黒金の戦姉妹2話 不可視の存在(後半)
ローマは1日にしてならず
どうも!
今回は後編ということで、前回の続きになります。出ますよ、キンジ(クロ)の技とヒステリアクロモードの秘密(クロモードってアラモードみたいでおいしそう)。
不可視の存在(後半)
今、私は戦場にいる。星空を見上げ、夜もだいぶ更けてきたなと、場違いなことを考えていた。
最近分かったことだが、どうも私は思考時間の余剰範囲で、全く関係ないことを考える悪癖が身についてしまったようだ。
俗にいうマルチタスクの30窓同時起動だ。なんというヒステリアモードの
で、そのカナは私の視線の先、戦場のド真ん中にただ一人。その佇まいは優雅然としている。
対する男たちは私のバラ撒いた不安感とカナのプレッシャーでオロオロと…はしないか、さすがに。
そこは一応その手の道を歩いてきたプロの心得と経験があるのだろう。カナから視線は外さないし、その銃口を持ち上げつつある。
持ち上げつつある、というのは私たちの独自表現。彼らは普通に構えようとしているのだが、極限まで集中した私たちの反射神経はその光景をスローモーションに見せる。
え?集中してなかっただろって?…今はしてるんです!29窓は!
頭のほんの片隅で英会話CDを再生しながら、カナと私はほぼ
パパパパパパッ!
カナが流水のような歩法から、徐々に速度を上げ、
(ふ、不可視の銃弾、手を隠すんじゃなかったんですか!?)
とは、考たものの、見えなきゃ一緒だしな~とか納得してしまう私も私だ。
ちゃっかり空中リロードまで披露しちゃってるし、私は知りません。超能力だとでも思われれば本命への牽制にもなるし。
カナが移動し、さっきまでカナが立っていた場所は男たちにとって何もない場所と識別される。
誰かが居るかもしれない
見事な集団視線誘導が出来上がったのだ。
パパァン!
すぐさまその隙間に滑り込み発砲する。
男たちの意識の外から、カナと同じ不可視の銃弾をお見舞いした。私はカナと組んで任務に当たる時は、
つまり、さっき見ていた空白地帯から時間差で、
もはや彼らはカナだけに意識を向けることを許されていないのだ。
カナが撃ち、私が撃ち、カナが撃ち、私が撃ち……
止まることがない波のように彼らを強襲し続ける、
そして大きくなった波は、彼らを大海に引きずり込んでいく。
私が銃を弾き、カナが弾いた銃を破壊し、武器を失い呆然とする男達へ弾丸を喰らわせて次々と沈めていく。
この死屍累々の状況をカジュアルに表現するならあれだね、フルボッコってやつだ。
―――
私の名付けだが、私が最も多くの人間を追い詰めた技だ。カナと共闘することで最も大きな力を発揮する。ま、ただの初見殺しだけどね。二見さんには会ったことないし。
「さ、下がれ!」
劣勢を覆すことは不可能だと断じたのだろう。この場のリーダーらしき男が指示を出し、建物への撤退を促す。
彼らは注意を夜闇へと散らしてしまっていた。
不可視の脅威ばかりに気を取られ取り乱した結果、この場で絶対に見失ってはいけないモノを捉えられない。
(あ、そのドア開けない方がいいですよ、もう遅いんですから)
と、壊れた銃の破片を記念に拾い集めながら、心の中で警告しておく。ああ、もったいない…。二度とお目に掛かれないかもしれないのに。
男たちがドアを開ける。この場から逃れ、戦いを振り出しに戻せる唯一の退路。そこには、
「なっ!?」
「ヒィッ!」
ハァイみたいに、片手をヒラヒラさせ、にっこりと微笑んだカナが立っていたのだ。目は笑っていない。
こうして作戦開始から2時間も掛からず、制圧は完了してしまった。
そう、この場はすでに大海の中。藻掻いたって、もう地上には戻れないのだから。
「姉さん、結局超能力者は出て来ませんでしたね」
