1話 不可視の存在(前半)

 
 
どうも!


暫くの間はイタリア武偵として活動する遠山兄弟(姉妹)のお話となっています。
原作時間軸に進むまではかなりの時間を要する予定ですので、あしからず。

当方、オリジナルキャラの数が増えていきます。主人公のクロ(キンジ)も性格から改変されていて、それがそのまま原作キャラと絡んでくる流れになりますので、オリジナル設定が苦手な方はご注意を。

今回は戦闘描写はまだ出てきません。


では、始まります!




不可視の存在インヴィジ・フィグ(前半)

 

 

 

―――パァン

 

 

 

静まり返る闇夜に乾いた銃声が響いた。

暗闇を撃ち抜くように、一発のマズルフラッシュが閃く。

 

光は再び闇に飲み込まれ、辺りは暗闇と静寂に立ち戻る。

 

時刻はすでに0時てっぺんを過ぎたころ。

電灯の光が届かないこの暗い裏路地は犯罪組織にとって格好の隠れ家となっていた。

 

 

―――パァン―――――――――パァン

 

 

続けて2度、3度と光が閃き、その度に一人、また一人と地に伏していく。

残されるのは静寂と、倒れ伏す男たち。その体に流血の跡はない。意識だけを刈り取られたのだ。

彼らは防弾繊維を身に着けていた。つまり、初めから警戒していたのである。

 

しかし、それでもなお誰も気付くことが出来なかったのだ。いや、

 

「何が起こっている!?」

「くそっ、どこだ!どこにいる!」

「探せ!探しだせ!」

 

今、この瞬間も……

 

 

―――パァン

「グゥっ!」

 

 

"姿の見えない襲撃者"に。

 

 

――――――――パァン

「ガっ!ど、どこから…」

 

 

翻弄され続けていた。

 

 

―――――――――――――パァン

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「クロちゃん、最近は夜空の星がキレーに輝いてるわね、そろそろ夜のお散歩も良い頃合いじゃないかしら。あなたはどう思う?」

 

 

休日の朝、カナは普段と変わらない日常会話の中で、世間話をするように私にそう話す。

にこやかな笑顔で問い掛けるよう首を傾げたカナにつられて、今朝私が編み直した後ろ髪が翻った。愛用のロングコートは今は着ておらず、ゆったりとしたセーターに身を包んでいる。

 

街中で買い物をしていた私たちの周りには何人も人が歩いており、というよりもこちらを遠巻きに眺めているようだ。

 

(今日もカナ姉さんは美しいな……周りの目を集めるのも仕方ないか)

 

そんな考えが一瞬よぎったが、あわてて話の内容を反芻する。

 

(違う!えっと?星がきれいだっけ。ほし、星ねぇ。……星?)

 

はっ、とするがすでに手遅れ。いくら私の思考速度が常人より優れているといっても、それは姉さんも……

 

「クロちゃん?何をぼーっとしてるのかしら」

 

ほらもう来ましたよ、催促の呼びかけが。

『クロちゃん』とは私の事だ。これはあだ名ではなく本名、『遠山クロ』というのが私の名前である。

武偵を育成する教育機関、『ローマ武偵中学校』に通う日本の留学生で、実姉であるカナの留学に連れ立って海を越え……って、違う!姉さんが浮かべる笑顔の質が変わって来たぞ。

彼女の柔らかく優しい笑顔には性別問わず、ほぅっと息を吐いてしまいそうになっているが、放たれる威圧のオーラに曝された私ははぅっと縮こまりそうだよ。

どうやら私が余計な事を考えていることを察知したらしい。

まださっきの会話から2秒も経ってないよ?

 

仕事のこととなると即断即決、一瞬の判断ミスがチームの生存に関わってくるのだ。もし今のが敵の奇襲なら私の頭には銃口が突き付けられていただろう。

姉さんはたまにこうやって私を試すことがある。日常会話に織り交ぜて、偵察しごとの近況報告を求める旨を隠語を使って尋ねてくるのだ。しかも人ごみの中。

 

つまり、(1)返答はできるだけ簡潔に、(2)尚且つ話の流れを汲んだ上で(3)周囲に聞こえても問題の無いように、こちらも隠語で返答しなければならない。(4)2秒以内に。

 

 

内心ビクビクしながらも肩肘張ることなく自然に答える。

不自然に萎縮した様子を見せれば周囲はどう思うか。そんなことでお説教を受けるのは勘弁だった。

 

「カナ姉さん、私の見る限りであれば最近、星の光はライトアップされたトレヴィの泉に映り込むほど輝きを増しています。トレヴィの泉がまたようなことがあれば13星座、蛇使い座の祖神が怒り、でしょうね」

 

ちらっ。どうかな?うまく伝わったかな?

