まめの創作活動

創作したいだけ

黒金の戦姉妹8話 二人の戦姉妹(後半)

どうも!


パッキンアイス、コーヒー、チクワばっかり摂取しているかかぽまめです。
こーひーまめになりそうですわ。


前回に引き続き、事件の解決に向かって進んでいるところからですね。

書いては消し、書いては消し。書いてるうちに寝落ちしたり……
文章の繋がりにおかしいところがあれば、スルー推奨です!


では始まります!




二人の戦姉妹(後半)

 

日は落ちた。

 

世界はこれから、闇に向かう。

 

 

空に浮かぶ星々の光も、突然の雨雲に遮られ。

地上を歩く人々の営みに、月明かりさえも届かない。

 

 

 

今宵は荒れそうだ。

 

だって、嫌なことは続くのだから。

 

 

消え始めた街の明かりも、きっと確変中の確定ボーナス演出。

何かが起こる、その前兆。

 

 

 

今宵はどこまでも深い闇に、全てが飲み込まれていく。

 

だって、あの暗雲がこの街を覆いつくすのだから。

 

 

 

 


 

 

 

 

――ポツリ。

 

 

 

火照った左頬に、何かが当たる。

 

 

ポツポツ、ポツポツ。

 

 

(雨だ)

 

 

 

日の沈んだ空が一段と暗くなったと思ったら、分厚い雨雲が掛かっていたようだ。

 

 

それから間もなく雨は降って来て、徐々に勢いを増して私の顔を濡らしている。

 

 

(まるで、私の気持ちを表しているようだな――)

 

「クロさん、集中してください。雨粒の感想がノイズのように届いています。車は無いのですか?」

「運転手がいません……」

 

 

雨水よりも冷たい水を差された。

私が悪いんだけどさ。

 

 

作戦通り、情報の量は一気に増えた。ヴィオラの能力と勘のもと、チュラの協力で情報をやり取りし、犯人と思しき存在の居場所を残り数か所まで特定している。

その報告の後、それぞれの班は散っていき、私たちもその1つに向かってフラフラ走っているというわけだ。

 

今回のメンバーは皆、それぞれの役割を果たしてくれた。

 

ダンテ先輩とガイアはそれぞれ捜索と運搬を担ってくれた。

エマ先輩はヴィオラから伝えられた情報に、逐一補足情報を付け加えてくれた。

クラーラはその情報を全体に伝えつつも、持ち前の判断力で各班に指示を出していた。

各班の班長は、班員をまとめ上げ、与えられた指示をこなしてくれた。

ルーカは途中から合流した班長の指示を受け、最年少ながらも迅速に動いてくれた。

 

もうすぐこの事件は解決する。

誰がその役割を迎えるかは不明だが、誰であってもうまくやってくれるだろう。

 

 

 

――で、なんだけど。

 

 

「なぜ、いまだに私の体はこんなに重いままなんですか?」

「情報の中に不協和が見られましたので、最後まで油断しません。初めての共同作業ですから」

「ただの嫌がらせではないと……」

「図らずとも、というやつですね。計算の分はお借りしますが、もう少しで情報の送信も終了させますよ」

 

(言葉の中で何を省略した!図らずとも……なんなのさ!)

 

ちょっと嬉しそうなのが気になるが、確かにWチェックは基本。

我慢……我慢だ……

 

 

今は通信が私に集まっている訳では無い為、数分前よりはマシだし。何より送信も終了するなら、プライバシー保護も万全である。

 

「よし!クロさん、終わりましたよ」

「お、お疲れしたー……」

 

ついに窓枠は、1枚を残して空白に戻った。

 

終わった時の開放感が凄い。気怠さから解放されると、目が何割か大きくなった気がする。

私の目は死んでいただろうな。やる気なさそうに見えてたかも。

 

 

 

戦姉おねえちゃん、まだフラフラするの?」

「大丈夫、大丈夫ですから、私と同じ周期で揺れないで下さい。周囲の目が頭痛の原因になります」

「うん」

 

 

そう答える我が戦妹チュラは、分かってるんだか分かってないんだか、いい返事。

その短い髪を揺らしながら、私と同じ揺れを続けて、周囲の視線をこれでもか、と2人占め。

 

 

(そういう事じゃないんだけどな……)

 

 

明らかに悪化した頭痛に苦しめられながらも、中間ポイントである、スペイン広場まであとちょっと、という所まで辿り着いた。

 

