まめの創作活動

創作したいだけ

黒金の戦姉妹20話 理会の専担

書き直していて分かった事がありました!
会話パートが冗長な文章になるのは、場面での行動目的がなかったからだったんですね。
一同が『会話の為』に集まるから動きのない文章になる。

目的地に向かいながら会話する、勉強をしながら相談する、食事をしながらシャレを飛ばす。
ノベルゲームみたいに視覚演出に頼れないので、会話と心情ばかりにならないよう、『今度から』配慮していきたいです。まる。
 



理会の専担オールウェイズ・フリーパス

 

 

第三装備科。

その部屋は沈黙に包まれていた。

 

悪夢から覚めた語り部は、思い出せるだけの事を話し終えると、まだ話し忘れたことは無いかを考えている。

しかし、足りない部分はもう片方が補っていたため、その心配は不要であった。

 

 

「……私とクラーラで思い出せるのはこのくらいです。気絶した後に、あの場所で何があったのか、どうして私達は無事だったのかは……すみません、分からないんです」

「そんな事に、なっていたんですか……」

 

 

彼女達の話は非現実的過ぎる。

 

車を縫い付け、車外から全員に攻撃する。

走行中の車を蹴って破壊する。

 

どちらも人間の仕業だとは思えない。

超能力者と乗能力者が組んでいたとも考えられるが、2人の話の流れからすると、200キロを超えた車で一度は引き離した後に、60キロ以上で走っていた所を追いつかれた事になるのだ。

見失わなかったのは直線だったからだろうけど、ドアに引っ付いていた方も発信機のような能力を持っていたのかもしれないぞ。

 

おまけに――

 

(――なんでトロヤが2人もいるんだ……!)

 

正に悪夢。

あんなのが複数体同時に活動していれば、とても対応できない。感覚的に半分だと思ったが、ホントに半分になってなくてもいいのに……

恐らく屋上から移動する時には半分ずつに分かれていたのだろうから、本気の彼女はあの夜の2倍の力を出すことが出来るという事だ。絶望なんてものじゃない。

 

私だってチュラやカナ、本来トロヤの仲間であろうフラヴィアが一緒に戦ってくれたから、何とか『ゲームで定めたルールの中』で勝利を納めたのだ。

今のままでは、その半分のトロヤにだって軽くあしらわれるレベルだということ。一菜を守るには力が足りていない。

 

 

「クロさん、申し訳ありませんでした。今回の任務の失敗は私達の力不足が――」

「違います。全て私の作戦ミスでした」

 

 

そうだろう。

パオラとクラーラには戦闘能力が無い事は重々承知していて、その彼女達にヒルダの護送を任せたのは私だ。

もし襲撃者がいなかったとしても、ヒルダが目覚めて暴れ出すことも考慮に入れていなければならなかったのに。

 

完全に油断していた。

 

あの夜はトロヤという悪魔の存在も、2人組の襲撃者の存在も、運が良かったから誰も犠牲者が発生しなかっただけで、怪我人も出してしまったし、自信を奪うような事態にも陥った。

 

そもそも、トロヤという脅威を追い払ったことで錯覚していたが……

 

本来の任務である『ヒルダの護送』は失敗している。

 

 

「パオラさん、クラーラさん、ガイアさん。この度は、本当に申し訳ありませんでした!」

 

 

謝罪で済む事ではない。

いくら武偵の仕事には危険が付きまとうものだとしても、避けられたかもしれないリスクに対処しなかった責任は大きいのだ。

 

私は作戦の総指揮を務めていて、任務に関わる全員の命を背負っていた。

それなのに、私は……

 

 

「わた――まごぉっ!」

「おいおい、勘弁してくれよ。なんで昼休みの間中どこもかしこも暗い奴ばっかなんだよ」

 

 

で、出たな。ガイアの得意技……スイーツスローイングッ!

 

(甘くて、ホロホロ……アーモンドの香りだ!)

 

 

もぐぐぐもぐもぐぉー!おいしいですけどー!

「やかましいな!食いながら喋んなよ!」

 

 

おいしいお菓子を急いで食べるのはもったいない。

……もう少し味わっておこう。

 

 

「もぐもぐ……」

「クロさんは扱い易くていいですね」

「エレナ、コンシリアさんレベル」

「もぐもぐ……んぐっ!……酷い言われようで――むぐッ!」

 

 

お客様!連コインはお控えください!

 

(ビターが、ウマウマ……ココアパウダーだぁ!)

 

 

「大人しくしてればこんだけ美人なのにな、お転婆が過ぎるっつーか」

「残念な美人?美人じゃないなら……ハラジュクkawaiiモンスターカフェ?」

「"原宿"?クラーラ、それって日本の文化なの?聞き覚えがないけど」

「戦妹の友達が詳しいらしくて、偶に奇抜なガーリーファッションで遊びに来るから」

「奇抜なガーリー…?想像出来ないぞ。クロ、なんか知ってるか?」

 

鼻を抜けるほろ苦い風味、噛めば柔らに崩れるしっとりとした食感、口内に広がる砂糖の甘みやバターの塩味。

手作り菓子は撹拌や焼け具合にムラあるの生地が、1口ごとに変化していく楽しさを持たせる。即ち、それらの要素で発生する欠陥品が排除され、全てが均等に完成されているこのお菓子は店売りの品ということですね!おいしい!

