黒金の戦姉妹 おまけ4発目 臆病者の狙撃手
今回はキャラ紹介第3弾…ではなく、ちょっとした思い出話。
例のごとく頭おっぺけぺーで読んじゃってください。
始まります。
おまけ4発目 臆病者の狙撃手
「
「
ラインの娘の最後のセリフ
剣のモチーフが壮大に盛り立てる最後の決め台詞だ。
(……本当に、その通りです)
結局、
だからこそ、第二部以降の愛情は全て壊されてしまうのだ。
悪人は復讐に燃え、賢神は葛藤に悩み、最終的には神々の世界が崩壊し、指環は川に還される。
物質社会を風刺する、リヒャルト・ワーグナーらしい、とてもドイツロマン派な作品。
子供の頃に聴き、言葉の意味も分からないまま、その演奏に、独唱に、合唱に、雰囲気に。ただただ圧倒されて。
姿の見えない小悪党のアルベリヒですら怖いと感じた。
ヴォータンがブリュンヒルデを追いかけてきた場面なんて顔を覆って震えていた記憶がある。
それなのに、いつの間にかこの
休みの日には父親に買ってもらったCDをよく聞いていたものだ。
そのジャケットには"F.R."――
我ながら、なぜ直接書いたのか。
「今日は、もう終わりにしますか…」
楽曲の終了に合わせ、基礎勉強を終了する。もう2時間半も経っているな。
少し休んだら、フォーメーションと作戦の見直しを行おう。
前回の失敗から、個人の改善は別として、チームに必要なのは前後のバランスだと思われる。
"3on3"。
私をフィニッシャーに据え、一菜さんとクロさんが私の
強敵との多対一、狭所、最低限の長距離射角が必要など、条件が揃う事もあまりないのだが、こういう動きを予め決めておくと、意外なところで役に立つ。
前線の2人が互いを援護しつつ、近接戦闘と銃撃で攻撃し続ける。ただ、相手の戦闘技能が未知数の場合、2人同時の負傷を防ぐため、それぞれの
牽制弾を撃つタイミングも、相当な熟練度と相手への信頼、息の合った挙動が求められるのだ。正直この作戦を提唱しても、他のチームでは成り立たないだろう。あの2人の動きとコンビネーションは常人のそれを遥かに上回っている。
では、敵が両方の範囲に同時に入ったら?
敵を挟んで、2人が一直線に並んでしまったら?
結果は離れた建物の上からよーく見えた。
これをどう改善したものか……
あれ?メールが届いてる。
差し出し人は――クロさんだ。
何だろう、今日の話かな?
<
中学生の内は、武偵教育の一環として、高校の先輩方をチームの指導生として1人から最高3人までつけてもらえる。
当然、情報学部には情報学部、兵站学部には兵站学部の先輩が割り当てられ、規模の大きな任務ではリーダーに置いて活動することもあるのだ。
基本的に志願制度であるため、高校生の数は限られ、兼任していたりもするが、積極的に育成に励んでくれる人が来るとなると、その存在の有無による成長率は段違いになる。
先輩方においても、統率力や作戦立案の能力向上につながる為、推奨されているらしい。単位もおまけが付くとか。
彼、彼女らは"
いかにも宗教的でバチカンが考えそうだ。
既に根絶されたが、過去、単位欲しさに指導生に志願した生徒がいたらしい。
しかし、
実力や人数によって宝導師の人数は決められ、私たちのチームにも1人ついて頂けた。
強襲科と狙撃科で構成されたこのチームでは、通例通り強襲科の先輩が担当であり、正直同じ人間だとは思えない強さである。
「うっらぁー!」
パパンッ!――ガチンガチンッ!
ガゥン!ガゥン!
