まめの創作活動

創作したいだけ

黒金の戦姉妹23話 隠情の黙止

 
再起動やだ。
もうやだ。またデータ消えた。
 
過去編を飛ばす為に書き直し過ぎてて頭に残ってないよ……
もう駄文のまま直さなくていいや。




隠情の黙止アンノウン・アナウェア

 

 

 

薄暗い牢の中、鼠色の物体に覆われた少女が地に倒れ伏し、そのすぐ傍には小柄な少女が膝をついて、抱き掛かる様にして全身を揺さぶっている。

自分の名を唱えた少女は、それが何年ぶりだったかを思い出していた。

 

縛られた自分自身を解き放つ、魔法の呪文を唱えたのだ。

大好きだった姉の命令を破ってまで。

 

今は自分を見付けてくれた彼女だけを案じて、その目には自分の行動を見咎める魔女達の姿を映していない。

だからこそ、伝わったのだ。彼女の心に根ざす、過去から救いを求める信号が。

 

 

 

その信号こそが、眠れる存在を呼び覚ます、条件なのだ。

 

 

 

 

ピリピリピリィッ――!

 

 

 

 

(……ほほう、信号は1つじゃない、と)

 

 

この深く甘い香りは……訳アリなんですね。ホント、素直じゃない。

良いですよ、一考の価値ありとしましょう。

お説教は確定ですが、絶交については情状酌量の余地があるかもしれませんし。

 

 

 

それを決めるのは、私だけじゃない。だ。

 

 

 

――さあ、起きてください。覚えていますか?あのお祭りの日に出会って、夏の終わりに別れて。そして、いつからか私たちを待っていた、を――

 

 

「"当たり前だろ?忘れてんのはお前の方じゃねーのか?"」

 

 

――認めますよ。名前を聞くまで、彼女達だと気付きもしませんでしたから――

 

 

「"そうだよな。……じゃなきゃヒルダとトロヤに出会った時点で……いや、オリヴァとエミリアに会った時点で、あたしが起きてたはずだしな"」

 

 

――2人とも、なんであんな偽名を名乗っているんでしょう?――

 

 

「"知らねーけど、あいつらは変わった。ヒルダと理子も。変わってねーのはトロヤくらいのもんだろ。お前も……変わったんだな、1回死んだからか?"」

 

 

――死んでませんよ!私は普通の中学生です!――

 

 

「"死んだときは小学生だっただろ。しかも女装して浴衣着てな…くふふふッ……可愛かったぞ?ピンクの振袖"」

 

 

――なんですかそれ!私は女ですので、生物学的に女装は出来ません!――

 

 

「"ああ、そうだったな。いいよ、あたしの力を貸してあげる。だがな、とは縁を切れ。も近付けんな。あたし達が守るべきは、それとの奴らだからな?"」

 

 

――懐かしい響きです――

 

 

「"そういうとこは覚えてるのか"」

 

 

――何ででしょうね?――

 

 

「"聞くなよ。あいつも……人間だからな。失敗くらいするだろ"」

 

 

(理子の名前をカギにするとは、いい作戦だよ。だから今はまだ忘れたフリをしといてやるが、あたしの事を見忘れたとは言わせないぞ?オリヴァテータ)

 

 

 

 

久しいな。

でもって、懐かしい。

 

あの祭りの夜は、キンジあたしがカナとの賭けで負けたのが事の発端だったんだ。

賭けの勝負は確か……線香花火の5番勝負。

 

……カナ、なんか仕掛けただろ。3本先取された上に全敗ってのは納得がいかない。

並べられた10本の中から自分で選んだのは確かだが……

結局、種が分からないあたしの負けで、泣く泣く女子用の浴衣を着せられたな。

 

薄ピンクの生地に赤い牡丹と黒い葉がプリントされてて、光沢の少ない金と薄水色の帯で着付けたと思ったら、付け毛と銀平のかんざしで飾り立てられて。

レンタルらしいけど、用意が良すぎる。

 

 

怪盗団はその日、日本に来ていた。拠点があるらしい。5人組で、日本観光だとよ。

密入国してないだろうな?なんて追及したらかなりの常連さんだったのには驚いたぞ。

 