 

 

~~~♪

 

 

着信だ。チュラの電話が鳴っている。

 

「鳴ってますよチュラ」

「うん」

 

横を見てみると、チュラは電話の相手の名前を見て渋い顔、何事か考えているようだ。

教務科に呼び出しでも食らいそうなのだろうか?成績もギリギリって言ってたし。

 

「どうかしたんですか?」

戦姉おねえちゃん正直しょーじきに答えて?」

「?はい、何でしょう」

 

あれ?少しだけ怒っている感じだ。

分かりづらいが、こちらを批難する様な声色が含まれていた。

 

「これ、何かあったの?」

「―――っ!」

 

チュラは問い掛けるようにしながら、こちらに電話を向けた。

 

「これで、いいの?」

「あの……」

 

電話の先は――

 

「答えて?」

「……」

 

 

――――――三浦、一菜。

 

 

「チュラ、出ちゃうよ?」

「チュラ……」

 

 

話したい。

 

 

戦姉おねえちゃん、いないって、言っちゃうよ?」

「私は……」

 

 

謝りたい。

 

 

「それで、いいの?」

「一菜……」

 

 

そしてまた、に。

 

 

「……意気地なしー」

「……ごめん」

 

 

チュラはあっかん、ベーをしながら電話を取る。

 

ドキドキが収まるのを感じて……。

これがいつまで続くんだろう、いつまで続けるんだろう……なんて、他人事みたいに自分を戒める。

 

このままじゃダメなのは分かってる!でも……。

 

いつもの感じを忘れたら"どうやって話し掛けてたのか"すら、思い出せなくなったんだ。

 

 

 

ピッ

 

 

「"一菜!?すみません、急ぎの任務で電話は使用中でした!"」

 

 

――えっ?

 

 

(私の声が聞こえた―――っ!)

 

同時に何かが目の前に放り投げられてきた。

 

 

「うわっ!ととと!」

 

 

キャッチしたのは電話。チュラの電話だ。

慌てた私は足を縺れさせながらも、飛んできた方向、チュラを見やる。

 

チュラは相変わらず、あっかん、ベーをしながら速度を上げ、私の前に出た。

その気遣いが痛い。目の奥まで染み込むようで、涙が出そうだ。

 

 

ううう…出ます、出ますよ。

電話を耳に当てる。そこからは耳に馴染んだ彼女の声が聞こえる。

 

 

「"クロん!パトリツィアんは見つかったのか!?"」

 

 

いつもの一菜。

昼間のように、言葉に陰を感じない。

 

……違うな。私の気持ちがそう感じさせてただけだ。

彼女の声はいつでも周囲を元気にする力を持っている。

 

「"一菜……"」

 

伝えたい事がある。

チュラが作ってくれた千載一遇のチャンス。

 

「"一菜、ごめんなさい。私あなたの気持ちも考えないで――"」

「"その話は後で聞くから!あたしにも情報ちょーだい!"」

 

話を流されそうになったけど、ここで引き下がるわけにはいかない。

どうしても、伝えなきゃいけないんだ!

 

「"お願い……一言だけ、言わせて……?"」

「"……はぁ、分かった。聞くよ"」

 

 

彼女は前にした約束通り、お願いを聞いてくれた。

そう、これがラストチャンス。

 

だから……これだけは、今伝えないと――!

 

 

 

 

 

「"コンちゃん、まじメンゴ"」

 

「"キッ……!?貴様ァァァアアアアアアアアアアーーーーーーーーッ!!"」

 

 

 

 

 

おー、うるさい。耳が飛んでっちゃうよ。

なーに騒いでるんだか。

 

 

「土下座は後で、誠心誠意込めてしますので、今はこれで……」

「知るかぁー!バーカ!クロちゃんのバーーーーーカ!忘れろって言ってんじゃん!!」

「今思い出して、もう忘れました。これでいいでしょう?」

「ぐおおおぉぉぉぉぉ……、どこだぁ!どこにいる!1発殴らせろー!」

 

 

うん、これならいつも通りの感じで行ける。

ここで謝ったって、きっと気持ちまでは変えられない。

これ以上、一菜とチーム内の衝突なんて、ごめんだよ。

 

 

だから、今は……私の隣でに、一緒に戦って欲しいんだ、一菜!

 

 

「私達はコロンナ美術館からスペイン広場に向かって走っています。最終目的地はテベレ川を越えた先のモレ・アドリアーナ公園ですよ」

