黒金の戦姉妹4話 黄金の残滓(後半)
どうも!
今回はおまけ増量です。本編がシリアスムードなので思いっきりふざけました。
疫病の矢との戦いが始まります。おふざけ回と違ってなかなか執筆が進まない進まない。結局休み丸々使って、キャラ紹介も作れてない体たらく。
でも、書き終わるとすっきりしました。
少しでも多くの人に「あーハイハイ、オモロー」って言ってもらえれば、と。
では、始まります。
~殺生石伝説~
語り部:三浦一菜
合いの手:遠山クロ
パオラ
クラーラ
ガイア
むかーしむかし、あるところに、子宝に恵まれない一組のかっぷるがおった
「カ、カップルっ!」
「落ち着けパオラ、まだ一文目だぞ」
「一菜さん、それ出来ちゃった婚前提の話なんですか?」
「で、で、で!出来ちゃった結婚!?」
「パオラ落ち着いて、カップルはもう結婚してる」
「クロももうちょっとオブラートに包んでやれ」
なんかいつの間にか子供が出来たそうな、
「人体の神秘ですね」
「未知との遭遇」
「子供向けだな」
「あわわわわ…」
その子供は大変可愛らしく、また賢く良い子だったので、お爺さんもお婆さんも、それはそれは
「一気に平均年齢上がったな」
「結構長い間、苦悩してたんですね」
「待って、それ普通に自分たちの子じゃ…」
そのおなごの名前は
「お二人の努力の結果ですね」
「カワイイは生菓子、美人は天然素材」
「クラーラさん、ひっどいこと言いますね」
ついにその噂は宮廷まで届き、18の時に無事就職を果たした
「国中に広がってやっと気づいたのか。諜報はなにしてたんだ」
「クロさん、このころはニンジャはいなかったのですか?」
「おそらく、まだ体系化されてはいないでしょう」
とうとう女官という地位ににまで昇りつめた若藻は、名を"
「なんという
「し、死んでないですよ、クロさん」
「玉はどっからきたんだ?」
「玉のように可愛らしいとか、美しいとかだと思いますよ」
しかし、ある日そのお偉いさんが原因不明の病に、倒れてしまった
「昔の医療技術では厳しいでしょうね。ほとんど悪霊のせいにしてましたし」
「
「どこも似たようなもんなんだな」
そこに陰陽師である"安倍泰成(晴明)"があらわれ、「こりゃあ、化生のしわざじゃあ」といい、祈祷を始めおった
「
「日本にもそういう類の人がいるんですね」
「確かに、昔の日本になら
「「「「おー」」」」
それから時は経ち、悪さを続ける玉藻の前に、ついには朝廷も討伐軍を集結させ、那須野へと討って出た
「熱い展開になってきたな」
「勝てるんでしょうか…」
「銃が無いと厳しい」
「それ
結果は惨敗、九尾の妖狐が
「…なんか魔女と戦う先輩思い出した」
「しーっ!聞かれたらどうするんですか!」
そののち、生き残った討伐軍は、徹底的に対策をたて、再び九尾と相対した
「友軍の弔い合戦ですね!これは負けられないですよ」
「いったいどんな戦略を?」
「馬に乗って追い続けて、休む暇もなく弓矢で射続けるハズです」
「クロ、お前この物語知ってたのか!」
「……少しだけ」
長き戦いの末、九尾は弱り果て、幻術も使って抵抗するが、ついには放たれた矢に体を貫かれ、刀の一刀によって死んだのだった
「う、勝ったのに、キツネの姿を想像したら罪悪感が」
「パオラ、作戦上仕方のないこと、彼らは武偵じゃない」
「う、うん」
九尾は最後の抵抗に、自らの姿を毒の岩に変えて近付くものの命を奪うようになった。人々は恐れ、その岩を"殺生石"と名付けて近付かぬようにしたそうな
「死んでなかったのか?」
「妖怪は生き死にの概念が人間とは違いますからね、おそらく死んだのは若藻としての九尾なんでしょう」
「よ、よかったぁ」
「この場合の作戦は成功?」
「作戦目標がいないから契約自体不成立になるんじゃないですか」
「
時代はくだり、はるばるこの地を訪れた和尚――玄翁――は村の皆々の願いを聞き入れ、殺生石を割ってみせた
「素手!?」
「いえ、杖です」
「それでも普通じゃない」
割れた殺生石はぴょーいとふっとんで、あるものは伊勢に、またあるものは越後に、北は
「ぶ、物理寄りのエクソシストさんですね」
「戦闘民族だな」
いまでも那須野には、割れて残った殺生石のかけらと、玄翁和尚が踏ん張った足跡が残っているそうな……「ってことで、これがその"殺生石"のかけらのひとつでーす!」
「伝説だろ?眉唾ものじゃないのか?」