最初の出会いは……カナとはぐれたあたしと、怪盗団からはぐれた理子。

泣いてる理子に、そのフリフリの浴衣はなんだって聞いたのが初めての会話――

 

これはトロヤお姉さまが好きなの、って。

そんな奴知らなかったよ、その時は。

 

 

 

 

 

「"おま……あなたは理子、って名前だ…ですね?"」

「"クロさんッ!"」

「"理子!どいて!そいつ潰せない"」

 

 

(知り合いがいると遣り辛いな。口調も、仕草も、女みたいになりやがってよ)

 

状況は悪い。

あたしは身動きが取れず、下手な事をすれば理子とヒルダにあたしのことがバレる。

……覚えてるかは微妙な所だけどな。

 

トロヤは恐らく気付いてて、泳がせてる。

悪役が板についてきたな。お似合いだが、本物の悪人に堕ちた理由を聞きたいよ。

聖女様に戦いを挑んだり、エミリアと仲違いしてまであたし達の覚醒を急いだのも、あたしを目覚めさせる為の荒っぽい手段だったわけだ。

 

それはこのためだろう。あの三日月の晩に再会した後、ヒルダに何をどう話したかは知らないけど、そこからヒルダの行動は始まったと考えられるな。

そういや、ヒルダはあたしの事、おもちゃっつってなかったか?どんな伝え方してんだよ、あのバカ吸血鬼。

 

で、あたしをあたしと知らずに探して、ローマまで来たんだ。きっとフランスの拠点で、あたしの噂でも聞いたんだろ。裏の世界では結構な有名人らしいし。

しかし、あいつがに縋るとは、相当に参ってるんだな。

 

 

でも、それがどんな理由であれ、この状況をあたしが許す訳がないだろ?ヒルダ。

また理子が1人で泣いてるじゃねーか。祭りの日と一緒だよ。

 

 

「"理子…手を……"」

「"えっ!う、うん……"」

 

 

お説教を垂れるにも、潰れたヒキガエルみたいな格好のままじゃ締まらない。

まずはこの戦況をちょいっとひっくり返す。表裏を返すのは得意なんでな。

 

そのための一手だ。

あたしは差し出された小さな手を両手で包む。

 

 

「"下がりなさい!4世――"」

 

「"お前は黙ってろッ!!"」

 

「"――ッ!?"」

 

 

口調を荒げると、ヒルダはおろか、その隣のアラビア少女も、あたしを追い詰めたローポニー少女も、危険を察したように身を竦めて半歩、後退る。

理子は……もう意識が無い。

あたしの右手には一菜の御守りが握られていたからだ。

 

 

奪った。

文句は言うなよ?あたしは怪盗団の一員だからな。盗んで当然だ。

借りるぞ、理子。

 

 

お前の力と……お前の思いを!

 

 

「"そうか、粘性の液体――『造流』……お前が、『リンマ』か"」

「"――!人間、私の事、知ってる?"」

「"昔、話に聞いただけだ。お前の事は知らない"」

 

 

一喝と対話により戦意を失いつつあるものの、かかる重力は未だに大きい。

そういえば、抜け出して見せろとか言ってたか。大口を叩くのは勝手だが、怪盗が最も得意とするのは……

 

 

「"抜け出してやるよ。そしたらまた、捕まえてみな"」

「"リンマっ!気を付けい!そやつの気配は……超能力者ステルシーぢゃ!"」

「"っ!"」

 

 

おかっぱ少女があたしの力を少し勘違いしているようだが、言われてみれば似たようなものだ。

理子、お前の力は……あたしから見ても特別だよ。

 

あたしがヒルダの宿を使えるのも――お前たちの絆の証だな。

 

 

「"くふふっ、ご存知だろ、『私達怪盗の一番の取り柄は逃げ足ですから』……ってな"」

「"そのセリフは……!"」

 

 

 

バツンッバツンッ!

 

 

 

頭から強い衝撃音が響き、長い黒髪が幽鬼の如く宙に浮かび上がり――

 

 

 

バッバッ!バチィッ!