 

香食を嬉々として楽しむ私にガイアが日本の話題だぞ、と話を振る。

飲み込むまでもうちょっと待っててね。

 

「もぐんぐ……ふぅ。ごちそうさまです。残念ながら良く知りません。日本にいた頃にはあまり興味が無かったもので、今思えば……いえ、試しに一度くらい着てみたいとですが、竹下通りを歩きたくはないですね。人が多いですし。」

 

確かに日本の話題だけど、私の管轄外です。

 

「それなら私の戦妹に――」

「やめて!これ以上、日本マニアを私に背負わせないでください!」

「?」

 

 

教室の空気は、「あれ、私謝罪したよね?」って聞きたいくらい、いつもの感じだ。

負い目を感じていてさえそう見えているのだから、間違いなく日常風景なのだろう。

 

でも、これが武偵らしいのかもしれないな。

彼女達は互いを支え合って、あのタフネスさを保っている。

 

仲間との繋がりは、その人間の能力を飛躍的に向上させる可能性を秘めている。それは戦闘に関してとは限らない。

私や彼女達が分かり易い例だが、誰でも少なからずその恩恵を受けているのだ。

どんなに追い詰められた状況でも、そこから立ち直る力を貸してくれる。

 

だから私は守りたい。

私と繋がる皆を。

 

 

 

(今までは避けてきましたが……私も自分の能力を自由に使いこなせるようにならなければいけませんね)

 

 

ヒステリアモード。

 

スイッチのON/OFFは可能だが、それだけでは足りない。

力の絶対量を上げなければ、超能力者に……そして人外の者たちに勝つことは難しい。

 

大事なのは皆と共に戦い、皆を守る力。

チュラの助けによって見つけ出した、もう一つのヒステリアモードを使いこなすのだ!

 

 

 

――――スイッチ……ON!

 

 

 

「というわけで!皆さんの力をお借りいたします!」

「は?」

「ど、どうしたんですか?クロさん」

「いきなり、びっくりした」

 

 

なんとなく雰囲気の変化を察した3人は、少し私から距離を取る。

おにぎりの時もそうだったけど、カンが良いよね君たち。まるで私に似た能力を見たことがあるかのようだ。

 

ふむ、誰から試そう……

 

距離が一番近いのはガイアだ。

だが、一番抵抗が激しいのも彼女だろう。下手にもみくちゃになって、また女々しく縋った所を3人に目撃されてしまったら自殺モノだ。パス。

 

逆に一番抵抗が少ないのはパオラ。失敗したときにも彼女なら誤魔化しが効きそうな気がする。

でも、私の事を大いに勘違いしているきらいがあり、必要以上に怯えさせてしまうかもしれない。取引停止されると大いに支障があるので……パス。

 

……じゃあ、さっさと逃げ出しそうなクラーラから行きましょう!

 

(これも、皆を守る為……。恨まないでください!)

 

うん、自分でもわかる。

変態だよね。唐突に人の頭に顔を埋めようとしたら。

 

ゆらぁ……と近付く私に、彼女は明らかに警戒している。

暗緑色の瞳が睨むように細められ、じりじりと後退りながら――ガイアに助けを求めてるな。

 

その瞳に映る私は、モヤモヤがラスボスのオーラ並みに漏れだしているのだろう。

ふはは、大人しくその身を捧げるがいい!

 

 

「クロッ!止まれ!」

 

 

聞く耳を持たない私に、焦ったガイアが動いた……が、所詮はロジロジ。

横薙に振るった警棒のような近接武器もしっかりと急所を避け、左脇腹を真っ直ぐに狙い過ぎている。

 

力の調節を失敗したリスクを考えて急所を避けるのは良くないし、強襲科の先生に見られたら怒られるぞ?

後ろから襲い掛かるなら最初の一撃で鎮めるべきだし、振り抜くより刺突の方が気付かれにくい。直線だとコースもバレバレだ。

 

 

――今の私には足音と風切り音だけで、十分な情報になるんだよッ!

 

 

パシッ!

 

 

右手を左脇の下から通して武器を掴み、その手を……引こうと思ったけど、ガイアの片腕だけで作られた威力だと引いて衝撃を逃がすまでもない。

人差し指を親指の付け根に引っ掛け、残る4本の指で武器を掴んで止めている。

 

ガイアはすかさずスタンガンを発動してくる。武器から伝わる彼女の手の動きがそれを教えてくれた。

だからこその人差し指なのだ。

 

 

「惜しいですね、ガイア」

「何がだッ!」

 

 

――バヂィイイッ!