「日本の
がさごそ、カラーン
「そーいう事!さあ、みさらせ。あ、絶対触っちゃだめだよ?」
「分かってますよ、一菜さんの家の家宝ですもんね」
「それだけじゃないんだよなー。殺生石って名前は、看板に偽りなし、なんだよ」
「し、死んじゃうんですか!?」
「だいじょーぶだいじょーぶ。すぐには人体に影響を及ぼさないから」
「放射線でも出してる?」
「そんな危ないモノ持ってこないよ!持ってるだけでお家取り潰しになるじゃん!」
「何でこんなもんを家宝にしてんだ?」
「その石はあたしが生きていくために必要な物なの。家宝にして大切にしてるのも、あたしみたいに"呪い"が発現する子供が生まれるから」
「…呪い?」
「九尾の妖狐なんて大妖怪が、敵の大将首になんもしなかったわけがないでしょー?」
「それって一体どんな――」
ガゥン!
――パパン!
一菜が接近しながら左右を撃ち、逃げ道を奪う。それが分かっていた私は、先んじて牽制用の射撃を1発――狙いは左肩。
ガゥンガゥン!
続けてバランスを崩すために今度は2発――反って避けた時用の右脇腹と、屈んで避けた時用の右膝への射撃。
計5発の銃弾が"疫病の矢"に襲い掛かる。動かなければ3発命中し、たとえ避けたとしても大きくバランスを崩す。
人間は危険が迫ると咄嗟に、一番防御力の高い亀のポーズを取ろうと前傾姿勢になるが、反って避けるつもりらしい。
だが、それは予測済み、右脇腹の銃弾を避けるためにはもっと体を傾けなくてはいけない。
人間の重心は下に下げる程安定する。スポーツや武道で腰を落とすのはその為だ。直立した状態ではさっきの私のように、弱い力で簡単にコマみたいに回転させられてしまう。
バランスを崩したら一菜がフロントを取れる。無事3on3に持ち込めそうだ。
(その避け方は悪手でしたね)
スローになった世界で、疫病の矢の重心がズレ、下半身が体を支えきれずに転倒する直前――
ギュルルルルルルルルッ!!!
まるでフィギュアスケートの選手のように腕を体に巻付け、体の中心を軸にし
美しい髪が宝石を散りばめたように、幻想的な軌跡を描く。
ギィン!ギギィン!
靴からだけではなく制服から延びたベルトが鞭のようにしなり、私の銃弾が全て絡み取られるように弾かれる。
このままだと…まずい。
「"一菜、下がれ!"」
「!」
慌てていたこともあり、つい日本語で指示を出してしまった。口調も男っぽい。
――一緒に戦ってたのが一菜で良かった。
勢いが増した
ベルトの触れた教室の壁が、抉るように削られていく。おかげでベルトの二重振り子を嫌った疫病の矢がベルトを縮めていき、回転もメリーゴーランドくらいの速度まで落としていく。
その目はこちらを見据えて、でも何も伝えたいことがないような無表情。まるで踊らされるまま踊るお人形さんだな。
「クロん、なんか見えた?」
奇襲による接近の失敗を悟った一菜が、隣に戻ってくる。
「見えない。いや
あれは異常な光景だった。
体を反っていき、倒れる。そう思った瞬間に見えないダンスのパートナーに手を引かれるように体勢を立て直した。
それだけじゃない。起き上がった彼女はそのままエスコートされ、ダンサー顔負けの回転を見せたのだ。
そして回転はドンドン
角運動量の保存という法則がある。これは回転する力、すなわちトルクは回転軸の太さと回転速度で求められることから、
フィギュアスケート選手がスピンで加速しているのはこの法則に従っているからである。
彼女も同様に腕を折り曲げていたが、その加速は明らかに法則を逸している。ゴボウになったって、あんな速度には至らない。ということは何かしらの外力が加わっているとみて間違いない。
だが、その正体がわからない。
(おまけにあの
壁の傷からその原因に視線を戻すと、そんなことを考えているのが分かっているのか分かっていないのか。
優雅な
制服のあちこちからベルトが垂れており、着付けに失敗した着物よりも情けない有り様だ。気が抜けるよ。
なんでだろう?心なしか、
(疲れ?魔女は力を使うほどやる気を失うのかな)
そんなことはない…と思う。少なくとも過去に対峙した
どちらも
吹き矢を警戒して、接近戦なら押し切れると踏んでいた分、この衝撃は大きい。
一菜も同じ考えなのか、仕掛けるようなことはせず、次の相手の行動に注目している。
(遠近両用なんて!話が違うよ!)