 

 

 

広がった髪の隙間を縫うように、白い閃光が走り回る。

その光は強く、明るく、小さな太陽を連想させ、その速度は速く速く、見えているのは残像でしかない。

 

 

「"この力……ッ!リンマッ!顔を――――"」

 

 

その警告は遅すぎたな。

この攻撃は音速よりも銃弾よりも遥かに早い――

 

 

 

 

「"夜明けが来るぞ……闇よ、静かに眠るがいい!『ワラキアの幽弦』ッ!"」

 

 

 

バリバリバリバリバリィッ…………カッッッ――――!!

 

 

 

髪の毛が、まるで挿入曲のハープを奏でるように靡いていき、その隙間から幾本もの閃光が迸る。

同時に地下牢には優雅な調べとは程遠い、落雷音と聞き間違うほどの轟音が鳴り響き、人間だけではない、そこにいる者を等しく萎縮させた。

 

闇は突如として出現した白い太陽によって照らされ、掻き消され、昼夜が入れ替わる様にその勢力を奪われて、コンマ数秒の眠りに就く。

やがて白い光は勢いを収め、しかしその姿は消えることなく空に浮かぶ。

 

夜明け空に浮かぶその光は、まるで金星――明けの明星のようだ。

 

 

おやすみボンニュイ親しき友人たちよモナミ・ポッシュ

 

 

フラッシュが消え、音の残響が収まった地下には、最も近い位置で光を直視して気絶した少女と、反応が遅れた為に視覚と聴覚を奪われて冷たい地面に座り込む少女、そして鉄格子を挟んで視線を交わし合う2人の少女クロとヒル

 

他には誰もいない、2人だけの空間で、互いの姿を認め合う。

 

始まりは日没に出会って、夜明けに別れた、あの祭りの日。

それを懐かしんでいるのはあたしだけだよな――

 

 

「"…やってくれたわね、クロ"」

「"ようやく、2人きりだ…すね"」

「"いまさら、何を取り繕おうとしているのよ。それがお前の本性なのでしょう"」

「"ええ、そんなところです"」

 

 

間違いを指摘したい箇所は多々あるけど、話がややこしくなるからな。

今はそんな話をしたいんじゃないんだ。どうでもいいんだよ、あたしの事なんて。

 

 

もう死んだんだから。

 

 

「"お前は自分が何をしたのか、分かっているのかしら"」

「"あなたの方が良く分かっているでしょう?理子の力をお借りしたまでです"」

「"っ!そんな事が出来る訳……"」

「"無いでしょうか"」

 

 

動揺を押し隠そうとするヒルダへのトドメとばかりに、自分の髪の毛を1本抜いてダーツの様に構えたまま、これ見よがしに見せ付けた。

その意味はしっかり伝わったのか、また1歩下がりつつ足元の薄い影を確認している。

 

脅しの効果は抜群のようで、戦闘の意思は大幅に削ぐことが出来たようだ。

あたしは理子が使える技を、殺生石によって彼女の生体エネルギーの一部と共に借りる事に成功した。そこまでは把握できはしないだろうが、少なくともあたしが宿金の力を操れることは察したらしい。

 

 

「"あなたの大切な妹を、こんな地下に幽閉した理由を教えてください"」

「"ッ!妹ではないわ!そいつは人間、脆弱で愚かで――"」

「"ヒルダッ!"」

「"うっ…!"」

 

 

立場が完全に逆転している。

力を信条とするあいつらにとっては、それが道理にかなってるからな。

 

 

「"答えてください。どうしてあなたがこんな事をするのかを"」

「"お前には関係ないわ"」

「"あなた達の間で何があったんですか?"」

「"関係ないと言っているでしょう!"」

「"なぜ、オリヴァやエミリアと敵対しているのですか?"」

「"――ッ!!お前に何が分かるというのかしらッ!"」

 

 

バチバチバチッ!

