まめの創作活動

創作したいだけ

黒金の戦姉妹24話 還元の短絡

還元の短絡ショート・リピーター

 

『クロさん、右方向にターゲットの車を発見しました。少し離れた場所にさらに2台。おそらく罠でしょうが、攻め込みますか?』

「一菜、陽動はカンペキ?」

『もちろんだよ!もう、みーんなあたしに釘付けだってー!』

「分かりました。フィオナ、私が一度接近します。そのまま押さえられれば良いのですが、仕損じればあなたの出番ですよ」

『ええ、お任せください。思う存分かましてくださいね』

「言われなくても」

 

 

現在、作戦行動中。

内容は単純明快で、裏取引の現場を押さえ、身柄を拘束すればいいだけの簡単なお仕事。

 

短機関銃が放たれる音が遠方から聞こえてくるが、恐らくその目標であるポニーテールの少女には届かないだろう。

両手に拳銃という名前の鈍器を構えた小柄な仲間は、その体格からは想像もつかない程のポテンシャルがあり、持ち合わせた野生の勘と前線に立ち続けた経験を生かした射線の予測と反射神経で、銃弾を銃で弾くという荒業をやってのける。

避けるという方法を極力排除した彼女の立ち回りを私は『ブレーキと装甲の無い人間武装車両あたまがおかしいひと』と称しているが、その通りだろう。

 

 

『うっらぁぁああーー!!』

 

 

うるさい。

叫ぶのであれば通信機の発信ボタンをオフにして欲しいものだ。

クラーラから借りたこの通信機は、ボタン1つで常に受信と発信を同時に行える電話のような役割を果たしてくれるので、便利は便利なのだが、こんな風にうるさい人に持たせるとしょっちゅううるさい。

こちとら建物の影から車確認しようとしてんだから、音でバレるでしょーが!

 

 

「フィオナ、個人回線でお願いします」

『もう切り替えてますよ。一菜さんのサポートも私にお任せ下さい』

「助かります。……こちらもターゲットの車輛を目視出来ました。確認しますが、連続確中範囲ですね?」

 

 

連続確中範囲リコイルフルバーストレンジとは、フィオナがマークスマンライフルのフルオート射撃を全て狙った場所に放てる範囲。

自分では400m弱であると説明しているが、最近の彼女は440m程まで伸びてきている。

自信のない彼女らしいが、リーダーである私への虚偽の報告は減点対象ですよ?

 

 

『当然です。何発必要ですか?』

「2+6発下さい」

『……分かりました。その後の状況次第では、一菜さんの補給に動きます』

「あ、ついでに私にも1つください」

『400m四方でしたら割増料金でお届けしますよ』

「お願いします。少し一菜と一緒にはしゃぎ過ぎました」

 

 

今でこそ一菜がたった1人で敵勢力の陽動を引き受けているが、最初は私も影からこっそり参加しており、夜ではない上、カナも一緒じゃないから、不可視の存在は発動出来ないものの、はぐれ者を間引く程度の事はしておいた。

1人に大体2~3発、フィオナがターゲットを発見して報告が届くまでに8人間引くことにより20発の銃弾を消耗していて、ちょっとだけ残弾が心もとなかったのだ。

 

これで弾切れという後顧の憂いも断った。

フィオナの支援は一菜と組んだ時の心強さとは違い、見守られているという安心感が大きい。一菜はフォローが必要だが、彼女はフォローをしてくれる側である為、私も全力で事に当たることが出来る。

 

後方に仲間が控えているというのは、それだけで心に余裕を与え、思考を安定させる。

その仲間が有能であればあるほど、前衛はその力を意識せずに底上げされるのだ。

 

 

「私が1歩踏み込むタイミングに合わせて下さい。一瞬ですよ」

『クロさんが数え間違えなければ、機を逸することはありません』

「えへへ、あなたの言葉は安心します。私はフィオナのそういう所が好きなんですよ」

『……8秒時間をください』

「?どうぞ?」

 

 

あれ?通信切られちゃった。向こうで何かあったのか?