一菜風のセリフが思い浮かぶ。敵対関係に嘘吐きも何もないが、これは言わせて欲しい。だってずるいもん。
名称もあれだね、疫病の矢だと不適切だね。
この伏名は"
体も凶器であるならこの名は修正の必要がある。
隠す必要がない場合は、珍しい瞳の色から
怒って狙撃銃向ける人の方が怖いよ。
(なにがいいかな?特徴は…吹き矢の筒と高速回転の矢、あと無気力とトパーズとエメラルドと…ベルトとお人形と
強力な遠距離攻撃、隙の無い近距離防御。どちらにも
あの力は回転によってもたらされたのだ。吹き矢による私の腕のケガも、ベルトによる壁の破壊も。
ではその回転の根源はどこにあるのか?魔力はどこに宿っているのか?
吹き矢を撃たれる瞬間は見たことがない。しかし無意識に狙った矢羽がなくなった時、矢は回転を止めた。
回転する前に彼女は体を反らせた。その後反動を利用するかのように回転を始めた。
もう少し、あともう少しで何かが分かりそうな気がする…
パシュッ!
―ギイィイン!
金属同士をぶつけ合ったような音が教室に響く。
私の様子を見た一菜が、時間稼ぎに仕掛けたようだ。
今撃たれたのは一菜の方で、彼女の
あの人、銃を隠し持ってたのか。
パパン!
敵の銃撃にも引かず突っ込んでいく、一菜の戦術は近距離一辺倒なのだ。中距離の銃撃も出来なくはないが、彼女が一番得意とするのが超至近距離でのガン=カタである。
銃を使った接近戦――よりもさらに接近した銃を使った
「バカな!」と思うかもしれないが本当にバカである。
多少の銃撃では、彼女を止められない。射撃線を見切る力も高い上、何より彼女は銃弾を
もともと悪環境に強いSIGサウザーの銃に、物理的な頑丈さを無理やり取っつけたもので、銃マニアが「その子を解放してあげてください、お願いします」と泣いて懇願して来そうなくらい、原形がない。
その総重量は12kg。2丁合わせればそんじょそこらのロケランや汎用機関銃よりも
これが固いのなんの、どんな圧縮加工を施したらそんなに小さく収まるのかと最初は驚いた。今でもわっかんないけど。
もちろんそんな銃を
例えば女子中学生がいたとして、この6kgの重りを持って下さいと言われれば、ブリっ子でなければ何とか持ち上げることは可能だろう。
ただ、それを持ったまま
これは生体エネルギーの消費や筋肉の疲れ云々により、継続して力を発揮し続けることが出来ないから、つまり疲労による限界である。
彼女にはそれが存在しない。
ザックリ言うと、人の体の中では解糖系が
さらに強度の高い運動を行うと、他に余剰ピルビン酸やリン酸も同時に発生し始める。このリン酸が疲労の原因だ。
余剰ピルビン酸は乳酸となり、肝臓でブドウ糖に変化して、また解糖系に戻って消費される。
学術的に言えば乳酸シャトル説やコリ回路と呼ばれているものだが、糖のエネルギーの
ここで"環"の中に"
1つ、その臓器は体内のピルビン酸を生体エネルギー源に変化させる回路を活性化させる
2つ、その臓器は生体エネルギー源の分解・結合の触媒として機能する
3つ、その臓器は分解によって生まれたエネルギーを蓄える役割を持つ
はい、簡単3ステップ
「糖分で、疲れ知らずな、馬鹿力」
分かり易いでしょう!