 

 

(やれやれだな。怪盗団の内部分裂の原因は、また後で知るとするか)

 

感情に任せた電撃は、こちらに届くことなく鉄格子を伝う。

それがそのまま、彼女のやるせない気持ちの意思表示に感じられた。こちらに向けられた八つ当たりの表情も、どことなく覇気がない。

 

それでも……あたしのやろうとしている事には勘付いているのか、緊張を解かずに影に隠していたのだろう細剣を取り出して構えた。

 

 

「"トロヤお姉さまのお遊び怪盗団を知っている人間は少ないわ。お前は……"」

「"言葉を返してあげます。『あなた達には関係ありません』"」

 

 

ぴしゃりと言い放ち、行動に移す。

今の彼女に足りないのは、謙虚さや思いやりなんかじゃない。自覚だ。

 

だから言葉でのお説教だけじゃ物足りないだろ?

 

3度目の正直だ。

今度こそ、あたしがリベンジしてやるよ。

 

 

「"ヒルダ。同盟の件は考えておきますから、今夜はこの辺で帰らせていただきますね"」

「"待ちなさい!お前……そいつをどうするつもり……?"」

「"?理子の事ですか?もちろん、頂いていきますよ。あなたも私に同じことをしたでしょう。『欲しいモノは力づく』で、それは任務における武偵流と同じですから"」

「"外に連れ出す……そういうことね?"」

「"それ以外に何があるんですか――"」

 

 

 

シュッ――パシィッ!

 

 

 

手から鮮血が飛び、頬に細剣の先端が触れた。

細剣から滴るあたしの血が、涙の様に伝っていく。

 

血の流れに逆らって滑らせた視線の先、彼女の表情に覇気が戻った。

じっくりと場を見据えていて、いざとなれば刺し違えてでも、なんて考えが見え透いている。

 

(必死だな。良いぞ、その表情だ。その調子で――)

 

 

「"なぜ、止めるのでしょう?"」

「"私のモノは奪わせないわよ。クロ、そいつを置いていきなさい。今日、お前を見逃すのは最大の譲歩だと思うことね"」

 

 

(――本心に気付かせてやるよ)

 

 

鉄格子を挟んだまま、細剣を引き付けて無理矢理にこちらに近付けさせる。

良く、見えるように。彼女の大切なモノがすぐそこにあることを教える為に。

 

 

「"大切なモノなんですね"」

「"!……違う!違うわ…その子は……ただの……ペットで……"」

 

 

強がる彼女の武器を、流れを掴んだ合気道の要領で奪い取る。

呟くように尻すぼみになっていく言い訳が、再びあたし達の距離を広げようと、赤い唇から漏れ出してきて……

 

大切なモノから……大事な家族から目を逸らそうとするから、今度は空いてしまった彼女の手を掴み取り、鉄格子を越えて同じ場所に引きずり込んだ。

 

 

「"大事な家族なんですよね"」

「"…………ちが……う、の。この子は……"」

 

 

否定する力が失われてきた。

こんなにすぐ傍で眠る、大事な家族……大好きな妹が、彼女の心に宿り、隠してきた気持ちを――

 

 

(惜しい……が、もう一手、必要か)

 

 

「"…大好きな…妹を、助けたいんですよね?だから私を、ここに連れてきた。誰にも近付けさせなかったこの子の隣に閉じ込めて、心のどこかで期待していたんですよね"」

「"……あ…………"」

「"どうしてあなたはいつもそうなんですか。理子がトロヤと一緒に服を仕立て上げたら、トロヤと一緒に翼をパタパタさせて"」

「"…………う……あ……"」

「"フリフリの服を貰って、『要らないわ』なんて言ってるくせに、理子が寝てる間にワクワクしながら着てる所もトロヤと一緒にこっそり見ちゃいましたから。ヒマワリが良く似合う白い服、くふふっ……意外と似合ってましたよ?"」

「"………あああ…………"」

「"まだ、日本の拠点に飾ってあるんでしょう?宝物、ですもんね"」

「"……おまえは……"」

「"お願いですから、素直に……素直になれよ、ヒルダ……あたしだけじゃ、理子を助けられないんだよ……"」

「"…………かなせ……なの?"」

 

 

……まあ、分かるよな。

 

姿形も声も髪も、お祭りのお面を付けてた顔も、全部変わったけど、こんな話が出来るのはあたししか、いないだろうし。

でも、あたしの事はどうでもいいだろ。

 

 