 

 

指に軽く溜め込んだ力を、関節の同時伸長と合わせて一気に放出する。

ついでに右肩も少しだけ駆動させた。

 

つまり、ただの勢いの乗ったデコピン。

 

それでもON状態の私が使えば、素人が放つストレートの数倍の威力が軽く出せる。

さらに一本貫手の要領で、全体重を一点に集中させて。

 

 

「なぁッ!?」

「うそっ……!」

 

 

警棒型スタンガンはあまりの衝撃に、ガイアの手から弾き飛ばされて壁へ激突。型を残して床に落ちた。

ちょっとだけ凹んじゃったけど……仕方ないよね。

 

驚きで呆然としながら痺れる右腕を押さえているだろうガイアは、もう邪魔には入れない。

目の端に移るパオラなんか、両手で口を塞いじゃってるよ。

 

目的は達成されたも同然。

もうすぐそこまで、追い詰めたぞ……

 

 

「さぁ、クラーラ!さあ!」

「ク、クロさん……一体何を……?」

「ご安心ください。すぐに終わらせます、クラーラ」

「モヤモヤが悍ましいほど溢れ出てますよ……ッ!」

「大丈夫、大丈夫。やましい気持ちはこれっぽっちもありませんから」

 

 

何が大丈夫なんですかと、か細く囁くクラーラの両肩を掴む。

すると、震えたままの彼女は、顔をビスコッティの髪で隠すように下げた。

 

(あれ?私の目的ってバレてた?さあ、どうぞって事なの?)

 

それなら遠慮はいらないね。

 

 

じゃあ、レッツ・ダイブ!

 

 

と、埋めてみたはいいものの……

 

 

 

 

…………おや?良い匂いがするのは確かなんだけど―――

 

 

 

 

 

――これは、何の匂いだ?

 

 

嗅いだことはある気がする、でもボヤボヤして何の匂いだったか……

 

 

一応、念のために窓枠の空間を覗いてみるが、変化なし。

 

 

うーん?なんだ?何かが違うのか?

 

 

てっきり、匂いだけがトリガーだと思っていた。でも……

 

 

 

 

……それだけじゃ、ダメらしい。

 

 

 

 

 

実験失敗。

 

ホントに使い辛い能力だよ。

こう、ズバーン、シャキーンと変身できないものかね。

 

 

 

――スイッチ……OFF。

 

 

 

「クラーラさん、すみませんでした」

 

 

能力の発現にはが必要だという事実が判明した。

それだけでも儲けものだろう。

 

今の所、事しかない。

2人の共通点を参考に仮説を立ててみる。

 

 

知り合った期間?

――ならパオラやパトリツィアでもなれるかもしれない。

 

一緒に戦った期間?

――ならフィオナでもなれるかもしれない。

 

 

 

……消去法でパオラか。

あの2人はシャレにならないからダメだ。

 

とりあえずは、また今度にしよう。

 

 

「クロさん……どういうつもりですか……ッ!?」

「そこまで、マジなのか?クロ」

「あわ、あわわわわ……」

「へっ?」

 

 

温かい体温がこの状況を正しく伝え、激しい警報が脳内に響く。

 

両肩に掛けていた私の手は、匂いをより近くで嗅ごうとしたことにより、クラーラの腰と背中に回されている。つまり抱き締めている。

それだけではない、そのまま引き寄せた彼女を自分の体に押し付けて、完全に密着していたのだ。

 

心臓の鼓動がドッドッドッドッ!と右胸から響いて頭にまで届き、クラーラの電熱器の様に高熱になった体温も、触れ合った面から火傷しそうなくらいに熱を伝えてきた。

 

 

(これって。これって……)

 

 

あの夜の、チュラと似た様な状況!?

 

後方からの視線が痛い。

 

 

 

「……皆さん、落ち着いて聞いてください」

「「「……」」」

 

 

 

返事がない、ただの村八分のようだ。

 

 

「えっとですね……」

「言うな、クロ。朝の会話は、お前の中では冗談じゃなかったんだな」

「ち、ちがっ…」

「う、わぁー。ク、クロさんって、かなり積極的だったんですね」

「パオラさん!明るく振る舞おうとしないで!」

「……離して……くれませんか?」

「あっ!ごごご、ごめんなさい!」

 

 

クラーラは押し返そうとしているみたいだが、どうしようもない位に非力なもんだから添えられてる構図にしか見えない。

 

不躾に回されていた両手を肩に引き戻し、過呼吸気味に息を荒げるクラーラを突き飛ばさないようにそっと押し退けた。

力なく引きはがされた彼女は、ふらふらとした千鳥足で壁にタッチ、崩れ落ちて深呼吸を始める。

 

 

「だ、大丈夫ですか……?」

「クロさんの蛮行よりは……」

「はぐぅッ!!」

 

 

クリティカルヒット

セリフにも口調にも遠慮がないよ!

 

違うんだ!信じてください!

 

私はノーマルである。もう一度言おう、私はノーマルである。まだ足りない、私はノーマルである。

いいですか、皆さん?これは自分用・保存用・布教用ですからね?

お知り合いの誰かに、速やかなご連絡を!

 

 

 

――現実逃避終了。

 

 

まいったまいった、どうしたもんか。

頭を抱えるべき場面だ。社会的な死を、どんなセリフで仕切り直せるか……

 

と、ここで。

 

 

「クロさん、私はクロさんには何か考えがあって……あ、あんな事をしたんだと思うんです!それを説明して頂くわけにはいかないのでしょうか?」

 

手が後ろに回る私に、まさかの援軍、現る……!