これまでの報告にも用いたいくつか既存の単語を織り交ぜているから、一切伝わらないなんて事はないはずだ。

 

思っていた通り、姉さんは瞬考しうなずいた様子を見せ――

 

「うん、じゃあ今夜星々に手を伸ばしましょう。少し冷えるかもしれないからを忘れないようにね?」

 

にっこりとそう返してくる。

 

(うげぇ、嫌だなぁ。冷えるどころか汗だくになりそう)

 

げんなりする私が顔を上げると、目の前に姉さんの顔が現れた。

ちょっ、顔近っ!

 

「っ!ね、姉さん?」

「……50点、かしらね」

 

 

(へ?うそ、赤点!?)

 

告げられた点数はまさかの低得点だった。

そこまで下手な説明ではなかったはず、ペナルティは報告の遅延だけでそこまで引かれはしないだろう。となれば他に原因があるということ。

 

しかし、尋ねるより早く、姉さんは何も言わずに歩いて行ってしまう。少し足早に。

ショックから立ち直り慌てて追いかける私も、そこで違和感を感じた。尾けられてる?

 

姉さんは十字路を左に曲がる際、こちらに一瞥をくれることも無く内角を最短で曲がっていった。

 

(やれやれ、私のミスですね)

 

私はその十字路まで、できるだけ路の真ん中を駆けていき、姉さんを見失ったようにキョロキョロしてみた。実際、曲がった先の姉さんの姿はすでに消えている。

 

(さてと、警戒して距離を開けるか、それとも私に接近するか)

 

気配の断ち方、視線の遮り方からこの辺りを根城にし、地理に詳しいやり手であると予想できる。

それなら私が向かうこの道の先がどうなっているのかも理解し、チャンスだと思うはず。

 

速度を緩めながらそのまままっすぐ歩き続ける。

追跡者は姉さんを警戒して少し止まったようだが、別々になったのは好都合だと考えたようで、私の後をつけて来た。そろそろ、到着する。

 

(行き止まり。さあ、仕掛けてくるか?)

 

あれれ?といった風に迷子を装い、もと来た道に振り返るが、誰もいない。

 

(……来ないなぁ、気配も感じられない)

 

来ないものは仕方がないので、不自然に見られないように戻っていく。

しかしその道中も何者かに尾行されている気配がない。

 

(ここまで来ておいてスルーですか、そうですか。女性を期待させておいて裏切るとは)

 

こっちはあなたのせいで赤点もらったんですよ?絶対許しませんから!などと考えつつ歩いていると、とうとう十字路まで戻って来てしまった。腹立たしさを感じながらも右へと曲がる……直後、

 

 

「"おおーっ?レアキャラ確保ーっ!"」

 

 

唐突に後ろから何者かに抱き着かれる形で、ミシミシ……グギューっと両腕諸共締め上げられる。ウエストサイズマイナス20センチを誇る拷問器具ようなコルセットは、腕に力を入れてもビクともせず、身じろぎしようが脱出は敵わない。呪い装備は外れないよ。

 

(ぐるぢい、この馬鹿力は……!)

 

温かい呼気の吹き掛けられる口鼻の位置から頭の高さは肩甲骨程度で、怪力の割に小柄な相手だと分かった。そもそもその声は聞き覚えどころではなく聞きなじみがある。

 

 

「"クロちゃんみーっけ!"」

「"はなじて……ぐだざい……"」

 

 

なんとかその言葉だけを絞り出した私はすんでの所で解放され一安心。あやうくまだ食べてもいない朝食を先払いでリバースするところだった。

四つん這いの状態のまま後ろを振り返ると、「やっちゃった☆」みたいな顔で悪びれもしないクラスメイトがいる。そのてへぺろみたいな顔をやめなさい!