「"その人間の事は知ってる。もう死んだ人間の名だ。お前たちの方が良く知ってるだろ"」

「"そう……だったわね。人間は……儚い生き物よ。そういう事にしておくわ"」

 

 

これでこの話は終わり。

問題は理子をどうするかだ。

 

理子は……もう普通の世界には戻れない。

宿金はもう定着してしまった。

ただのアクセサリーのようなは既に結ばれたのだ。理子とヒルダの間で。

 

 

ヒルダは自身との絆を断ち切ることによって宿金を別離させようとしたようだが、結果はご覧の有り様。

 

 

お互いが相手の気持ちを分かってしまうから、その信頼が消えることは無かった。笑えないよ。

大体、そんな方法を試す暇があったら、力を合わせて挑戦した方が何倍もマシだったろうに。

 

 

「"クロ……この子を、理子を救えるのかしら……?"」

 

 

そんな縋るような眼を向けるな。方法なんてある訳ないだろ。

暴走を収めろってのなら話は変わるが、超常現象についてはお前達よりも疎いんだから。

 

 

「"諦めなきゃ方法はゼロじゃない。だが、あたし達には圧倒的に宿金に対しての知識が足りていないんだ。ヒルダ、宿金について、なんでもいい、関わっている存在なら作り出す側でも、使いこなす側でも、人間だって魔女だって構わない。思い出せるだけ、すべて挙げてみろ。片っ端から当たっていく、それしかないだろ!"」

「"……ええ!あなたと一緒なら……心強いわ!……無策なのは頂けないけれど"」

 

 

蝙蝠の翼が僅かに揺れる。

そうか、嬉しいか。素直だな、お前の翼は。

 

 

「"一言付け足さなくていい!とりあえず、この場を収めるぞ"」

 

 

ヒルダは憎まれ口を叩ける程には気を持ち直したようだし、悪いな、この件にはお前にも付き合ってもらう。

 

そうと決まればこんな地下牢に留まり続ける理由もない。

気絶したままの理子とトサカ少女――リンマをベッドに寝かせなくてはいけないし、そこに座り込んだアラビアンも……

 

目が開いてるな。

防御策は練ってあったのか、抜け目のない奴らしい。

 

 

「"……話は終わったかの"」

「"…どこから聞いてました?"」

「"そう殺気立つでない。同盟の誼ぢゃ、妾も…妾の戦士を遣わしてやらんこともない"」

「"ヒルダ"」

「"パトラは信用できるわ、仲間である内はね。だからこそ同盟を結ぶ事にしたのだもの。でも油断はしない方がいいわ、気を付けなければ後々、足元をすくわれるわよ"」

 

 

油断ならないらしい同盟相手と話していると、見た事がある奴が3体、牢の前に現れて歪んだ鉄格子から中に入り込んでくる。

 

(あいつ……!)

 

ゴレムという名の使い魔。こんなにいたんだな。

それとも、あっちの人がゴレマさん、こっちがゴレミさんみたいな呼び分けはあるんだろうか?

全員同じジャッカル人間にしか見えんが。

 

(……鍵開けろよ)

 

 

「"ヒルダ、客間に案内せい。この拠点に来るのは初めてぢゃからの。……ほほっ!良いのであろう?お主の『だーい好きな妹』を外に出してしもうても"」

「"……フンっ!勝手にすればいいわ。こっちよ、付いてきなさい"」

「"あ、ヒルダ。ゴレムさんって人を運ぶのメチャクチャ下手くそですよ"」

「"!!"」

「"ほほほっ!王族以外に敬意を払う必要など無いのでな、少々徒や疎かにはなってしまうのは仕方なかろう"」

「"!!!"」

 

 

(くふふっ。相変わらず、面白い反応だ。子供の頃は少し怖かったけどな)

 

パトラだったか、どっかの王族に仕えてるらしき発言だが、こいつとも仲良くできそうな気がしなくもない。

……何か企んでる顔をしているのが気に掛かるが。

 

 

 

「"クロ!お前が理子を運んできなさい!"」

「"ヒルダが運べばいいじゃないですか、そのご自慢の影で"」

「"つべこべ言わずに運ぶのよ!あっ、丁寧に扱いなさい?そっと持ち上げるのよ?"」

「"はいはい、分かっています"」

 