作戦終了後、拘束された男達を連行していく2台の物々しい商用車を見送った。
こんな夜中に警察を呼んだところで何時間待たされるか知れたもんじゃないと、武偵高の先輩をカナが招請したのだが、即応だった。
トントントンと話が進み、あまりに到着が早いものだから出荷前の梱包作業まで手伝って頂いてしまったよ。
しかし、超能力者は現れなかった。
不利と見て逃げ出したのか。いや、カナがみすみす逃走を許すとは思えないのだけど。
「拠点と周辺の建物にもいなかったし、敵勢力は押さえたわ。一応任務としては成功よ。でも…」
「武偵憲章8条、ですよね。分かっています。任務は、その裏の裏まで完遂すべし。私がつかんだ情報です、必ず見つけ出して逮捕して見せますよ。それに」
そこまで言ってコートの袖を引っ張り上げ、右上腕部を露出させた。そこには弾丸による銃創でもなく、刃物による切創でもなく、高温による熱傷でもない。まるで狼にでも噛まれたような咬傷跡が残っていた。
『疫病の矢』――。
超能力者の記憶は一瞬だけだ。やられてからその存在に気付き、その姿を視認できた。
私はたった一撃の不意打ちで戦闘不能へと追いやられ、彼女の所在を探っていたわけなのだ。
「一菜さんがいなければ、もっと広がっていたでしょうね。敵の獲物は
「ふふ、
こうなった以上、情報共有をしておいた方がいいと判断し、隠していたケガを見せたが、傷を見て、姉さんがまた心配したような顔をした。ケガには気付いてたけど、こんなに酷いとは思っていなかったらしい。
(しかーし、私の渾身のギャグで笑わせて見せましたよ!……忘れたわけじゃないです。それより姉さんの語学力の向上速度の方が、私気になります。まさか禁断の裏技なんて使って……)
頭の中のBGMを英会話CDからイタリア語講座のCDに変えた私がそんな疑問を抱いていると、険相を浮かべて車の去った方向を眺めていたカナが、
「クロちゃん、暫くはそのままでいなさい。寝る前と朝、忘れずに
少し厳しい口調で身振りを交えてそんな指示を出してくる。よく分からないが、姉さんにとって重要な事らしく、今回の任務の前にも
ヒステリアモード。それが私の力の源だと聞いているが、その発動には条件があって、姉さんはあまり詳しくは話してくれない。
ただ分かっているのは、私の命綱はこの…
話はそこで終わらない。
カナは親代わりと厳しく育ててくれる反面、なかなかに過保護であり、今回の傷跡は彼女の感情をあらぶらせるのに十分すぎた。「難しい任務は控えよっか?」「学校で腕は痛まない?」と気を揉ませてしまっている。
だから「カナと一緒にお仕事したいです」「少しだけですよ。授業に支障はありません」と安心させるように淀みなく答えていく。
「無茶はしちゃだめよ、今日の精度は88%。そのケガのせいで前よりも4%下がってるわ。発射後の隙もそう、いつもより0.05秒長かったし…」
「はい。傷というより応急処置の後遺症ですから、あと三日程で治るそうです」
任務中に何で私の動きまで把握してるんだ……と考えていたのは組み初めのうちだけだった。その指摘に違和感を感じる事はもうない。だってカナだもん。
0.05秒なんて普通は誤差で済ますんだけどなーと思いつつも口には出さない。だってそのコンマコンマ秒で私たちは敵にイニシアチブをとっているからね。それよりも……
「帰りましょうか、姉さん。現場には長居しないものです」
「ええ、そうね。大丈夫?お腹すいてない?夜食、振舞ってあげるよ」
「私を甘やかさないで下さい!武偵は体調管理が必須です、夜間の飲食なんてそれこそダイレクトに響いて…」
グーーー…
(まずい、想像してしまった!しかも、さっきからイタリア語講座のCDがイタリア料理でループしてるんだけど!パンナ↑・コッタじゃないよ!なんてこ↑った、だよ!)