不安で彼女が潜んでいるであろう廃屋の方を見るが、彼女は顔を出していない。

通信が切れる直前に『Sag du es jetzt...?それを今言いますか……?Unfassbarばか......……』って聞こえてたけど、ドイツ語の意味は分からない。一菜から連絡があったのかもしれないけど、任務での焦った彼女は珍しいぞ。

 

 

「フィオナー?何かありましたか?」

『……』

 

 

受信が切られているのかそれどころでは無いのか、返事は返って来ないな。

唐突に1人であることを思い知らされて、心細くなる。ぽつーんって感じで。

 

 

『クロさん、お待たせしました。準備が整いましたよ』

「一菜の方で何かあったんですか?」

『いえ?私に連絡は来ていませんね。受信してませんから』

 

 

あ、そっかフィオナも個人回線につないでるんだった。

どうやら1人ぼっちなのは私ではなく一菜の側だったようで、自業自得とは言え少し気の毒に感じるなぁ。

 

 

「よし!行きますよフィオナ。あなたの力を貸してください!」

『いつでも行けます』

「1...2...3...GO!」

 

 

私は地面を蹴って駆け出す。

今日は飛ばない。いつも飛んでるように感じていたのはそれほど毎日がおかしかっただけで、あの加速は体への負担が意外と大きいのだから、使用を控えるのはごく普通の帰結だ。

 

 

 

――――ダダダダーンッ!

 

 

 

フィオナの銃弾が正面の車に浴びせかけられた。

最初の1発は後輪タイヤに、残り3発は全てが助手席の窓ガラスの同じ場所に着弾し、防弾ガラスを割ってしまう。

 

 

「くそっ!いきなり撃って来やがった!」

「車を走らせろ。後ろから走ってくる奴がいる」

 

 

(相変わらず精密な射撃ですね)

 

狙撃を受けたことで逃亡を図るつもりのようだが、無理だろう。こちらに銃を向けようとしているがそれも無駄。

我らが狙撃手様は良く見てらっしゃるからね。

 

 

 

――――ダダダダーンッ!

 

 

 

今度の銃弾は初撃が前輪タイヤに、残りの3発は……

 

 

「ぐあっ!」

「どっからだ…!」

 

 

運転手の両腕と助手席で銃を構えようとしていた男の短機関銃を持つ右手首を撃ち抜いた。

 

(そして、どこまでも無慈悲だよ)

 

狙撃手と言うのはストイックな存在で、武偵における殺人の禁止とはすこぶる相性が悪い。

しかしながら、当然必要とされる場面が多いからこそ存在する訳で、その射程・威力は認識の外から一撃で相手を再起不能にできる魅力的なものだ。

 

だから、武偵の狙撃科は如何に相手を殺さずに、確実に無力化できるかを重視する。

言葉にすればそのまますぎるが、簡単な事ではない。

 

須く武偵は人を殺してはならない。これは私だって変わらない、絶対的な制約だ。急所を避け、それでも相手の機動力を削ぐことが出来る箇所を撃ち抜く必要がある。

でも、狙撃手は私たち以上に、身体の欠損による生命活動への影響を知らなくてはならない。

 

例えば、狙撃手は強襲科と違い、敵陣の真っ只中に突っ込むことはしない。遠くから重要人物や拠点、物資の無力化や破壊が主だったものにある。

現場に特攻した強襲科は逮捕という手立てで相手を拘束し任務を終えることが出来るが、遠くからでは声も手錠も届かない。届くのは彼らの放つ銃弾だけなのだ。

 

狙撃目標を観察し、どのタイミングでどの箇所を撃つのか。

その判断を誤れば相手の無力化を、ひいては任務の失敗を招き、逆に救命処置が間に合わない傷を負わせてしまえば殺したことと同意義となる。

彼らはそのプレッシャーに、常に挑み続けるのだ。とても、私には耐えがたい世界だと思う。

 

 

『クロさん、進行方向に落とします』

 

 

 

チュンッ!