あの無茶苦茶な戦い方も、体内で無尽蔵に作り出されるエネルギーを効率よく発散させる彼女なりの戦略なのだ。
彼女の力は時間が経つとともに増加し続ける。何をしても、何もしなくても。
私の
―――そして、呪われた
彼女の力の源は心臓にある。分かるのはそれだけだ。
時間と共に死に近づく。だから自分の力を弱めてでも
(深刻になる必要もないけどね)
彼女は"御守り"と呼んでいるが、下山を行うために必要な鍵はもう見つかっているのだ。
"殺生石"は触れた生物の生命活動を鈍らせる、砕かれる前は近付いただけで危ないモノだったらしい。
伝説では毒の石だとか言われているが、少量の毒は
その右腕のおかげで彼女と共に戦うことが出来る。
ガゥン!
遠距離に逃がすわけにはいかない。
追撃を避けるために、窓へと向かった疫病の矢の前方に一発撃ち込む。
「っ」
こちらへの警戒も怠っていなかったのか、足を止めて立ち止まる。
「うっらぁー!」
パパパパン!
直前に足を止めてしまっていた彼女は、屈んでその銃弾を避けた。
一菜が接敵する。当初の作戦通り3on3、その口火を切るために。
自身を犠牲にしてでも、またあの技を使わせようとしている。私なら次で見極められると信じてくれたのだ。
(あなたらしいですね。何があっても、その時は私が守ります!)
これまでにない集中力。頭の中が水底を見渡せる程、心穏やかに落ち着いていく。
スーパースローになった世界で、全ての状況を理解する。
――疫病の矢があの技を使う準備をしている。
――一菜は私を信じてその技を受ける覚悟を決めている。
――私の手にはベレッタM92FSとマニアゴナイフ、そして
一菜と疫病の矢は2歩、私と疫病の矢は
疫病の矢が回転を始めるまで、0.2秒、回転を加速させベルトが一菜に届くまで0.05秒。
時速100kmでの移動で接敵まで0.252秒。
私の到着はすでに相手の回転が始まっているうえに、一菜を守るのに0.002秒の遅れが出る。回転を始めたら銃弾は効かないし、ナイフを持った腕を伸ばしても
―いや、違う!間に合う。コマの対策はまだ出来てないけど、間に合うんだ!跳んだあとは、その時に何とかして見せる!
私は地面と平行に、疫病の矢に向かって、一直線に跳んでいく。そして自身の加速も利用し、左手のマニアゴナイフを疫病の矢に向けて投擲した。
疫病の矢が回転を始める。先程と同じ、何かの力に引かれるように、体を瞬間的に起き上がらせて、反動をつけたような回転だ。
ギュルルルルルルルルルルルーーーーーーー!!
加速、加速、加速、加速加速加速加速加速―――
もはやスーパースローの世界でも彼女の顔を認識できない異常な速度に到達した。
そして十分な回転を得て、一度縮めたベルトがまた一斉に、射出するように繰り出される。
ほぼ同時に私は一菜を追い越した。
いくら私でも、この刃の全てをつかむことは出来ない。
なら止めるしかないのだ。本体を?違う、
そう、
その場所になら届く、そして動力を止めさえすれば無茶でもなんでもやってやるよ。
私は左手に、襟首の後ろに隠していた
ガガガガガガガガゥン!
二丁の銃で撃ちまくった―――空中にあるマニアゴナイフを。
銃弾が直線ではなくナイフに弧を描かせるように一発ずつ当たる。次の弾丸とナイフの軌道を合わせ、8発全てが当たるように。
力を受けたナイフは一発ごとに加速し、向きを変え、すでに疫病の矢には向いていないが、これでいい。
(動力は――そこだ!)
ヒュンッ、スパッ!
ナイフは彼女の髪の毛を掠め、そのトパーズの輝きの中から、隠されていた
途端に疫病の矢は回転を弱めていき…認識できるようになった彼女の顔は驚愕に歪んでいる。
やっぱり
彼女が体を反らせたのも、屈ませたのも、理由は分からないが、おそらく染めていない地毛を空気中に露出させるため。
私が無意識に矢羽を狙ったのも、あの髪が矢羽に紛れて輝いていたから。
ギュワッ!
惰性回転の刃が迫る。まだ、十分な殺傷能力はありそうだ。
(後は…ちょっとだけ無茶しちゃおうかな……ん?)