「すぐ行くからな!逃げるなよー!」

「はい、いつまでも待ってますよ。抱き締めてあげましょう」

「あーーー!引き摺り回してやるーーー!!」

 

 

今度は彼女が私の所まで来てくれる。引き摺り回されないようにしないとね。

 

 

電話を切られ、チュラのもとに戻る。

 

「終わったのー?」

「はい、おかげさまで。電話、ありがとう」

 

どこまでも私の習性を知るチュラは、私が彼女の隣まで行くと、イチゴ味のラムネを差し出して、

 

「おつかれさまー」

 

だって。

 

先にこっちを抱き締めちゃおうかな?

 

 

 

 

 

 

ローマの休日で有名なスペイン広場に到着する。

残念ながらゆっくりジェラートは食べられないが、今日の天気じゃ食べたいとも思わないな。

それにしても、この辺はどこもお花だらけで、昼間はさぞ美しい景色なのだろう。

 

駆け抜ける道の先、周囲の電灯が、いくつか切れているようだ。

と、思ったらこの一帯が切れてるみたい。

観光地なのに、ずさんな管理だなぁ。

 

 

そんな感想を抱いていると、私の電話から反応がある。

 

「クロさん、雨が強くなってきたようですね」

「はい。それが何か?」

「そういえば今日は夜に天気が崩れる予報だったな、と」

 

特に続く会話も無い、ただの世間話なのだろうか。

 

「もっと強くなる前に帰りたいです」

「それがいいですね。出来るだけ早く済ませましょう」

 

(軽く言ってくれるな)

 

まだ、他の班が辿り着いたという情報は入っていない。

ダンテ先輩のヘリは更なる天候の悪化を予想して引き上げてしまったし、ガイアの方も雨によって増えた交通量に引っ掛かり、動きが鈍っているようだ。

 

各班は徒歩での移動を余儀なくされ、雨の中を駆けている。

どうせ移動するだけなので、気になっていたことを尋ねた。

 

「そうだ、ヴィオラはどこにいるんですか?随分騒がしいですが」

 

ずっとカタカタシャラシャラ鳴っている電話先がどこなのか、やっぱり気になる。

予想としては情報科棟だが、後ろで時々聞こえる話し声は色々な年齢層の男女だ。声を潜めているのも怪しい感じがする。

 

「ここは自室ですよ」

「……はい?」

 

予想外の返答に、私の揺れ周期がズレたが、横のチュラはそれすらも完璧に真似ている。

呆然とした顔まで真似するのは少し憎たらしい。

 

「えと、他にもどなたかいらっしゃるんですか……ね?」

「私はいつも1人です」

「え、でも話し声が聞こえますよ?」

「……?それはそうでしょう。電話してるんですから」

 

当たり前でしょ?みたいに言うが、絶対におかしい。

話し声は1つじゃないし、そもそもヴィオラの声じゃない。

 

「男の人の声が聞こえるんです」

「男……?」

 

何だその反応は?不思議なのはこっちだ。

よもや、幽霊の仕業などとは言うまい。

 

「英語で話す男性です。かなりお年を召した方のようで」

「……ああ、なるほど。この電子音の事ですか」

「電子音?」

 

これまた意外な返答だったが、今度は挙動に現れない。

ちらりと横を見やると、チュラが頭にハテナを浮かべていた。そういう顔してんのね、私。

 

「この音の事ですよね」

『Do you like chikuwa ?』

「うわぃっ!ぃぃいYES!」

 

ビックリした!ビックリした!いきなりオッサンが!?

とっさにYESって言っちゃった!

 

「驚きました?聞こえやすいように音量を上げてみました」

「ああー、はい。よーく聞こえました。確かに録音された音声でした」

「そうです。これは過去に私が手に入れた情報の1つ。"オッサンヴォイスα"です」

 

音声情報を収集してデータ化したのか。これってかなり精巧だよ。

今の私には聞き分けられるけど、悪戯で使ったら面白そうかも!

 

「全部の声がそうなんですか?」

「耳もいいんですね。はい、そうですよ。ここには私が集めた声がたくさんあります」

「BGMにしては悪趣味ですね」

「BGM……?」

 

あー、またですか、その反応。この子ズレてるよね?

なんで今聞こえるのか尋ねたんだけどなぁ。

 

「その声は、なぜ、集めたんですか?」