一菜さんとクロさんがその宝導師へと同時に仕掛ける。
今はチームのフォーメーション"3on3"の実戦中で、宝導師に敵役として私達のチームと手合わせ願っている。
(10分経った……)
戦闘開始からすでに10分。
2人の状態は余り良いとは言えない。体力おばけの一菜さんは疲れる素振りを見せないが、もう弾切れだ。クロさんに至っては、体力・銃弾共に限界だろう。
「はぁ、はぁ……一菜……嫌な音が聞こえましたが……」
「あはは……どっちもオープンだよ……」
「……残弾管理をして……はぁ、はぁ……敵に弾切れを……悟らせるなと……はぁ、言ってるじゃ……ないですか……」
「クロちゃん、まじメンゴ!」
一菜さんがヒラヒラさせている手には、ホールドオープンされた二丁拳銃が握られている。
それを恨めしそうに見ているクロさんの方は一丁しか持っていない。もう一丁は開始と同時に作戦範囲外に弾き飛ばされた。
このフォーメーションが対象としている狭所を表現するのに、作戦範囲を設けていたのだが、それを逆に利用された形だ。
範囲の外では拾いに行くことも出来ない。初っ端から"3on3"は崩されていたということだ。
「あら、弾切れ?じゃあそろそろ動こうかな?」
初めての実戦では無いが、とんでもない人だ。勝てる算段が思いつかない。常識的におかしい2人の攻撃を、物理的におかしい動きでいなしていく。
ほとんどその場から動いていない。寧ろ
私の銃弾も全て、弾かれている。見えない何か、そのマズルフラッシュと銃声だけが何かをしたという証明だ。
何度か場所を変えて狙いをつけるが、わざとらしくこちらに視線を向け、牽制までされる始末。
こんな様子だから当たる訳はない、だからと言って実弾で撃ち合うのはどうなのか。
(トオヤマカナ先輩。クロさんのお姉さん……か)
流水のような歩法で2人との間合いを詰めていく。ゆっくりと、それでいて一気に、その距離が近付いていく。
「クロん、やっぱり、今回もダメだったよ」
「あなたは話を聞きませんからね……」
2人は完全に諦め状態だが、それも作戦の内。油断して動き出した彼女に……
(1発、いや
引き金を……引き――
パパァン!
(あっ……)
光が見えた、音が聞こえた、背後に着弾した。
人間には全部の出来事が一瞬だ……悔しいけど、戦場なら死んでいた。
(今回も私の負けです)
白いハンカチを銃身に巻き付け、振る。敗北者の証だ。
それを見た彼女はこちらに笑みを浮かべてから、2人に向き直った。
「はい、終了。3人ともおつかれさま」
「また、勝負にならなかった……です、姉さん」
「おーい!フィオナーん大丈夫かー!」
私を呼ぶ声が聞こえる。
……うん、元気が出て来た。頑張ろう、改善点はいっぱい見つかったんだから。
実戦演習後、私たちはカフェで簡易的な反省会を行っていた。
本格的な改善点の話し合いは後日改めて行うが、その日の反省はその日の内に、みんなで共有するのが習慣だ。
「まず、カナさんからそれぞれへの指摘事項です」
「はい」
「はいはーい」
こんな面倒くさい私に付き合ってくれるチームメイトは、他にはいないだろう。
この国は自由な人が多すぎると思うのだ。一菜さんも自由ではあるけども。
「まず、一菜さん」
「うい!」
「頭を鍛えなさい」
「はぅあっ!」
驚いた顔をしているが、言われていることは分かっているだろう。
彼女の課題は残弾管理と……
「やっぱ、あれが不味かった?」
「でしょうね」
「でもでも、2人の範囲に同時に入ったらどうするのさ?」
そう、カナ先輩が踏み込んだ1歩。あれが致命的だった。
後で気付いたのだが、あの押されたような1歩は誘いだった。説明もしていないのに、2歩以内という前提条件を推理され、わざとフォーメーションが崩された。
一菜さんは2歩以内に入ったカナ先輩と、近接格闘を行おうと踏み込んで、押したと思い込んだクロさんと
2人同時に負傷しないという作戦目的が崩壊した。
「1歩にすれば空白地帯が増えてしまいますよ?」
クロさんの言う通り、被らなくすれば良いものでもない。
この作戦の弱点は、敵の位置に固執してしまい、周りの状況への対応が遅れてしまっている事かもしれない。続けていれば慣れによる改善も見られる可能性もあるわけだ。
「とりあえず保留しましょう。次にクロさん」
「はい、なんでしょう」
「武器は軽々しく見せるものではない。あと、二丁持つのなら、一丁は分かり難い場所に隠した方が良い、最初から二丁を出さない事」
「あー……見事に弾かれましたもんね」