脳内飯テロに任務以上に苦戦しながらも、結局その日は鋼の意志で我慢し、冷蔵庫のパンナ・コッタは明日の朝一番に食ってやる!と決心して床についたのだった。
昨夜の任務は意外と負担があったらしい。
脚が少しだけ痛む。高速移動の際に地面へ叩きつけた衝撃を受けて膝関節と脹脛がピリピリと痺れていた。
まあ、学校に着く頃には忘れるくらいには治まるだろう。自分の頑丈さだけには自信がある。
歯を磨いて、顔を洗って、朝ごはんの支度をして……毎日銃を握る武偵だって一日の始まりはごく普通なものだ。
私と姉さんは寮や学校指定の貸し部屋に入らず、部屋を借りて同じ場所に寝泊まりしている。
経済事情から考えれば寮にお邪魔する方がいいのだろうが、「私が全部払うからここに住んで頂戴」と、カナに有無を言わさぬ形相で念をおされたため、「ちゃ、ちゃんと半分は払いますよ」と言って一緒に住むことにした。
あれは怖かったな、必死感が凄かった。姉さんが寮に入らないのは……事情は知ってるけど、私はそのサポート係かな?と一人で納得している。
ちなみに移動費と宿泊費の滞納金は任務で稼いで既に返済済み。家族に借金なんていけないことだと思う。
家事も何も役割分担。家長だからって姉さんに頼り過ぎはよくないし、帰国早々お婆様のお小言は喰らいたくない。女性は家事が万能じゃないとね、大和撫子、万歳。
(大和撫子と言えば、あの子…何雪ちゃんだっけ、長女のかざ……いや白雪ちゃんだ。なつかしいな)
昔、東北の花火を一緒に見に行った緋袴の少女を思い出す。
元気にしてるかな。
ノスタルジーな気分に浸りながら、今日の当番である朝食の準備を始める。すっかり習慣になりつつあったカフェ・エスプレッソの準備を仕掛けて、手を止めた。
(おっと、あぶないあぶない。コーヒーじゃ
ニヤリと笑う。笑いが止まらないのだ。
私はキッチンに入り
私が開けたのは炊飯器のふただったのだ。純国産の日本米、イタリア産の日本米ではない。なんとこだわって、炊飯器まで日本の製品を使用しているのだ。米、コメ、おこめ!まさに垂涎の一品。
昨日の空腹感がずっと待ってたぜ!とか言いながらはしゃぎ出す。まあ、待ちたまえ。お米を美味しくいただくには
お腹の虫から許可を取り付けた私はみそ汁を作り始める。味噌のいい香り。これも日本の物だ。強いて言うなら、水も日本の物が良かったけれど、そこまで贅沢は言うまい。
「うん。味はこれくらいで良し!」
朝にパパっと作るものなので根菜は入っていないが、魚粉出汁の調味料と長ネギの香り、味噌に浮かぶ真っ白な絹ごし豆腐はこの味噌汁が完成品であると目と鼻に訴えかける。
テーブルにはすでに新鮮な生卵と、切り分けた私特製のキュウリの浅漬けと梅干しも並んでいる。完璧、まさに日本の食卓!
あまあまパン+コーヒーの生活は私にはハードだった。
味噌汁が出来上がり、よし盛り付けるか、といったあたりで姉さんが部屋から現れる。
睡眠期は迎えてないから、ぐっすりは眠ってないんだろうけど、無防備な彼女は制服の襟が立っている。
その様子は油断している……というより寝足りなくて疲労が残っているような?
「おはようございます、姉さん」
「ええ、おはよう、クロちゃん。私にもカフェを貰え…」
そこまで言いかけて姉さんは言葉を切った。瞬間、フニャっとしていた目は鋭く、テーブルの上のおかず達を捕えている。
やばいね、姉さんにあの目で見られたら私でも逃げられそうにないや。
私と同じようなことを考えたのだろう姉さんはすぐさま洗面所へ向かう。いつもならコーヒーを一杯片づけてからのんびりしてるのにね。
さっきの視殺戦の勝者は朝食だったらしい。お米の魔力、恐るべし。
味噌汁の火を止め、盛り付けるが早いか、姉さんが戻ってきたので。
「先に髪を整えちゃいましょうか」
「え?あ、ええお願いね、クロちゃん」
(毎日の習慣を忘れてる!)