右上方から…なんだこれ?――ああ、一菜の銃か――が、落ちてくる。
なるほど、よくできたチームメイトだよ。こんな鈍器を私に使えと。
両手の銃を宙に放り、SIGP226だったものを手に取り
「うっらぁーー!」
一菜と同じ掛け声で一番下の刃を上方へ、すくい上げるように弾き飛ばす。
続々と押し寄せる刃は、刃から盾に変わったベルトに絡まって、スクリューみたいにツリー状にグルグルと巻付いていった。
とりあえずこの重いもんも、ぶん投げとこう。
シグに別れを告げ、両の手に
「クロんなら、やれると思ってたよ!」
ヒュボゥッ!
一菜の殴打が、おおよそ人間が出すようなものではない風切り音をたてて、襲い掛かる。
疫病の矢は窓とは反対側に飛び退けたが、
ガゥン!ガゥン!
「あららっ」
――休みは与えない
パン!
一菜の銃撃を避け、こちらに少し近付く――
――――――
「
「はい、仕留めます」
――――――――――
シュビッ!
右足で蹴りかかるが、左脇を抜けるように前転して躱される。
パン!パン!
一菜の追撃が入るが、2回前転から腕の力で跳ね上がって回避し着地する。
もう疫病の矢はどちらの範囲でもない。なら…
――――――――――――――
ガゥンガゥン!
続く銃撃が疫病の矢の体を窓側に向くように、
これで終わりだ。
「
チュチュチュチュン!
「……あらあら…大した腕だこと」
――――ダダダダァーン!
疫病の矢が動きを止め、両手をヒラヒラと私たち――と200m先、木の枝に
彼女の足元には前後左右をフルオート
「なにか言いたいことはありますか?」
銃を向けながら、洋画のようなセリフで最後の勧告を行う。これでとぼけるようなら、ホントに教務課やら尋問科(高校のみ)やら殲魔科にでも突き出してやりますよ?
「あらあら、じゃあ1つだけ」
「どうぞ。見逃がしてとかはないですよ」
「うふふ、そんなこと言わないわよ。今回は私の完敗、惨めなのはいただけないわ」
ほほう、殊勝な心掛けです。おにぎりの件は不問にしてあげましょう。
「ねーねー、魔女さんの名前、なんて言うの?」
「私の…名前?そんなものが気になるのかしら」
「気になる!せっかく手合わせしたんだし、知りたくなるじゃん!」
「…うふふ、それはまた今度ね?………せんぱーい、私、負けてしまいましたわー!」
私と一菜は眉をひそめる。
「…仲間でも呼ぶ気ですか?」
「ええ、そうよ。そういう約束だもの」
「ちょっと、それは勘弁だよ!」
「とりあえず、一人だけでも捕えときましょう!」
フィオナに ゾウエン キタ の合図を送り、捕縛作業にはいる。
ぐーるぐるぐる、ぐーるぐる
自身は全く動く気が無いようで、自分のベルトでグルグル巻きにされていく。もうこれ梱包作業だよ。
こっちが悪いことしてる気分…ほんと食えない人だなぁ。
なんか居た堪れないので、倒れてケガをしないように静かに横たわらせてから。
「一菜さん迎え撃ちます。外はフィオナさんに任せてるので、一菜さんはドアを。私は窓からフィオナさんのいる木までの直線を警戒します」
「あれ以上の魔女が来たら、どうするの?」
「何とかするしかないでしょう、人を呼べば犠牲者も増えますし、あの人をみすみす置いていくわけにもいきません」
「…だよねー」
魔女を見逃したなんて話が上がったら、中学生の身空で殲魔科への強制送還+洗脳的指導を施されるに違いない。敵前逃亡も、許されないだろう。
(来るなら来い、私はもうヤケですよ!)
コン コン コン
お、だれか来た……って、たぶん先輩とか呼ばれてる人だよね?なんでノックするの?
この学校、いつの間に
「はいはーい、あいてるよー」
ガラララッ!
おのれ天然科!私のチームまで浸食するか―――
――はい?