 

宿金の方は、急ぎ過ぎず気長に探すしかない。

最高のタイミングなのだ、このリトル・バンディーレは。

 

各国から実力者が集まれば、誰かしらが情報を持っているに違いない。

この機を逃す手はない。探し出してやる、宿金を引き剥がす方法ってやつをな。

 

 

 

 

客間に到着し、理子とリンマをベッドに眠らせる。

セルヴィーレは先程、水位上昇により停止、脱力感に襲われながらも、どうにかこうにか理子を運び込んだ。

パトラは客間までは付いてこず、ゴレ…ム?さんもリンマを送り届けると、さっさと部屋を出て行ってしまった。

 

室内には静かな時間が流れており、この拠点が……ヒルダが生きてきた世界自体が停滞してきた錯覚さえ覚え、おせっかいかもしれないが、私はこういうのを放っておけない性分なのだ。

何も言わずにサイドチェアに腰掛けた彼女へ、逃げられないように後ろから腕を回して拘束する。

 

少しだけ抵抗を見せたものの、頭を撫で始めると借りてきた猫の様に大人しくなって――ああ、そうだった。無意識だったけど、昔は立場が逆でしたね。

 

 

現在、取り組むべき目下の目標は星々を繋ぐ事になる。

拗れに拗れて、避けては通れない、大きな壁になりそうな予感がしているのだ。

 

 

「"ヒルダ、大事なお話があります"」

「"……ッ!な、何かしら"」

 

 

きっと同じ事を考えていたのだろう。

緊張からか変に力が入って固まってしまっている。

 

安心を与えようと思い、項垂れてしまった金髪ツインテールの頭に自分の頭をくっつけて、抱く力を強めた。

そうしなければ、罪悪感に囚われて暴れ出しかねないだろう。

 

 

――そろそろいいかな。

 

また、言葉を返させてもらいますよ、ヒルダ。

 

『今はそれでいい』

 

私が理子を見守ってあげます。

 

 

 

でも、更に言葉を追加する必要もあるんですよ。

 

 

「"私もあなたの苦しみを受け持ちます。これまでに、あなたはどれほど理子を傷付けてきましたか?"」

「"……はぁ、そうよね。そんな事だとは思っていたわ"」

 

あれ?緊張が解けた?話が始まったら案外あっさりとしたもんだ。

どことなく声にもとげとげしさが混ざっているし。怒ってる?

 

「"……そう、ね。私はまず、あの子の自由を奪った。お父様が宿金の事を知ってしまった可能性がある以上、見付かれば私は逆らえない。トロヤお姉様がいるなら話は別だったけれど……強者は絶対よ、それは自然の掟"」

 

要するにそのお父様とやらから、わけあって理子を引き離したのか。

気になるのはトロヤの存在をぼかしたことだが……

 

「"トロヤは……"」

「"どう説明したら良いのかしらね。全滅したのよ、怪盗団は。巨大な化け物と人型の化け物に襲われて"」

 

怪盗団が全滅…か。

それって、トロヤとヒルダ、エミリアが一緒に戦って負けたって事になるよね。……なっちゃうよね。

 

「"……冗談ですよね?"」

「"冗談で負けるなんて、私達が話すと思っているのかしら?"」

「"ごもっともです"」

 

世界は広い。

早くも心が折れそうになった。

 

「"クロ、手が止まっているわ"」

「"あ、ごめんなさい"」

 

(……あれ?その催促いる?……まあ、いいや)

 

ショッキングな内容で止まっていた手を動かして、ヒルダの頭を撫でていく。

 

「"続けるわ。あらゆる繋がりを断ち切ったの、誰にも見付からないように。宿金を使いこなせる人間なんて、世界にも数えるほどしかいない、希少な存在よ"」

「"その力を狙うものは多いでしょうね"」

「"いいえ、よ"」

「"――ッ!?"」

 

(なんで――)

 

「"その話は自分で調べなさい。重要なのは理子の命が狙われているという事なのだから"」

「"……はい"」

「"ここまで聞いて、あなたはどう思ったかしら?"」

「"まだ、なんとも。余計な先入観を持ちたくはないので、最後まで聞かせてください"」

 