「あまり、根掘り葉掘り聞かないで下さい。必要だから集めたんです」

 

 

(必要、ね)

 

その言葉で何となくわかった。

彼女は言葉通り電話をしているんだ。老若男女、東西南北の様々な人間に

 

英語を話す老人は、イギリスの誰かと。

イタリア語を話すお姉さんはイタリア国内の誰かと。

フランス語を話す少年はフランスの誰かと。

 

そうして、一人一人1つ1つの情報体が、誰かから情報を得ているんだ。

自身の正体情報は与えずに。

 

繰り返すうちに、その電話先の誰かの音声情報から新たな情報体が作り出される。

 

彼女の作り出す情報体は、情報戦における兵隊で、それが無限に増えていくのだ。

 

 

――ちょっと待て。彼女は1人しかいないのか?

じゃあ、キーボードを叩いているのは?紙を捲っているのは?そもそもオッサン達は誰が喋らせてるんだ?

 

嫌な予感がする。危険を感じた、そのサインだ。

 

 

ヴィオラ――」

「クロさん」

 

遮られた。思考は読めないと言っていたし、偶然か?

いや、それすらも――嘘?

 

「……どうしました?」

「パトリツィアさんの件ですが」

「どうかしたんですか?」

「もう、いいんじゃないでしょうか?」

「は?」

 

 

いま――何て言った?

 

どういう意味だ、もういいって。

 

 

「意味が分かりません」

「余計な話をしている場合では、なくなりました」

「余計って…」

 

理解できない。彼女は仕事を途中で投げ出すつもりなのか?

 

唖然として、走る速度が少し落ちた私を、チュラが不思議そうに見ている。

こうしている間にも雨はどんどん強くなり、空に白い閃光が見え始める。

 

「私のターゲットが動き出しました、そちらを優先します」

「あなたのターゲット?」

「ずっと追っていたんです。そろそろ動き出すとは思っていましたが――」

「そんなこと聞いてない!!」

 

 

 

――ピカッ!

 

 

 

私の気持ちを表すように、空から一閃。

 

 

ゴロゴロゴロゴロゴロ………

 

 

遠くのどこかに、雷が落ちた。

その振動音が胸に響き、怒りを増幅させるようだ。

 

 

「…………」

「あなたは、ずっと私とは違うものを見ていたんですか?」

「……はい、この事件が起きる前から。私は1つしか見ていません」

「それはパトリツィアの……仲間の命より大切なものなの?」

「……命の重さは全ての人間が平等であるべきです。ですから、どちらが大切かは答えられません。両方救わなくてはならないのです」

 

頭に血が上る、まともな判断力が薄れていく。

 

(だめだ、このままではまた繰り返してしまう!)

 

「あなたは、理屈くさいの!そして回りくどい!言いたいことを言って」

「……」

 

 

彼女は少し黙り……初めて完全な沈黙が訪れる。今は打鍵音も捲る音も聞こえない。

十分な間を取って、改めて口を開いたのは――ヴィオラだ。

 

 

「……ふう、それもそうですね。単刀直入に言いましょう」

「……」

 

 

今度は私が黙り、彼女の答えを待つ。

 

さっきは、嫌な予感がした。

でも彼女はきっと信じられる、そんな気もした。

 

なら、その答えは無下にしてはいけない。あの時のように。

 

相手の考えが分からないなら、聞かなければならない。

一方的に間違っていると決めつけるのは、愚かなことだ。

考え方が違う、ズレてると拒絶するのは、自分勝手すぎる。

彼女がどんな答えを用意していたって、私はそれを聞いて、見極めなければならない。

 

失敗は――繰り返さない!

 

 

それに、成功者の必須項目には、が入ってるらしいしね。

 

 

 

「……私、言いましたよね?この事件には不協和があるって」

「はい、聞きました」

 

ヴィオラは急いて語るようなことはせず、答え合わせをするように話す。

 

「私が追っていたのはその元凶。今回の事件をに起こした犯人です」

「ついでに……起こした!?」

 

 

ヴィオラが私に示した答え、それは――

 

(パトリツィアの失踪がついで?犯人にとっては、企業間抗争とか、過去にやられた逆恨みとかは関係ないってこと?)

 

事実なら、驚くべき真実だ。

 