 

 

「"えへへー、休日にクロちゃんを街中で見付けるなんて。あたし今日はついてるかも!"」

 

 

とかなんとか意味不明な供述をしている現行犯は知り合いである。ダークブラウンの髪を真っ白なリボンでポニーテールに結っており、両の目は色素の薄い茶色。キリっと吊り上がった目はキツイ印象与えるが、だらしなく緩められた表情でドキッとするギャップを生み出している。

平均チョイ下くらいの身長にもかかわらず、可愛らしく小柄ななで肩とほとんど成育が見られない胸が原因でちびっ子認定されていて、反面、引き締まったウエストやスラリと伸びる両脚は長く、まるでモデルのようである。胸以外は。

 

「"いいですか?私の話を聞いてください、一菜さん"」

 

三浦一菜みうらいちな、その名の通り同郷を共にする日本人。イタリアには親の仕事の都合で入学前から移り住んでいたらしく、イタリア語での会話も問題なくこなせている。幼少期は日本で過ごした為日本語も堪能、入学当初は翻訳機としてものすごく助けられていた。

でも、言うことは言っておかないと、(物理的に)体を壊すのは私の方なのだ。

 

「"私はカブトムシかクワガタですか。びっくりしてしまうのでいきなり捕獲しようとしないで下さいね。あとそんなにレアキャラでもないですから"」

「"ねーねー、次はいつ?どんな逸話をつくっちゃうのー?"」

 

(こ……こいつ!)

 

ちびっ子にはちびっ子らしく、昆虫王者のはなしで分かりやすく例えてみたのに。

またしても完全にスルーを決められた私の心はボロボロよ!?

 

キラキラした目はあからさまに私をバカにしている。

だからチョキにした指で思いっきり突いてやろうかと思ったが、世紀末な校内ならともかく、公共の場でそんなスプラッターを演出する訳にもいかないだろう。

 

 

「"私の話を……"」

「"あたしもいつかクロちゃんの必殺技を直接見てみたいなー"」

「"わた……"」

「"そうだよ!ずっとくっついてればいいんだよ!"」

 

 

(だめだこいつ。翻訳機の翻訳機が必要じゃないか)

 

私の脳内には、犬の鳴き声にあわせて画面に「ごはん!」と表示される携帯端末が思い浮かぶ。

 

このまま彼女に付き合い続ければさらなる減点になりうる、それ以上に先程の尾行者がまだ近くに潜んでいる可能性もあり、彼女を巻き込むわけにはいかないのだ。決して逃げるわけではない。

なにやら話の雲行きが怪しくなってきたあたりで私はこの場の離脱を決意した。

 

「"それならクロちゃんの活躍を見逃すこともないし、ガードの固いクロちゃんのあんな所やこんな所も……って、あれ?"」

 

残念でした、もう私はいませんよ。

物陰から様子を窺っていると、何を想像したんだか頬を赤く染めていたちびっ子は、全身を使ってブォンっブォンっとでも擬音がつきそうな勢いで周囲を見渡している。振り回された頭の茶色い尻尾が千切れて飛んで行きそうだ。

 

(っていうか、ちょっとだけ周囲の小石が飛ばされてない?私あんなポテンシャルを秘めた逆サバ折を喰らってたの?)

 

そりゃ苦しいわけだ。

 

次見つかったらもう逃がさんとばかりに締め折られる可能性が高い。こっそりとその場を後にすることにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

「第一に返答が遅かったわ、クロちゃんぼーっとしてたでしょ?」

「はい……余計なことを考えていました。」

 

あの後、第8集合地点で姉さんと合流し、尾行の気配が消えたことを伝えた上で、借りていた部屋へと帰宅した。

お説教タイムです。赤点だからね。

 

「第二、尾けられていたのにいつ気付いたのかしら?」

「私に赤点が付けられてからです……」

 

ふぅ、と小さくため息をつく姉さんに、少しだけ心が痛んだ。

姉さんは私を一人前に、自分との相棒が務まるように育てると言ってくれた。姉さんが誰とも組んでいないのはその実力についていけるような人材がいないからだろうけど、なんだか半分は私のせいなんじゃないかな、と思う時がある。

姉さん一人ならきっと、もっと大きな仕事もこなせるだろう。

 

私は姉さんの相棒になりたい。姉さんの相棒でありたい。背中を任せて貰えるようになりたい。

でもそれ以上に、姉さんの重しになりたくない、足を引っ張りたくない。

 

私が追いつこうとするほど、その距離が高さが深さが、絶望的なものに感じられる。

同じ能力HSSを持っているのに、どうしてこんなにも大きな隔たりがあるのか。

もしかしたら、私が追いつくことなんてなのかもしれない。

 

――ぎゅっ!