ホント良心。天使様やー。

 

 

「言い訳があるなら聞くけどよ」

 

 

しかし彼女とは対称的に、凹んだスタンガンを収納しながらのガイアは、少し警戒度を上げている気がする。

おふざけではなく、マジの方の雰囲気が感じられた。

 

 

 

「そうですね、誤解は解いておきたいですし」

 

 

神妙にしていても冤罪は消えない。誤認逮捕した側を増長するだけだ。

願ってもない対話の機会を生かして、理解と信用を勝ち取らなければならないだろう。

 

 

座り込んだクラーラに手を貸そうとするがキッパリと断られ、所在のない手で頭の後ろを掻く。

 

 

だが、説明か。どっからどこまでがセーフゾーンなんだか。

弱点にもなるこの体質の事は隠し通せ。と、カナこと金一お兄さんに常々言われていたし、この能力の詳細はチュラ以外には一菜だって知らない。

 

 

全容はぼかしたまま、なんでクラーラに迫ったのかを説明する。

抱き着いたら強くなります。とか言いたくないし、誤解が真実になってしまう。

だからって、匂いを嗅いだら変身します。なんて「え?変人?」とか言われるのは目に見えている。

 

 

「あんなことされたんです、理由を教えてくれないと納得しません。話せるだけでいいですから。……クロさんの心配も、なんとなく分かってはいるんです」

「なんとなく、というと?」

「私達、パトリツィアさんとの付き合いも、1年の頃からで、結構長いんですよ?」

 

 

 

クラーラとパオラが訳知り顔で話し掛けてきたが、彼女達の言わんとすることは不明だ。

 

(パトリツィアと私の行為に何の関係性が?……ま、まさか!パトリツィアってそっちの気が――)

 

 

 

「変な事を考えてる顔、してますよ。そういえば、クロさんと知り合ったのもパティ経由でした」

 

スカートの裾を払いつつ、立ち上がったクラーラに呆れた顔で指摘され、慌てて自分の頬に触ると、ほら、考えてるって言われた。くっそぉ。

 

彼女は普段からプライベートでパトリツィアをパティと呼ぶ。

ずいぶん仲が良いんだなとは思っていたが、どうやら話は彼女の仮チームに焦点を合わせていくようだ。

 

Fiore di omicidio人喰花は知ってるよな?」

「はい、もちろん」

 

 

パオラはクラスメイトだったから仲良くなっていたけど、2人はパトリツィアの紹介で出会った。それまではパオラと仲良しな他クラスの人達、ぐらいの認識でしかなかった。

仲介者の談では、「"3人寄れば……十色?"だっけ。これ、使い方合ってるかな?」。

――まず単語として成り立ってない。使い方も合ってない。"三矢の教え"って事らしい。

 

 

「あたし達は人喰花の裏でサポートもしててな。それはもう、あちこち連れまわされたもんさ」

 

話によれば、半ば専属レベルだったみたいだし、ガイアが警戒しているのも人喰花関係なのだろうか……

 

 

「依頼してくれたリーダーさんは、とっても優しくて面白い方だったんですよ」

「それ以上に強かったです。パティが両腕でも勝てない位には」

「信じられませんけど、そうらしいですね」

 

 

楽しそうに思い出しているパオラと、頬を引き攣らせ気味のクラーラの表情は、その人物をよく表しているのかもしれない。

なにせ最初から宝導師が3人も付けられた程だ、リーダーは人じゃないと思って丁度いいのだろう。

 

 

「彼女には妹さんがいて、その方も人喰花のメンバー……カルミーネさんというお名前です。強襲科のクロさんも話したことはありますか?」

「授業で何度かお手合わせ願っています……けど、手加減されてるんでしょうか、Bランク程の実力者には思えません」

 

 

建前としてはそう言っておくが、手加減している感じは無い。銃器、刀剣、格闘とどれを取っても正真正銘、彼女の実力はCランク程度のものだろう。そもそも、それでも十分高い。

チームでの実績と……試験はどうやって通ったのか?

 

 

「あいつの本気もヤバかったな。宝導師のリーダーを務めてたが手も足も出ないってのは、普通じゃない」

「!?」

 

 

宝導師のリーダーが?

高校武偵の……世界基準でのAランク武偵を圧倒したってこと?

 

(ありえん……ッ!)