「今日の天気。日没時間は20:14分、20:00以降から雷雲に包まれる予報でした。これは犯人にとって最適な条件なのです」

「最適な条件……?」

 

パトリツィアを生贄にして、悪魔降臨の儀式でもするつもりなのか?

現実味は無いが、持ち合わせの知識では判断できない。

 

「空は完全な闇に包まれ、稲光を纏う者だけがこの場を支配できる」

 

(強そう。これは本当に召喚の儀式とかの話に繋がりそうだぞ)

 

伝承の一節のようなあまりに突飛な話に、額の雨水が全部冷や汗だ、と言われても納得するくらい緊張してきた。

 

「あなたは、その存在を知っているんですか?」

「はい、明確な敵です。ですが、その協力者までは予想できませんでした」

「待って、先に教えてください。パトリツィアはその犯人の目的には入っていますか?」

 

これは確かめておかねばなるまい。生贄が必要なんて話になったら今すぐにでも助け出さねば!

 

「いいえ、ただのカモフラージュです。一番使い勝手が良かったから狙われたのかと。協力者――彼女を狙う者は心当たりがあるでしょう?」

「あります。妹さんの話が本当なら、命を狙う者は多いでしょうから」

「そう、そして彼女の失踪は何より目立つ、最高級のデコイとなった。それも、もう終わりですが」

「終わる?」

「私は意図的にクロさんがその場所に向かうように、情報を小出しに、順序良く並べました。まもなく、他の班がパトリツィアさんの救出に乗り込むでしょう」

「1箇所に特定できてたって事?なんでそんなことをしたの?」

 

彼女は何を企んでる?パトリツィアは別の場所、私が誘導された理由は……

 

「クロさんをエサにする為です。もうすぐあなたに釣られて、もそこに来るんですよね?」

「なんで……一菜が来ることを、どうして知っているんですか?」

「カン……ではありません、それも私がました」

 

少し間があって、声……電子音が聞こえる。

 

『一菜さん、あなたにお話があります。夜8時頃にまた、電話をしますね』

 

私の……音声情報……!

 

 

チュラの物真似程ではないが、あまりに精巧な私の声に、自分の声が奪われたように、言葉を発することが出来ない。

 

これを聞いた一菜が、私に電話をして。繋がらないから怪しんで、誰かしらからパトリツィアの情報を得た。

私からは掛けていないのに、一菜は私とコンタクトを取った。……取らされた、ヴィオラに!

 

"その話は後で聞くから"って言葉も、私から話があると予想して出た言葉だったのか。

 

 

嵌められたんだ……私も、一菜も。

 

 

「……あなたのターゲットは一菜なんですか?」

 

この回答が間違っているのは分かっている。ヴィオラのターゲットという事は、この事件の犯人だという事。

でも彼女の的を絞ったような言い方に不安を覚え、一菜が狙われてるんじゃないかと思った。

 

 

そしてこの回答は、半分正解だった――

 

 

フフッと笑ったヴィオラは最後の解答を出す。

 

 

「私のターゲット、その犯人の目的が――三浦一菜さん、彼女ですよ」

 

 

ピカッ!

 

 

 

あまりの驚きとショックで、頭が真っ白になった――――

 

 

 

 

一菜が……狙われてる?

 

 

 

 

始まってはいませんが、そもそも彼女イレギュラーです。箱庭に参加していなくても誰も気に留めないでしょう」

 

ぼーっとして、ヴィオラの話が頭に入らない。

チュラがいなかったら、川に落ちてたかもしれないな。

 

パトリツィアとは別件の事件が起きるのか……これから。

一菜を狙った犯人が、もう動いているというのか。

 

 

――させない。絶対に止める!

 

 

「犯人はどうして、他の集団も動くことを知っていたんですか?スパイとかが……」

「犯人自身が動かしました」

「!」

「協力者、というのは正しくありませんね。体よく利用されただけなのですから」

 

計画犯。それもかなり知能的な。

 

『各班へ、ニコーレ班がパトリツィア・フォンターナ及び、誘拐犯を発見。敵の人数は4人で地下へと降りて行くようです。地下内部詳細は形状・規模ともに不明。待ち伏せの可能性も考えられます。同班は今から約30秒後に潜入作戦を開始予定。班員は諜報科ニコーレ、諜報科ヒナ――』

 