驚きつつも姉さんを椅子に座らせ、櫛を通して栗色の髪をほどいていく。
さりげなく横に回って、心地よさそうに目を細めるその横顔を眺めた。
長く揃った睫毛、高く通った鼻筋、私の視線に気付き細く開かれた瞳は紺碧の海のように澄んで、窓から差し込む光を浴びて輝き出す。
金縛りにかかった体が自由を取り戻したのは、どうしたの?と笑いかけてくれたから。
早まった胸の鼓動が一周回って正常に戻ったらしい。
うん、今日も姉さんはきれいだ。役得役得。
少しばかり空腹を忘れ、姉さんの髪を編んでいると、
「ねえクロちゃん」
どうしたのだろう、少しだけ真剣な様子だ。昨夜のことで何か話があるのだろうか。
「どうしました?」
「クロちゃん、いつだったか言ってなかった?今日、チームのみんなと朝練があるって」
「えっ」
「えっ」
2人して固まる、私と姉さん。姉さんの顔は忘れてたの?と言いたげに苦笑いだ。
(朝練……朝練……ッ!!)
わ・わわ・わ・わ・わわ……
「わーーーーーーすれーーーーーーてたーーーーーーーー!!」
猛ダッシュで駆け抜ける私は、頭の中で
いける、間に合う、大丈夫。『Never give up.』ほら英語の先生も応援してくれてる。
間に合わないとやばいんだって!狙撃されたくないよ!
ローマ武偵高には建物の中央に中庭があるらしいが、武偵中の中央にも似たような中庭が用意されている。おそらく同じようなつくりにすることで諸々の暗黙の了解なんかを中学のうちに学ばせようとしているんだろう。
高校には歴史的建造物があると姉さんが言っていたので、こっちの中庭はついでなんだね。
そこではやたら開始の遅い授業までの待機時間を、訓練や暇つぶしに使えるように開放してある。開放といっても暗黙の了解で、学年によって使える範囲が極端に違うんだけどね。
日本のサラリーマンよりも時間に追われている私は中庭に向かって一直線、私が走ってるのは見慣れた光景なのか、すれ違う生徒は「またあの美人の方の日本人が走ってるよ」みたいなことを話している。
うん、ごめんね。でも走っちゃダメって校則を作らなかった偉い人を恨んでね。その人が校内での発砲を禁止しなかったせいで、今私は走ってるんだから。あとその「~の方の日本人」ってやめて。一菜さんが不憫だよ。
ズザーーーーーーーーっ!
盛大に砂埃を上げて、中庭にエントリーする、時間は…ギリギリセーフ!『Victory!』
「おー!クロちゃんギリセーフ!登場の仕方もかっこいいしコレは高得点が期待できますねー」
ぱちぱちと手を叩きながら、実況の物まねをしているのは、三浦一菜。通称「ちびっ子の方の日本人」。
と言っても身長が低いわけでない。きっと性格が子供っぽいからだろう。胸は関係ないはずだ。
「クロちゃん、おっはよー!てっきり遅刻して的当てごっこが始まるかと思ってたよ」
「縁起でもないことを言わないで下さい」
「でも、クロちゃんなら1時限目まで逃げ延びられるんじゃない?」
「あの狙撃手からじゃ、私でも荷が重いですから。だいたい、この前だって1分の遅れで射撃って、しかも狙撃銃なんか喰らったら防弾繊維だろうが体ごと吹っ飛びますよ!」
愚痴とまではいかないものの、少々物言いさせて貰いたい。
チーム内での発砲事件は控えてくれないものだろうか。痛い以前に危ないから。
彼女なら狙いを外す心配も必要ないと分かっていてもね、銃にもご機嫌があるんだよ。
それを聞いた一菜はのんきに笑っている。
自分だって被害者なのに、私よりは圧倒的に回数が少ないけどさ。
「笑い事じゃないですよ!」
「まーまー、笑う門には福来るだよー。あ!ルーチェぁん、おはよー!」
こちとら福じゃなくて弾来てんですよ。
門に来るどころか不法侵入の挙句、笑顔の住人向かって一直線に襲い掛かってるから。
言語は通じるのに話が通じないチームメイトは一方的に会話を終え、中庭の片隅で読書をしている女子生徒のところへ走って行った。
集合場所から離れたあいつはもう遅刻でいいんじゃないかな。
「……クロさん、おはようございます」