 

でも、ガイアが肩を竦め、顔に手を当てて心を落ち着かせようとするのは稀だし、それも事実として受け入れるべきなのだ。

それなら、なぜ今の彼女はそこまで弱くなっているのだろうか。

 

いざとなれば格上を下す力がありながら、普段は隠す訳でもなくワンランク下の実力しか出せない。

まるで、本人の意思に反して、出せるはずの本気を発揮出来ない理由があるようで――

 

――ははあ、なるほど。それが私との共通点というわけですか。

 

 

「カルミーネさんが、私に似ていると」

「お察しの通りです、クロさん。あなたの強さは彼女にとても良く似ているんですよ」

「お前もその内、銃弾をナイフで弾き返すようになんのか?」

「なにそれ、絶対なりませんよ、そんな化け物」

 

 

(姉さんならやりかねませんが)

 

これで疑問は解けた、恐らく彼女もそうなのだ、きっと。

 

条件付き乗能力者。

それも私のヒステリア・セルヴィーレと同じ、人格が変わる程に強力なタイプの。

 

銃弾を弾き返すって辺りも、何となく親近感を感じたのは気付かないフリしとこう。

 

 

「ちなみに彼女は変化の前にどんなことを?」

 

もしかして、同じ悩みを共有できる相手かもしれないと考えたのだが、

 

「あんま言いふらしたくないな。あいつはあいつで悩んでるし」

 

お前もあんまり広めんなよと付け足されるが、心外です。

私が誰かの噂話をした事がありましたかね?

ありましたね、最近メーヤさんの噂を広めましたごめんなさい。

 

まぁ、少し卑怯だったか。

相手が武偵である以上、将来敵になる可能性があるんだし。

 

「だからクロさんも、言えなければ深くは追及しません。でも……」

「今の行為がその条件なのだとしたら、事前に説明が欲しかったところです。あなたは無自覚なのでしょうが、私にも心の準備というものがありますから」

「す、すみません……」

 

 

うう……。この3人組が、あの人喰花とか言う集団で重宝された理由が分かった気がする。

適応能力が高いし、差別的な考えもない。

そんな所がリーダーの目に留まった、留められてしまったんだろう。

 

 

「しっかし、おかしいよな。クロ、お前、変化が起こったのは襲う前だったろ?」

「襲うとか言わないでください!」

「えっと、副作用で女性を襲ってしまうんですか?」

「襲うとか言わないでください!!」

「理由はともあれ、変化と襲い掛かりはセットなんですね」

「襲うって言わないでってば!!!」

 

 

うう…。この3人組が、付いて行けた理由も分かった気がする……

 

 

逃げ場を探して時計を見ると、結構いい時間になっていた。

第七装備科の用事は済んだが、一菜の様子も知りたいし、ニンジャたちに会えていない。

夜は姉さんとゆっくりしたいから、早めに帰りたいんだよなぁ。

 

ニンジャの片割れは諜報科棟で修行をしているだろう、どれ一目会いに行っておくか。

 

 

「私の能力については、あのー……」

「ご安心ください!」

「誰にも言わねーよ。あ、けどカルミーネに聞かれたら似たようなもんだぞ、って教えるくらいは勘弁しろよ」

「おあいこですから」

「分かりました。よろしくお願いします」

 

 

彼女達がそう言うなら安心だ、信頼できる。

じゃあ、そろそろお暇しようかな。ハードスケジュールだよ。いや、別に明日に回しても良いんだけどね。

 

そう思い、踵を返そうとしたところで、再びガイアが口を開く。

しかもちょっと大きめの声で。

 

 

「その代わり、だ!」

「―っ!」

 

交換条件?!トラップカード発動?!

何事かと3人見回すが、全員が発言主のガイアではなく私を見ている。元から打ち合わせてたっぽい。

 

それを裏付けるように、言葉を続けたのはパオラだった。

 

「あの夜の事ですが。……クロさんが連れて来た方は吸血鬼ですね?」

「……」

 

 

知られてしまったからには隠す必要もない。

彼女達も襲撃者――おそらくヴィオラが前々からけしかけていた、どこぞの組織の戦闘要員だと思う――の口から聞いている。

 

最終的に、ヴィオラが言っていた通り、私は彼女の絵を覆すまでには至らず、トロヤの介入が無ければ、ヒルダの方は捕まっていたのだ。

私を信じて手を貸してくれた、かけがえのない犠牲を払った上で、である。

 

 

「どこまで知ってしまっていますか?」

「知らなくても変わりません。バチカンはすでに私達へ監視の目を付けているでしょう。この学校には生徒にも教師にも、バチカンの目が常にありますから」

 

え、それホント?私の行動、掲示板で筒抜けなんだけど。

今後はコンタクトを取る相手も気に掛けないと、どこから漏れてしまうか分かったもんじゃないよ。

 

「そんなの今更だ。カルメーラと一緒の時に比べればマシだろ」

 

マシとは言うがガイアさん。

この学校で地下教会を牛耳るバチカンの監視より酷いってなんだろう。

 

「あの時はファビオラさんが監視員だったね」

「完全に人選ミス。パティに懐いちゃってた」

「あの頃のパトリツィアも、あいつだけには甘かったな。仲が良いってのとはまた違ったが」

 

 

ああ、彼女達もかなりグレーゾーンな世界を生きて来たのね。

笑顔で裏事情を話す姿に若干の同情を覚えながらも、これなら話して問題ないと判断できた。

 

 

「パオラさん、あの女性は吸血鬼。そしてガイアさん、私達が逃走していたのも吸血鬼です」

「ま、聞く限りそうだろうとは思ってたさ。なんで一晩で2体……違うか、2人の吸血鬼に会うんだかな」

 

ガイアは「わりっ」みたいな顔をして言い直した。

爽やかな笑顔で誰かを気遣うこと言わないでッ!キュンと来ちゃうでしょ!