「わざわざありがとう。クロちゃん、お昼ご飯は食べられた?チュラちゃんが張り切って握ってくれたのよ?」
「と、ととと、遠山カナ先輩!!」
「姉さん、なんでここに!」
「なんでって、後輩を…あら?ここにいるはずなんだけど」
びっくりした。良かった一菜がドアを開けてくれて。危うく姉さんに銃を向けるところだった。
それにしてもここにいた後輩って、あの3人組位しかいないと思うんだけど。
「せんぱーい、ここですわー」
出荷準備完了状態のイタリア人形がうねうね動いている。まさしくホラーだ。
「?……!そこにいたの?」
「捕らえられてしまいましたの」
いかん、絵がシュールすぎる。一菜は緊張で固まっちゃってるし、フィオナはもう木にいないし、場に天然しか残ってない!
「これはどういうことですか?」
「ごめんね?どうしても昨日の内に片付けたくて…やっちゃったの」
「…はい?」
「この子を捕まえて問い質したんだけど………同業者だったわ」
「ど、同業者って…」
「パレルモ武偵高所属1年、諜報科と殲魔科を専攻。まあ殲魔科は魔女狩りにしか出席してないから単位不足みたいね」
「待ってください!武偵?高1?この人姉さんより年下なの!?」
「そういうことね、お人形さんみたいで可愛いから
「!」
「あらあら、カワイイだなんてそんな…嬉しいわ、先輩」
なんか、裏で動いてるんだな。取引があったっぽい。
よくわからないけど、ローマ武偵高はきっと強力な魔女の存在を察知したんだ。
戦力を集めている…この学校に。
気付けばもう昼休みは終了の時間、嫌な予感を感じながらも、私たちは普段の日常へと戻る。
そうだ、これが
クラスに向けて去っていく。
私の後ろには
黄金に輝く黄色い花、ジネストラ。
裏の世界で私につけられた名が
「
私もカナも
かつて2人の将軍がいた。彼らは名を
2人は弓の名手であり、朝廷の命を受けて九尾の妖狐を追い詰めていた。
安倍泰成の法力を受け、さらに馬上から射られる矢に、然しもの大妖も徐々にその力を弱めていった。
ついに三浦介の放った矢が、妖狐の脇腹を、首筋を射抜き、その体に傷を付ける。
これ好機と、上総介が刀を抜き、その体を一刀のもとに切り捨てた。
得意の幻術も安倍の前には通じず、絶望した妖狐は死に際に"
その身を大きな岩へと変え、近付くものを皆、殺していったのだ。
「この地はあの方の大切な場所、汝らに渡しはせん!」
岩から響く声は、幻術の効かない安倍氏には聞こえなかったようだが、2人の将軍にはしっかりと聞こえていた。
聞こえてしまった。最後の、最後の
見えてしまった。今では岩になってしまった妖狐の流す、一筋の涙が。
感じてしまった。ゆっくりとその生を終える彼女の鼓動が。
殺生石は近付くものを皆、殺していった。
それは……それは果たして本当に………
―――彼女が望んだ事だったのだろうか?
呪いは三浦の子孫を苦しめた。
殺生石は三浦の子孫を救った。
まるで殺生石を集めさせようとしているような、何かをさせようとしているような。
殺そうとしているのか。
救おうとしているのか。
いつか、会ってみたいと思う。
クロガネノアミカ、読んでいただきありがとうございました!
巻頭にも書きましたが戦闘パートです。一菜、疫病の矢、あとちょっとだけフィオナも活躍しました。
クロ……というよりローマ武偵中には殲魔科はやばい、という噂が広がっています(間違ってない)。東京武偵高の三大危険地帯が強襲科・地下倉庫・教務課なら、ローマ武偵高の三大危険地帯は諜報科・殲魔科地下協会・教務課とかどうでしょう?
3on3とはバスケのこと、戦場(コート)が狭く、閉所である場合に用いる作戦で、ターゲットが自身の2歩以内に入ったら近接戦に、離れたら援護射撃に、どちらの範囲にも属さない場合は、遠距離からの銃撃(スリーポイントシュート)でフィオナの射撃ポイント(ゴール)に誘導する作戦。
あくまで目的は、フィオナの射撃ポイントにターゲットを誘導(ドリブル)することで、相手の獲物が分からない時の備え、もしくは未知の攻撃から身を守ることに重点を置いています。ターゲットが戦場から離れようとするとフィオナが足止め(スローイン)します。
前3というのはクロのナイフと一菜の手甲銃二丁。後3というのはクロのベレッタ二丁とフィオナのライフルを指しています。
なにやら不穏な雰囲気、ヨーロッパは魔女がいっぱい潜んでいそうですね。クロのステルシー経歴はどうなってしまうんでしょう。