通信が入る。ヴィオラが言ったようにパトリツィアの姿を発見したようだ。

 

『――各班、現在地を報告し、援護を行える者は宣告後、至急向かってください。戦闘区域は閉所、暗所が予想されます。車輛科ガイアと衛生科ミラは負傷者への対応の為、確実に向かってください。プレネスティーラ通りで合流し、ロータリーでエンツォフェラーリ通りに進むと多少は空いていますので、くれぐれも安全運転でお願いします』

 

あちらも大詰め、こちらもテベレ川に架かるカヴール橋を渡り、サンタンジェロ城が聳える、五稜郭のような形のモレ・アドリアーナ公園が見えてきた。

 

 

ヴィオラ、なぜここに連れて来たのかを聞かせてください」

「クロさん、そこで一菜さんと合流したら、すぐに。近くにあるローマ教皇庁バチカンカトリック教会内で、夜が明けるのを待つんです。そこが一番安全になります。その他の場所は全て、闇の眷属のテリトリーと呼んで差し支えありません」

 

(また、そっち系の話ですか)

 

思い出す。フランス、パリでの出来事を。

またあんなバケモノみたいな奴から逃げなければならないのか。

 

「敵は、人間ではないんですね」

「クロさん達も、似たようなものでしょう?」

ヴィオラには言われたくない、と思う」

 

最後の疑問だ、なぜこんなに遠回りなやり方で、私と一菜を別々に、影で操るように動かす必要があったのか?危機が迫っていると説明されれば、それだけで動いたのに、だ。

 

「直接伝えてくれれば……やっぱり回りくどいですよ」

「協力者にずっと見張られていたんですよ、一菜さんとクロさんは。2人揃って向かうなら、すぐに連絡が行ったでしょう。バラバラに行ったとしても不自然な流れで移動すれば警戒されます。日中はずっと協力者が付いていましたから、敵の作戦開始と同時に、2人にも捜索という名目で移動してもらったんです」

「そういう事か。私がヴィオラに電話したのも」

「ふふ、私はを片付けていました」

「アリーシャに何か吹き込んだんですか」

「大正解です!」

 

誰かに成りすまして、電話を掛けていたのか。

もしかしたら今回の選抜メンバーの中にも、彼女の手が入っているのかもしれないぞ……!

 

改めて、今回の犯人がヴィオラじゃなくて良かったと思った。

情報操作コワイ。

 

 

「正解したクロさんに、教えておきます。私のターゲットの名前は―――」

 

 

ピカッ!

 

ドゴォォォオオオーーーン!!

 

 

雷が落ちた、すぐ近くに。

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴ……

 

 

その振動が、地面を、大気を伝わって、周囲の人間を恐怖と共に跪かせる。

大自然の圧倒的な力は、この一閃によって、あらゆる生物が矮小な存在であると知らしめた。

 

 

「……クロさん、すみません。予定よりも進行が遅れてしまいました。合流まで耐えてください」

「……」

 

 

彼女は悪くない。

走る速度が落ちていたのは自分の責任だし、一菜を守るために動いてくれていたのは間違いないのだ。

 

(命の価値は平等とか、余計に分からなくなる事言わなきゃいいのに。損な性格だな)

 

 

そして、彼女の発言通り、もう手遅れになったようだ。

 

サンタンジェロ城の北口側、フラテル・アウレリアーノ・スカフォレッティ通りの広場。

そこで出会ってしまった。

 

何かがいる。姿は見えないが、何かが。

 

 

嫌なことは続くものだ。

 

事件の裏にはまた事件。

 

 

 

目の前に姿を現し始めた異形の存在を見て、私が感じたのは畏怖と憧憬。

 

大自然の如き迫力と美しさを、まざまざと見せつけられた。

 

 

 

――あれは高位の存在。

 

 

 

Buna searaこんばんは、そんなに急いで、どこに行くの?怪しいからつい、手が出ちゃいそう」

「うっ……」

 

 

徐々に浮かび上がり、形を成していく影。

段々と明らかになるその全貌。

 

金髪のツインテール、真っ赤な唇。

退廃的なゴシックロリータのドレスと――蝙蝠の翼。

 

 

「今夜はこんなになのだから、ゆっくり歩いたらどう?……足元の警戒がスカスカよ。――んッ」

 

 

バチバチィッ!

 

 

「うわぁッ!」

 

 