 

「2人は従姉妹らしいんです」

「姉妹じゃないんですね」

「そもそも、家族という概念があるのも初めて知りました」

 

 

話の掴みは大丈夫だ。

事前にある程度の予備知識があったから、取り乱すこともなく聞き入れてくれたが、次の話もそう行くだろうか。

 

 

「実はあの夜、1つ2つじゃない、たくさんの思惑が錯綜していました。あの吸血鬼達も、別々の意思で動いていたんです」

「たくさんって……」

 

困惑するのは分かるが、これが真実だからね。

よーっく、聞きたまえ。

 

「大別すれば……一菜さんを狙う組織が3つヒルダ・謎の男・トロヤ吸血鬼を狙う組織ヴィオラ、パトリツィアさんを狙う組織、バチカン、そして私達。知っているだけでも7つの思惑が入り乱れていました」

 

その内、ヒルダと謎の男の方は目的不明、トロヤはなにやらデカい事を企んでいるらしい。ヴィオラは恩人の子孫を助け出したいとか言ってたし、パトリツィアの件とバチカンはうまく処理できた。残念ながらバチカンヒルダから武偵中の方に警戒をシフトしたみたいだけど。

 

「前言撤回だ。カルメーラの時と何も変わってねえ」

 

心底嫌そうに、頭を抱えるジェスチャーで、大げさに心情を訴えてくる。

クラーラも同じような動きをしてるし、共有できる苦労があったのだろう。

 

「だね。なんで一菜さんはそんなに狙われているんですか?」

「それが分からないんですよ。私が知りたいくらいでして……。でも、一菜さんは必ず守り切ってみせますよ。大事な大事な私の相棒ですから!」

「はいはい、ラーブラブ」

「違います!」

 

 

茶化してきたものの、ここも聞き咎めずに流してくれたな。

さて、では最も重要な本題に入りましょうか。

 

 

 

「私と一菜さんはバチカンの目を欺き、吸血鬼を助けようとしました」

「やっぱり、そうだったんですね」

「どうしてだ?説明だと、そいつも一菜を狙ってるんだろ?」

 

全員が疑問を隠し切れないといった挙動で、答えを求めてくる。

そりゃそうだ、一菜自身も言っていたが、ヒルダを助けるという選択肢は明らかに地雷だ。

 

本来敵対すべきでない脅威が目の前に立ちはだかり、助けた相手が必ずしも友好的な関係を築いてくれる保証もない。

 

 

一番の理由は一菜が助けようとしたから。

しかし、本音を言えばそれだけじゃない。

 

ヒルダを抱えている間、気がしたのは偶然だろうか?それを確かめたい好奇心も、私の中には存在している。

それに、葬儀場班が生きて帰れたってことは、彼女にも少なからず対話の道が残されているのではないだろうか。結果論だけど。

 

「さあ?私もお手伝いをしているだけですし。ですが、彼女には私も興味があります。また会いたいものですね」

「節操無し」

 

なんかボソッと聞こえた気がした。

 

「彼女は無事でしょうか」

「トロヤが来たのでしたら、まず間違いありません。彼女の強さはSランク武偵を軽く凌駕するでしょうから」

 

私の発言でパオラが気に病みそうになったので、すかさずフォロー。

ごめん、そんなつもりじゃなかったんだ。

 

「霧の中で姿が見えなかったのは幸運かもしれないですね」

「あたしは見たが、スゲー美人だったな。蝋人形みたいに真っ白で、薄幸っぽい印象だったけど」

 

それは、まあそうなんだけど。

逃走中は遊んでたみたいだし、殺気も初めて美術館で会った時に比べれば大分セーブされていた。

見た目だけなら、麗しい箱入り少女だもんなぁ。

 

「美人と言えばあれだ!クラーラはアレ覚えてるか?あの蜥蜴人間」

「名前を憶えてよ……確か竜落児って言ってたよ、ファビーが」

「ああ、そんなこと言ってたな!初めて見たぞ、人喰花がフルメンバーで押された所」

「あんなの見ちゃったら、そうそう怖じ気づかなくなる」

 

あれ?あれれ?

雑談が始まったよ?もういいの?バチカンに目を付けられてるんだよ?

 

彼女らのタフネスさは尋常じゃないね。

国の組織が敵だよって言ってんのに、よくゲラゲラしてられるよ。

 

 

「あ、それとクロさん!」

「はい?」

 

パオラが改まって、こちらに紙面を提示してくる。

縦にズラリと並ぶイタリア文字と、ゼロいっぱいの数字の羅列。ナニコレ。

 

「今回の任務での発生料金なのですが……オフレコでお願いします。バチカンは今回の事件を重く見ていまして、私達の活躍――『星銀の屍姫』……いえ、『月下の悪鬼』を市民に一切の犠牲を出さずに撃退した功績を高く買っているんです」

 