「目が点になったよねー」
「まだ、あります。足癖が悪いのを何とかしなさい、淑女らしく振る舞いなさい。足を怪我したら逃走もままならない」
「それ、前にも言われましたね」
「念を押していたので、お小言を食らう前の改善をお勧めしますよ」
「はーい……」
こちらの改善は可能だろう。クロさん次第な問題である。
「最後に、私のものなんですが」
「どうぞどうぞ」
「あの演習中に、フィオナちゃんを見る余裕もあったんだねぇ」
「何度か目が合いました。折角誘導して頂いても、当てられたかどうか」
「普通の人間なら、外さなければ当たりますよ」
「確かに!」
「……それでも、悔しいですよ」
「それで、指摘されたのは?」
「射程距離、ですね」
「え?射程?」
「十分遠いと思うんですが」
「私の連続確中範囲は400m弱。それより先は極端に制御が難しくなります」
「それー、当たり前じゃない?」
「あなたの銃はHK33SG1マークスマンライフル。銃性能の限界ですよ。いくらセミ/フルが出来るからって、400mの距離からフルバーストで全て狙った場所に当てられる人はそうそういませんよ」
「そもそも市街作戦での遭遇戦想定してるしねー。フル狙撃なんて普通やらないよ?」
「……」
「単発で行くならどうですか?」
「自信が……ありません」
「またそれかー」
「狙撃科の訓練で遠距離の成績もいいんですよね?」
「10点をもらっています」
「あたしの成績よりいいってかMAXじゃんかさー!」
「ごめんね、私達の戦い方が近接特化で。チームに入って来てくれた時は嬉しかったですが、あなたにも突撃兵スタイルばかりさせていましたもんね」
「いえ、自信が無いのは元からです。前線支援の狙撃兵も今では私流のスタイルですよ」
「……でも、そうかー。射程ねー」
「姉さんは射程距離を伸ばせ、と言っていたんですか?」
「いいえ、"あなたの射程は強みを活かせていない"、と」
「それってやっぱり、狙撃兵基準の話だよね」
「そうだと思います。私は折角の威力と精度を活かし切れていないんでしょう」
「…………」
「どしたの?クロちゃん。黙っちゃって」
「その話、少し時間をくれませんか?」
「私の改善点ですか?」
「はい、姉さんの言わんとしている事が分かりそうな気がします」
「おー!さっすがクロちゃん」
「言わんとしている事……ですか」
「なので、この話も保留で!他には何か改善点は――」
送信者:クロ トオヤマ
件名 :顔文字はあたしが打ったぞ!
こんばんは。
夜ご飯はもう食べましたか?
私はもう食べましたよ!慣れてはきましたが、イタリア米はパッサパサであまり口に合いません……
炒めにするなら良いんですけどね。日本米が恋しいです。
あなたの事ですから、まだ机に向かって項垂れてるんでしょうね。
自分を追い詰めるのは悪い癖ですよ?
そんなあなたにヒントをあげましょう! /(・u ・o)V キラーン
まず、射程を伸ばすだけなら、姉さんには意味がありません。むしろ迎撃の準備時間を与えるだけに過ぎません。通常射程を伸ばすのは、
1.発見されずに撃ち抜ける利点
(°o ° ;)==(; ° o°) ドコイキマシタノン?
2.反撃が及ばない利点
エヘッ( 'U') c=(O_O ;)トドカナーイ!
3.戦況を全体から見渡せる利点
( '^')7 ヨウミエマスノウ……
が挙げられると思います。
でも、3on3の作戦においては狭所を戦場としているので、2番と3番は無視できるものになります。
残る1番の利点ですが、相手に見つかるようなら消えてしまいますよね。
だから、この作戦では見つからなければいいんですよ!
もう1度考えてみて下さい!あなたの活かしたい強みを。
はい、ここでブレークターイム!!
アツアツのドリンクを用意して、最低でもそれを飲み終えるまでは一切の行動を禁止致します!これはリーダー命令ですので、速やかに実行するように!
なんちゃって!
程々にして休んでくださいね?
また明日学校で会いましょう。
……ふふっ、こうして気遣ってもらえるって、嬉しいものだ。
そうだなぁ、作戦の見直しの前に、夜ご飯を食べようか。
返信、返信っと。
うーん。私の強み、かぁ……
>
おまけ4発目、読んでいただきありがとうございました。
やっと3人と、カナの関係が説明できましたよ。
黄金の残滓における描写はここからの進化系になります。
どの辺が変わってるんでしょうね?変わってると思った所が変わってるんです。
ただし、クロの足癖の悪さは治らない模様。