「げっ」
(いらしてたのね)
ゆっくり後ろを振り返ると、そこには件の狙撃手様が仁王立ちでこちらを睨みあそばせていらっしゃる。一菜や私とは違い、ドイツ人の彼女は欧州人特有の真っ白な肌、
目にかからない位置に切り揃えられた髪は…なんと表現すればよいのか赤味がかった灰白色。ちなみに以前に瞳の色を「綺麗なガーターブルーだね」といったら銃口を向けられたので瑠璃色と呼称している。
「お、おはようございます、フィオナさん」
「おはようございます、今日はギリギリセーフということで早速始めたいのですが、よろしいですか?」
頭に被っているベレー帽のポジションを直しながら、いいよね?と言いたげな視線を送ってくる。
あのベレー帽はおしゃれらしいが、帽子の下には彼女の特技というべき特徴が備わっている。要はそれを隠しているんだろうな、本人は気にしてるみたいだし。
朝食を食いっぱぐれたお腹は空いているが、まあ、時間通りなのだから仕方がない。
始めるか、とお腹の虫と共に腹を括ろうとしたところ。
グーーーーーーー…
お前は俺を騙した!絶対に許さんぞ!とばかりに大暴走。う、なんか目も回ってきた。
視界に映るフィオナの顔が驚きから徐々に苦笑いに。くっ、なんという屈辱!えーい静まれい!静まらんかー!
遂に彼女は見ていられなくなったのか目を背け――ん?これ、チョコレート?――を差し出してきた。
「フィオナがチョコレートあげてる!?」
こそっと戻って来ていた一菜が飛び上がらんばかりに驚いているが、確かにこれには私も驚いた。
「V
たまらず言葉が倒置法になっちゃうくらい驚いている。
フィオナは答えないがプルプル震えてるし、ちょっとだけ見えてる顔の端も赤くなっている。突発的な発熱による意識混濁状態かもしれない、よって自己防衛のためにこのチョコレートをそのまま受け取ることは危険だとの結論が出た。
だがおそらく彼女のことだ、ただ断ればきっと意地になってしまうだろう。
……よし、作戦は決まった!
「フィオナさん少し時間を頂けますか?確か今日はフォーメーションの見直しと、私と一菜さんの合図の改善の話し合いでしたよね」
「はい、そのつもりです」
こっちを見る気は無いんだな。なら強引に行かせてもらう!
差し出されたその手ごとチョコをつかみ、反対端を自分の手で持って、パキッと
「ありがとうございます、チョコレート半分頂きますね」
「あ…。う、うん」
私が放した手元をみて少し名残惜しそうにしている。やっぱりチョコが半分になって悲しくなったみたいだね。ふふふ、そこまでは予測済み、そしてあなたはこっちを向いた。次の一手で
素早い動作で彼女の頬に触れ、目を逸らされないように固定。身長差があるから少しかがんだ私は、話し合いならここでなくてもいいですよね?って意味も込めて。
「一緒に
私の最大級のイケメン顔で、決め台詞。
カフェに行けば軽食も食べられるし、チョコレートのおかげで奢る口実も出来た。そしてドイツ人は「奢られることが大好き」な人が多い。
彼女も例に漏れず倹約家であり、この前ご機嫌取りに夕食に誘ったら、飛んでくんじゃないのと思うほどの勢いで首を上下に振っていた。食後はそんな高い店じゃないのに、すっごいお礼言われている。
案の定、彼女はコクリと一回頷いたっきりもう怒り出す気配はない。勝った!
「うっはー…噂たがわぬたらしっぷりだー」
「ねーねー、なんであたしは口説かれないの?あたしにも奢ってよー」
「ちびっ子は口説かれません。お店にちくわでも置いてあったら奢ってあげますよ」
厚かましい子は知りません、と息巻いて行ったら。え、あったよ。
おいしいもんねちくわ、きっとヒット商品になるよ。
悔しいけど私の分も頼んでみたら、大きな丸皿に、縦半分と斜めスライドでキレイに切り揃えられた竹輪にフロマージュとミントを載せて、バジルなんかかけちゃってるよ。なんか無駄に高級そうに見えるし、イタリアン恐るべし…。
……あれ?
結局フィオナの具合は戻らず、本日の朝練はバールでのんびり過ごすのだった。