彼女の丁寧な前置きで話が見えた。

中学生だと侮っていた私達の計画が思いの外優れていたもんで、早めに手を打ってきた、って感じか。厄介者が自ら監視下に入ってくるなら多少の費用はお釣りが来るくらいだ。

私ならそんな面倒は避け、釣り糸が垂れた報酬は受け取らない。

 

「……ヒルダの件は?」

「何も。クロさんの方で手を回したのでしたら、うまくいっているのかもしれませんね。バチカンはその吸血鬼の存在を公にはしたくない意思が強い。だから、口止め料を司法機関を通して支払うとの事でした」

 

 

驚く事でもないのかもしれない。

なにせ自分たちの不手際でトロヤは生きているのだし、今回も彼女の出現に対して後手に回っていた。仕方ない事ではあるが、ローマはいつでも焼き払われる危険に晒され続けていたのだ。

 

 

「車も通信機器も、クロさんが手配した用具や破壊された公共物の修繕も、使用された武装費用も医療費も、眠い目を擦りながら、請求書を作り上げました。国はこれを支払わなければなりません、なぜならこれらは全てですから」

「あー……そういう」

 

 

(フッかけたのか。国相手に)

 

こっちもこっちで、交渉に関しては手厳しいからね。

相手が相当高圧的に接して来たか、碌に会話もせず紙だけ放ってきたのだろう。

 

パオラとは必ず目を合わせて、対等な立場で交渉してあげないと。

歴戦の商人みたいに巧妙に掠め取るからな。

 

 

「クロさんやチュラさんの携帯は計算違いで買えてしまうかもしれません。その際はご相談くださいね?」

「は、はーい」

「っと、これも支給品です」

「ちょ、これって……」

 

 

パオラがカバンから次々と取り出したのは、私の注文していた脛当てレッグガードと防刃ストッキング、ベレッタの代理購入書類も入ってるぞ。

どうりであの幼じょ……天才ガンスミスのベレッタさんに請求されなかったわけだ。……ん?見慣れないものが入ってるな。

 

 

「これは何ですか?」

「ふふふっ、よくぞ聞いてくださいました!」

 

 

パオラのテンションが露骨に上がり、ちっちゃい体で大振りにアピールをして来る。

普段はふざけた言動や挙動は少ないので、親しくない人間はまず見られないレアな状態だ。

 

(あーこれもいつものね)

 

彼女は、各国に支部を持つ例の裏ルートの市場にちょくちょく顔を出して来ているらしく、目に留まった新商品を一般人に紛れ込んで数個仕入れてくる。

そして、私や一菜、パトリツィアや陽菜他数名に、テスターとして配給して感想を求めるのだ。

 

大体は役立つ便利商品となり、彼女の店舗に並ぶが、稀に酷いものもある。

私のレッグガードや陽菜の忍具ホルダーも、ここの商品を少し弄って使っているのだ。

 

最近、市場内で久しぶりに買い物友達と出会って、大いに盛り上がったという話を聞いていたし、その場のノリで買ってみたんだろう。

お相手さんは大量の薬品や弾薬なんかの購入契約をして、帰りには核燃料を買いに行くとかで別れたらしいが、どこに売ってんの?それ。てか、その人の事看過してていいの?

 

 

今回のは形状からして、鞘入りで幅広めの両刃ナイフにしか見えないけど。

普通の物は買って来ないし、業物の良品かな?と疑問を口にするまでもなく、パオラが生き生きとその名を告げる。

 

「それは"アンコウナイフ"です」

「"アンコ"……なんですって?」

「"アンコウナイフ"!黒い刀身の一部にフェイク用の蓄光塗料が塗ってありまして、暗闇の戦闘では相手に間合いを掴ませません」

「は、はあ……」

 

説明をしながら同じものを取り出したパオラは、ナイフの実演を始めた。

その子供のお遊戯みたいな動きに、手を怪我しやしないか、ハラハラする。

 

「さらに、グリップ部の付け根から、こう……分解するとワイヤーで繋がってます」

「ふむふむ」

 

彼女の言う通り、ナイフを鞘にしまいロックを解除すると、カチッと鳴ってすんなり外れた。ワイヤーが伸びる時にリールの回る音がする。

 

「これで発光する刃の方で気を引くことも出来ますし……」

「う?うーん…?」

 

リール自体にもロック機構があるらしいが、そっちは少し負荷を与えると壊れてしまうのだとか。

 

「そしてグリップの内部には少量のアルミニウム粒子を詰めて圧縮しているんです!」

「ひぃっ!?閃光弾!?」

 

鮟鱇こわい!

そんなん怖くて衝撃与えられませんわ!