正直、彼女のやり方は極端だと思ってしまった。

だが、それも私の知識不足から来るものかもしれない。なぜ、珍しい力を手に入れずに殺そうとするのか、それが理解できないのだ。

 

彼女達を救うと発言した以上、知らないでは通せない。

 

「"そう、なら1つ言っておくことがあるわ"」

「"…?なんですか"」

「"今日は疲れたわ、肩を揉みなさい"」

「"あ、分かりました"」

 

(……おや?この催促いる?……まあ、いっか)

 

「"……んっ、ああぁ…いいわよ、続けなさい"」

「"はいはい……じゃないっ!続けるのはあなたですよっ!"」

 

いけませんわ!まんまと引っ掛けられてしまいましたの!

 

「"真面目にッ!お願いッ!しますぅッ!"」

 

語尾に合わせてグッグッグッ!と押し込み、ささやかな抵抗をしてみるが、銃弾すら涼しい顔で受ける彼女には効果があまりないみたいで、おほほっ!と高笑いされる。イラァ……

 

「"……クロ、約束しなさい……いえ、約束して。私を……幻滅しても、嫌っても構わないわ。でも、私から理子を奪わないで、一緒に理子を守って欲しいのよ"」

「"……ふーん、ほーん。別に、私は構いませんよ?あなたがどうやって理子と和解するつもりかなんて思いつきませんし"」

「"ぐっ……それは……方法は考えてあるわ……"」

「"ヒルダ、いつまでもコソコソと、影の中に隠れられると思わないことですね"」

「"……そのセリフは、わざと被せてきたのかしら?"」

 

このセリフはフラヴィアがヒルダに対して言い放った言葉。

あの時は深い意味などない悪口だと考えていたが、この現状を揶揄したものだった。

 

「"理子を救おうと、ずっと戦い続けてきた仲間もいるんですよ"」

「"それも分かっていたわ。あの子は……理子と特に仲が良かったから"」

 

 

あなたの選択は、間違っていなかったのかもしれない。

それでも、その選択は最後の最後に取るべきものだった。

 

 

繋がりを切ってしまうような方法に、未来に繋がる道なんて残っている訳ないんですから。

 

 

「"私がついています。大丈夫ですよ、みんなあんなに仲良しだったんですから。ちょっとした失敗なんて笑って許してくれたでしょう?"」

「"あの頃とは、違うのよ。あなたが…知っている頃の怪盗団とは"」

「"うーん……確かに、みんな変わってて驚きましたね"」

「"そ、それで?言いたいことはそれだけなのかしら?"」

「"え?何がです?"」

「"………あら、そうッ!"」

 

 

バチィッ!

 

 

(痛っったぁあ!?)

 

 

なんで?なんなの?なんでなの?

 

 

「"痛ったぁい!顔、顔はダメですって!焦げちゃう!ガングロになっちゃいます!"」

「"不遜を働いた罰よ。干乾びたタンブルウィードの様にしばらく転げ回っていなさい、この愚か者!"」

 

 

ヒルダはカツンカツンとヒールを鳴らし、ドアの方へと歩いていく。

…音がするだけで痺れて瞼が開かない。

 

 

「"ヒルダぁー!この借りは必ず返しますからね!忘れたとは言わせませんからーっ!"」

「"おほほ!覚えておいてあげるわ。次に同じことをしたら倍の威力を喰らわせてやるわよ"」

 

 

 

――パタン。

 

 

 

 

「"――――忘れたとは言わせない……ね。トロヤお姉様も人が悪いわ"」

 

 

 

 

「"…………お帰りなさい、金星かなせ"」

 

 

 

 

「"あなたなのでしょう?"」

 

 

 







今回でヒルダ・理子編は一旦終了。
あと少しだけ、作戦会議の部分は残っている為、どこかしらに挟んでいきたいと思っています。

窓枠についても、また新たな情報が発信され、クロなりの殺生石の使い方も登場しましたね。トロヤが一菜との仲を尋ねた理由はここにあります。

後は新単語"怪盗団"と本格的に関わり始めた"宿金"の存在。これは長らく関わるものなので、頭の片隅にでも。