 

 

 

――――ダーンッ!

 

 

 

空から小さなポーチが落ちてくる。

このまま走れば……ちょっと間に合わないな、少し速度を上げよう。

 

 

ポスッ!

 

 

左手でキャッチしたポーチは少し重い。それもそのはず、この中には弾倉が入っているのだ。

 

私と一菜で共通の9x19mmパラベラム弾を彼女は常に数個持ち歩いてくれている。

自分も結構動き回るくせに、後衛の仕事もしっかりこなしてくれるのはさすがだと思う。

いや、さすがなのは重量のあるポーチを銃弾で飛ばしておきながら、ニアピンの位置に飛ばせる彼女の技術の方でもあるだろう。

 

 

『残り2人と片腕、お任せしました。私は一菜さんのサポートに回ります』

「はい、よろしくお願いします。結構じゃんじゃか撃ってたので、もうホールドオープンしてるかもしれませんね」

『継戦なんて考えない人ですからね。何かあれば連絡を』

 

 

そんな勝手な想像の話で通信が終了する。終了と言っても通信機を切った訳では無いので、話そうと思えば話し掛けられるのだが。

 

 

「こっちもさっさと終わらせてしまいましょう」

 

正直仕事らしい仕事は全部フィオナに持っていかれた。

車はパンクして速度を出し切れないだろうし、4人中1人は負傷、1人は無力化されているのだ。

援軍がもう2台駆け付けるとして、7人位か多くても10人前後。

 

(ま、普通の人間なんてこんなもんか)

 

その思考は完全に常人を逸脱していることに、悲しいかな本人は気付かないものなのだ。

 

 

「止まれ――ガッ!?」

 

「まずは1台制圧ですね」

 

 

歯ごたえがない。

残りは援軍を待つのみだし、暇だからパオラ先生の新商品を試してみよう。

まだ袋から出してすらいないけど、時間があるし。

 

 

「えっとー…?气球爆チーチウパオね……専用の空気入れを……うわ、小っちゃ!すごく小型化されてる。ま、いっかセットしてみよっと」

 

 

パオラが販売元で助かった、試供品だけど。

中国語は全て彼女によって日本語化されている。ちょっと意訳も多く、ですます口調なのが気になるが、一番の疑問はこれが爆発物らしいという事。

先生は弱点を克服されたのでしょうか?怖くないの?

 

 

「えとえと、このチップを嵌めると作動して……お、動き出した!」

 

 

静かにしていればウィーーンというモーターの作動音が聞えるが、会話をしていれば聞こえ無さそうな小さな音。

これなら潜入中にこっそりと使用することも出来そうだ。

 

(膨らんだ膨らんだ!おもしろいなぁ~)

 

出来上がったのは水風船よりも小さくゴルフボールより大きい、風船。中には粒状の何かが入ってるみたいだが、これはなんだ?火薬か?

説明書によると取り外す時にはコツがいるそうで、『慣れない内はぱちゅんッて音がしますが、慌てて手を放さないでください』と記されている。先生、やらかしたんだろうな。

 

 

バシュンッ!!

 

 

「ひっ!」

 

 

(ちょい待て!ぱちゅんなんて生易しい音じゃなかったし、手が風船ごと弾かれたんだけど!?私が悪いの?下手なの?)

 

だがセーフ、手は離さなかったし、怪我もしていない。

爆発物との事ではあるが、起爆の原理はまだ分かって……

 

 

 

 

『※空気入れから排出された気体は風船内部の粒状物質と化学変化を起こし、空気に触れると爆発します』

 

 

 

 

(あぶなぁぁぁああああーーーーーーいぃッ!?)

 

 

 

 

待って待って!?

なんでそんな重要な話をこんな中途半端な場所に書きましたの!?

 

説明書の頭か末尾に書くもんでしょーがぁ!!

 

 

「"あぶあぶ!あばばばっ、ばばばぁーっ!"」

 

 

(いけない!手が震えてきた。怖い暑い寒い、もう訳分からん!)