 

「ご心配無く。カートリッジ式ですので、普段は取り外して持ち運べますよ。圧力弾倉とアルミ弾倉を順番に詰めて、グリップのここを押すと起爆機構が有効になります」

「怖くないんですか?爆発物ですよ?」

 

気絶しないの?首を傾げて問い掛けてみる。

だって彼女は以前に見ただけで倒れたって話を聞いたし。

 

「私が持っている物も空っぽですから。ちなみに、ワイヤーが3m以上伸びると信管が検知して電子回路が作動、約4秒後に放出、起爆します。組み立て、押し込み、投擲して放す。この3動作で使えますよ!咄嗟の準備は厳しいでしょうが、何より意表が突けると思います」

「な、な~るほど。使う機会があれば使わせていただきますね…」

 

正直、いらないと思ってしまった。

しかし、彼女の笑顔と好意を無下には扱えず、タダならと受け取ることにする。

 

「是非!容器を洗えば何度でも使えますから、使用感とか諸々聞きたいこともありますので!それと鞘は取れやすい様にベルトとは独立させていますし、何でしたら今装着しているベルトに付けちゃっても良いんじゃないでしょうか?」

「お、オーケーオーケー。よーく分かりました」

 

 

楽しそうで何よりです。

こんなもん使う機会、無いだろう。あって欲しくない。

 

まあ、夜間に一度使ってみますか。普通のナイフとして。

 

 

「ありがとうございました、ベレッタの件は本当に助かりましたよ」

「クロさん」

 

 

こ、今度は何かなー?

気付いたら昼休み終わりそうになってるんだけど……

 

(ニンジャは明日だね)

 

 

「……確認、しなくてはいけないんです」

「どうぞ、私が答えられるものであれば」

 

 

(真剣な話か)

 

彼女のピリッとした雰囲気は、竦むようなものではないが、何となく落ち着かない。

他に例を見ない独特な感覚を抱いてしまう。

 

 

「この前、お友だちの口から、あなたの名前が挙がったんです」

「お友だち、と言うと」

 

 

――核燃料さんか。

自分で付けといてなんだけど、深刻な風評被害だなぁ。

 

容姿は知らないが、パオラみたいな少女ってことは無いだろう。

きっと軍隊所属してます!みたいな女性に違いない。

 

 

「便宜上、"モーイさん"と呼びましょう」

「"モーイさん"ですね、分かりました」

「私達武偵が言うのもなんですが、実はモーイさんもかなり武闘派な学校に通っていらっしゃるみたいで」

 

 

(武闘派な学校ってなにさ。やっぱり軍人養成機関か?)

 

パオラと気が合うってことは、礼儀正しい人の可能性は高いな。

モーイさんの事を話してる時の彼女は実に楽しそうだったし。

 

 

「クロさんはその学校内でも、かなりマークされています。えと……リトル……バンディーレ?だったかで、引き入れるか、早めに……処理してしまうか。一部ではそんな話が出ているみたいです」

「まーたですか。ホント勘弁して頂きたいものですよ……その何とかかんとかも初めて聞きました」

 

1文字も覚えられなかったや。

ま、まあ、スイッチ入れれば思い出せるから……

 

「そうでしたか。リ…モーイさんは良く分からないらしいのですが、過去に死者も出ているとかで……」

 

 

トロヤにヴィオラバチカンもそうだし、箱庭ってのも迫ってるらしいし、バンディクートだか知らないけど有袋類みたいなのも増えて来た……

悩みの種が尽きないよ。

 

 

「知らないんですね?」

「はい、聞いたこともありませんでした」

「そうですか……なら、いいんです!お引止めしてすみませんでした」

 

 

言うが早いか、パオラはいつも通りのほわっとした空気を取り戻す。

案じるような視線も、不安を払拭できたからか、雲間からお日様のような明るさが顔を出した。

 

 

「教室に戻りましょう。クラーラさんもガイアさんも、もう休み時間は終わりますよ」

 

 

楽しそうに話し込んでいた2人もそろそろ切り上げないと授業に遅れてしまう。

随分と熱中していたようだし、こちらの会話は聞いていなかっただろうな。

 

 

「お?そんな時間か。話してるとあっという間だな」

「懐かしいお話。あの頃には戻りたくないけど、皆は何してるのかな?」

「グローリアさんだけはどこに行ったのかすら、分からないよね」

「あいつは自由人だったし、旅好きって言ってたしな、どこに居ても不思議じゃない」

「ほーら、行きますよ!」

 

 

またしても話し始めた3人をせっついて、教室を後にする。

午後からは眠くなりそうだなとか、平和的な事を考えていたけど、なーんか忘れてるよな?なんだっけ?

 

必要になれば思い出すだろう、そう結論付けて歩いていく私の後方には、ジネストラの香り。

加えて今日は、ほろ苦くて甘さのあるムスクの香りとフロリエンタルなローズとパチュリの甘く深い香りが混じり合っていた。

 

 

 

午後の授業にも付いて行けるといいな。

強襲科の自主練もほどほどにして、今日は早く帰って、姉さんとゆっくりしよっと!

 

 

 

 




3人組の異常事態への耐性は、過去の経験からくるものだった事が明らかになりましたね。特にクラーラは相手の危険度と他者を害する意識をモヤモヤと称して知覚する司令塔、パオラは交渉事と機器整備、ガイアは運送と2人の護衛をそれぞれ担当し、カルメーラによって登用され続けました。
カルメーラが中東に旅立ってからは、主にパトリツィアとカルミーネの依頼の他に、個別で任務を受注するようになったようです。
人喰花の名前は全員出揃いましたね、その関係性も少しずつ分かってきたと思います。