……今のは、スパーク――!

 

 

電撃に弾かれた、というより、自分の筋の痙攣によって地面に転がされる。

体は痛むが、それ以上に、暗闇の中からの突然の発光による目の眩みの方が問題だ。

 

慌てて立ち上がって距離を取ろうとするが。

 

(筋肉が……痺れて体が、動かない!……動けない?)

 

 

 

 

    『あなたは何も出来ないの、そうでしょう?』

 

 

 

 

ゾクリ……背筋に、悪寒が走る。

 

忘れていた。忘れようとして何度も夜を耐えたあの恐怖が……

 

体の自由が利かない恐怖と、目の前の超常の存在によって……

 

 

「……?もう終わりなの?少しは足掻いたらどうなのかしら、力も無く、等しく愚かな人間。いつまでも震えていないで、惨めに這いつくばって命乞いなさい。この気高き闇の眷属――」

 

 

克服できたと思っていたのに……

 

 

ヒルダ・竜悴公姫ドラキュリアに!」

 

 

 

その名前を聞いただけで、思い出してしまった。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「せんぱーい!」

「……どうしたのかしら」

「あらあら、そんなあからさまに邪険にしないで。私はのよ?傷ついてしまうわ」

 

 

「……何の用?箱庭の件なら断ったはずよ?」

「それはもういいの、諦めたわ。"ダメで元々"だったんだから」

「助かるわ、うんざりしていたの。お誘いが多くて」

「先輩みたいな整い過ぎた造形美は、誰の目も引き付けるものよ」

「ありがとう、素直に受け取っておくわ。それで、別の用件は?」

「私の可愛い戦妹ちゃんが、良い情報を手に入れてくれたの」

 

 

「……それは、聞いてもあなたたちに迷惑が掛かるものじゃないのね?」

「あらあら、過保護ねぇ。私達だって、全部お上の為に動いている訳じゃないの。……自分の戦妹くらい自分で守れるわ」

「そう……。なら、聞かせてもらおうかしら」

 

 

「数日中に動く、とだけ教えてもらったの。その意味、分かるかしら?」

「もう動いているハズよ?」

「悪鬼と吸血鬼は別物よ?私が言っているのは吸血鬼の方。その為にこの学校に来たんですもの」

魔女狩りね」

「人聞きが悪いわ。正式な決闘よ」

「あなたの存在そのものが正式とは程遠いわね」

「あらあら、酷いわ。私だって悩んでいるのよ?」

「"肌がひび割れているわ。任務に忠実なのはいいけれど、見た目にも気を使いなさい?"」

「"え、ほんと?"」

 

「……も、もう!ツルツルお肌ですわ!からかっているのかしら!?」

「ふっ、ふふっ……、可愛い声……」

「先輩!」

「ごめんなさい、でもあなたとこうして普通に話すのは久しぶりだったから」

「私は初めてなのよ!お手柔らかにお願いしますわ!」

 

 

「動いた理由は分かっているの?」

「誰かを探しているようですわ。わざわざルーマニアから出てきて、潜伏しながら裏側を手中に収めていたみたいなのよ」

「そんな重要人物が、誰だか分かっていないのね」

「あらあら、魔女の考えてることなんて、極端すぎて分からないわ」

「……確かにそうね、良く分かったわ。この国に来てから」

 

「私はレジデュオドロを暫くマークするつもりなの」

「……なぜ」

「念の為、だそうだわ。そうね、私もあの子の考え方が極端すぎて理解できないのよ」

「信じていいのかしら?あなたたちの事」

「先輩の言葉をお借りするなら"義"。それに懸けて誓えますわ」

 

 

「お願いするわ。でも、あなた個人はどう思っているの?」

「私の事は私は知らないけれど………先輩とレジデュオドロなら、あの子の事も救ってくれるかもしれないでしょう?」

 

 

 


 
 
クロガネノアミカ、読んでいただきありがとうございました!


ざんねん わたしの たたかいは ここから つづいて しまった。


クロは再び吸血鬼と対峙してしまいました。
その相手は前回とは異なりますが、心の傷口はいとも容易く開いてしまいます。

もともと、クロの周りには能力者に対応できる人物は限られています。
果たしてまともに戦う事ができるのでしょうか?

設定の粗が目立ち始めますが、「じゃあ、そこは過去改変したんだな」と、温かい目で見守り、訂正を掛けていただければと!