 

結べ、慎重に。

なーに、こんなこと、小学生の頃に良くやったじゃないか。

 

そうだ、爆発するからって緊張する必要はない。いつも通りにやればいい。それだけ。それだけを考えろ。

 

(そういえば風船をポンポン跳ねさせてバレーボールの真似事してたっけ。あー、懐かしい)

 

風船を結び終えると、つい子供の頃の記憶が蘇って、空にポイっと放ってみる。

落ちてきた風船を手の平で優しく跳ねさせて遊んでいると、なんだか怖かった奴が実はいい奴だったみたいに、友達になれそうな気がしてき――

 

 

 

――ピシュンッ!

 

 

 

私が何とか端を結び作り上げた气球爆ともだちの真横を銃弾が掠める。

 

 

 

(アッブナァァァアアアーーーイッ!!)

 

 

 

「"うわぁぁあああーー!!"」

 

 

さっきから思ってた。

これ、完全に私の敵だわ。だめだわ。爆弾とは友情を結べないわ。リア充爆発するわ。

どっかの兵士が言ってたもん。手榴弾はピンを抜いた時点で我々の仲間ではありませんって。

 

(援軍が来たのか……もう許さないぞ……)

 

もう許さないも何も向こうは来たばかりだし、完全に遊んでいた私の落ち度なのだが、こちらは(勝手に)命の危機にさらされたのだ。

その(理不尽な)怒りを思い知らせてやる!

 

 

「"聞きなさい!私は怒りました!手加減なんてしませんからね!"」

 

 

そう言い終わるが早いか、私は思いっきり踏み込んだ。

瞬間的に移動速度は80キロを超え、すぐに100キロへと到達する。

2歩、3歩、4歩と飛ぶように駆け抜けたまま一台目の車を無視して、あっという間に二台目の車へと到達した。

 

 

「鉄沓ッ!」

 

 

それを身を思いきり下げた状態から、車の底に足裏を当てて、掬い上げるように放つ。

 

 

「な、なんだぁ!」

「車がひっくり返るぞ!」

 

 

さらに右手に構えたベレッタで、一台目の車の上に投げておいた气球爆てきを撃ち抜く。

 

 

――バチィッ!

 

 

しかしその爆発は実に小さなもので。なんだそんなにビビる程のモノじゃなかったんだね。

あくまで持ち運びに特化させ、奇襲や破壊工作に利用する程度の装備だったわけだ。

 

あーあ、ビクビクして損し――

 

 

バチバチバチバチィィッ――!!

 

 

「えっ」

 

 

時間差で連鎖反応の様に車が火花に包まれた。

どーいうこと?

 

火花は開かれた窓から車内にまで侵入していたらしく、その熱さに耐え切れないのが人間。どこぞの人外どもと違って、大人しく降車してくれた。

 

 

 

援軍に来たみたいだけどね。

折角の移動手段を全部失っちゃうなんて。

 

――抜けた連中だなぁ。

 

 

「これじゃあ物足りないよね」

 

 

――あれ……?

私、今なんて……?

 

 

「さ、さて、さっさと全員縛っちゃいましょう。抵抗したら痛いですよー」

 

「く、来るな……化け物め――」

 

 

ガゥン、ガゥン――

 

 

 

 

 

本日の任務は、滞りなく終了した。

特筆すべき点としては、フィオナが着弾地点のミスを謝罪してきて通常料金で良いとの事。ホント律儀、拾えたから別にいいんだけど。

後はパオラ先生にクーリングオフしました。あれはだめだ、改良を提案した方が良い。安全性をね?