 

ぎゃあっ、いたいいたい!

 

油断していた頬をつねられ現実に引き戻される。

想像の中では背中しか見えていなかったけれど、正面から向かい合う顔は少しだけ怒っている感じだ。

 

「またそんな顔する。何を考えているのか大方予想がつくわ」

 

ホールドされたままの両頬は重力に、私の表情筋に逆らって上に引っ張り上げられる。

……今すごい間抜け面なんだろうな。

 

それを証明するかのように、プフッと姉さんが噴き出す。ちょっと!あなたがおやりになりましたでしょ!?

おかげで赤くなった頬は解放されたものの、釈然としない。ヒリヒリする。

 

「ごめんなさい、くっ、ふふっ。女の子の顔に傷んくっ、付けちゃだめよね。……ふっ……」

 

まだ笑ってるんですか!?

人の顔見て笑われる方がよっぽど傷つくんですけど!?主に心が!!

 

「姉さん…」

 

少しだけあきれた声で呼びかける。目も半開き、ちょい睨み気味で。

あなたの妹は怒っていますよ。

 

「そうそう、それでいいの」

「え?」

「あなたは時々、すごく寂しそうな顔をするから。それを見てると胸が締め付けられそうになるの」

「……」

 

あたらずとも遠からず。

寂しそうなのは、カナに追いつけない自分が情けないから。

 

「無力感、自信喪失、絶望。あなたの表情は小さいけれど確かに分かるわ。大切な相棒だもの」

「っ!」

 

そっちも、出ちゃってたのね。

でも、きっとカナだから分かるんだよ。他人には気付かれない。

 

「だからこれだけは覚えておいて。あなたの秘めた力は私以上、いえ初代遠山金四郎よりもきっと上よ。今のあなたのヒステリアモードは不完全なもの。この能力が一番強い力を発揮できるのは、誰かを守ると強く自分を信じた時。あなたにはそのどちらも足りていないだけよ。命を懸けて守りたい人も、自分を信じる心も」

「守りたい人と信じる心……」

「クロちゃんにはまだ早いかもね、でも」

 

そこまで言って姉さんは私を抱きしめる。さっきの締め上げとは違う柔らかい抱擁。だというのに、頭をなでる優しい手付きの心地よさで、私は指一本動かせなくなった。

 

 

「忘れてはだめよ、私たち遠山一族は義に生きる。自身の義を証明できない者はいずれ討たれるわ。あなたも…私も」

「はい、姉さん」

 

 

(……やっぱり遠いなぁ、けど)

 

 

いつか必ず追いつける。守りたい人ははるか遠くにいるけど、自分を信じるくらいならなはずだ。

だから今は少しだけ、もう少しだけこの懐かしい感覚に身をゆだねる。

 

物心ついた私が、お母さんの死を実感して泣いたあの日――初めてカナ姉さんと出会った日と同じように。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

黒いロングコートに身を包み、私は戦場を駆け抜ける。

物陰から物陰へと、一蹴り3mを一瞬で。

 

 

―――パァン

 

 

遮蔽物から出て遮蔽物に隠れる1秒にも満たない時間で、索敵し、狙いを定め、発砲し、次の標的を定め、最短の遮蔽物ルートを決める。

 

爪先と足首、膝をヒステリアモードの反射神経によって同時に駆動させて踏み込み、時速100kmを超える速度を可能としている。確かこの移動法の術理は遠山家にも存在していた。

とはいえあまり多用できるものではない。寸分の狂いもなく動かすにはかなりの集中力を要する上、体への負担が大きいのだ。移動に連続で用いるなんて以ての外である。

 

今はまだ、誰も私を見ることはできない。

いつもならこのまま制圧できるものの、しかし今回は特例だ。

 

(超能力者がいたんじゃそううまくはいかないか)

 

私が事前に掴んでいた超能力者の存在に対して、カナは手袋をつけろと言った。

つまり今回の作戦ではなるべく力を使わずに様子を探れと言ったのだ。その理由はおそらく超能力者の存在を警戒してのことだろう。

 

そういう輩には不意を突いた一撃が有効なのだ。

私達をただの人間と侮るその慢心に付け込む。

 

 

とはいえ正直、長期戦は苦手である。

狙撃手のように長期戦を想定した訓練を積んだ人間であれば精神の消耗を抑えることも容易いのだろうが、戦いが長引くほど私の集中力は削られていく。

だがそれは敵も同じこと。今の状態は互いを疲弊させる見えない聞こえない心理戦なのだ。

 

そしてこの戦いは、私の絶対有利。

見えないわたしの恐怖、一撃で沈められた仲間、漆黒の闇から伝わる不安がさらに男たちを追い立てる。

一方の私は苦手なりに、この為の秘技を習得済み。姿勢を正し、呼吸を整え、目を瞑る。

 

―――瞑想。

 

単純なようだが、心を穏やかに鎮め精神を安定させられる。気配を薄め集中力を研ぎ澄ませたまま、ゆっくりゆっくりと水面の波紋が永遠に広がる世界で時が経つのを感じ取る。

 

「どこに隠れてる!」

「大人しく出てきやがれ!」

 

遂には耐え切れず怒声が飛び交い、男たちの隊列に乱れが生じ始める。

威嚇のつもりか無意味な発砲を行う者も現れ、明らかに混乱を増していった。

 

 

一拍置いて示し合わせたように訪れる静寂。何も起こらない。

しかしそれ自体が攻撃なのかと思える程、男たちの精神力と集中力を削いでいく、

 

 

何も聞こえない、誰も見えない。ただ、静寂。

 

 

(さて第二波を、ん?)

 

 

隊列を立て直される前に再度強襲しようと瞑想を終えたが、どうやら援軍が建物から現れたようだ。武装をしている彼らの中に警戒中の超能力者の姿はない。

 

外にいた奴らより少しばかり格上のデキる顔付きで、手にしている武器も拳銃ではなく短機関銃――M1938Aモスキートかと思ったが。

 

(何あれ?装填口が上についてるんだけど、モデルチェンジ前のM1918かな?また随分と古めかしいモノを。うわぁー重そう)

 

……弾は9mmでもグリセンティ弾じゃないか!そんなんじゃ他の拳銃との互換性が、ってあっちの拳銃もよく見たらM1915自動拳銃じゃないですか!私の愛銃の元祖、ベレッタ社をトップメーカーに押し上げた立役者の大先輩ですよ!!

 

流石ベレッタ社の本社があるイタリアだ!とか、武装を確認しながら内心わくわくしていたものの作戦の続行は困難である。

 

(ちょっと人の目が増えすぎたかな。照明もたきはじめたみたいだし、一旦私は姿を消した方がいいですね)

 

本当であれば私が超能力者を誘き出せれば良かったのだが、こうも人の目が増えてしまっては、私一人では姿を隠しきれないだろう。

そう思い、ターゲットから距離を取って合図を送る。

 

カナはまるでこのタイミングを知っていたかのように、すでに行動に移っていた。敵の目が集まっていた照明の中に、堂々と、その姿を現す。

照明は舞台女優の登場をアシストするスポットライトのように、カナを照らし出した。絶世の美女の出現に、男たちは目を奪われているのだろうか、発砲はおろか照準すら合わせられず、緊張からか喉を鳴らしている。

 

(いや、見惚れてるんじゃない、恐れてるんだ。カナの超人的な闘気オーラに)

 

この場に居合わせた人間は、等しく彼女の存在に飲まれていく。

絶対的な力の差を感じている者も何人かいて、後退りそうになった事に気付くと自身を奮い立たせて踏ん張っている。

 

私だって、カナに凄まれたら戦意を保つことは難しいだろう。まして、敵対など考えられもしない。

光の奔流のように悪を照らし出す彼女の姿は、正に遠山家の人間が理想とする、まごう事無き正義の味方だ。

 

そんな私はカナの影のようなもの。カナの動きに合わせて形を変える。

 

フォーメーションは波状強襲ウェーブ・ストライク

 

まあ、私たちの戦いに引き波はないんだけどね。

 

ここからは…タッグだ!

 

 

 


 

 

 

クロの能力はキンジとは違う成長をしていますね。カナのパートナーとしてふさわしい武偵になるために試行錯誤を繰り返し、単独任務の時とは全く別の戦闘スタイルを開拓した結果なんです。

次回は引き続き夜空の星に手を伸ばしていきますよ!