 

そんなわけで3人でお食事中。

私が復帰してから最初の任務、フィオナはずっと体調を心配してくれていた。

一菜はいつもの"クロちゃんなら大丈夫だって"の一点張り。私を一体何だと思っているのか。

 

 

「クロさんは以前にも増して冷静さが身に付いたような……何があったんですか?この短期間に」

「色々あったんです」

「まあ、クロちゃんだし」

 

 

そんな一菜は……様子がおかしい気がする。

てっきりヒルダに捕まったあの日、私が覗いていたのが原因かと考えていたのだが、そういう問題では無さそうなのだ。

 

 

「……色々、ですか」

「はい」

「もぐもぐ」

 

 

なんだろう、違和感が凄い。そこに一菜がいるというのに、とても遠くにいるような気がする。

登山で登った時の彼女とは違い、振る舞いはいつも通りなのに、彼女自身が薄れている感じがして気まずい。

 

で、私と一菜がギクシャクしてるとフィオナも空気を読んで、積極的に共通の話題を振ろうとはせず、交互に話し掛けて探ろうとしてるみたいだ。

その結果。

 

 

「……」

「……」

「……」

 

 

(空気が……重いよ)

 

考えてみれば、私達のチームは元々仲良しな訳でもなく、プライベートの付き合いも少ない。

だから、こうなった時に共有できる雑談が、分からない。彼女達の好きなものが、分からないのだ。

 

任務が失敗したわけでもないのに、このお通夜ムードはなぜなのか。

我慢ならない……なにかないか?良い話題、話題……っ!

 

(……良いものが、ありましたね)

 

突如降って湧いたこの話題、これなら3人で共有出来て、尚且つ関係を深める一助となるに違いない。

 

 

「フィオナさん、これは私達にとって大事な話なんですが、一菜さんもちゃんと聞いてくださいね?」

「大事な話…?」

「んー?チームに関係する事?」

 

 

良かった。2人とも興味を持ってくれたみたいだ。

 

 

「そうです、これはチームとして逃す訳にはいかない一大イベントとなるでしょう!」

「そ、それはどんな……?もしや上級生との決闘とか」

「!クロちゃんも仕上げに入るって事かー」

 

 

ちょっと何言ってるか分からない。

そんな殺伐とした仲直り方法は私の望むところではないし、上級生に挑む前に宝導師である姉さんに認められる方が先だろう。

そんなのまだ早過ぎるというものさ。急ぐと転ぶって誰かが言ってた。そして誰かが実行してた。

 

 

「ぶーです。違うんですよ、フィオナさん。私、あなたの手作りケーキが食べたいなぁ…なんて思ってみたり?」

「!!」

「あ、そうだよね!フィオナちゃんもうすぐ誕生日じゃん!」

「お、お2人共……私の誕生日なんか覚えて……?」

 

 

驚きと喜びで泣き出しそうなフィオナ。

……そこまで感動されると、私だって、サプライズの用意のし甲斐があるってもんですよ!

 

フライング気味ではあったが、おめでとうは言ってないし問題ない。

 

 

「当日はどうやって過ごすんですか?学校は当然休むのでしょう?」

「はい、前日に実家に帰って、朝からお昼に向けて大忙しですよ」

「あははー、そりゃ大変そうだね」

「皆様には感謝してもしきれませんから。そんなに料理は得意でもないですけど」

 

 

(実家……ね。ふふふ……)

 

 

「フィオナさん、私達もお邪魔して良いでしょうか?」

「…へ?お邪魔って……わ、私の実家に、ですか?」

「それ以外にないでしょう」

「えっ、あの、でも……」

「フィオナさんのご家族にもお会いしてみたいですし」

「あ、あにゃっ!?お、おとうしゃまにッ!?」

「落ち着けフィオナちゃん、クロちゃんの発言に深い意味はないぞー!」

 

 

(ナイスフォローです、一菜)

 

そりゃプライベートの付き合いも無かったチームメイトが、突然家に押し掛けるなんて警戒しても仕方ない。何か企んでいるんじゃないかと。

しかし、目的はチームの親密度を上げる事。そこで疑われてしまえば何の効果も得られないのだ。

 

フィオナも素っ頓狂な反応を見せたが、容易にイエスとは言わなかった。警戒されているのだ、それが私単体か2人共なのかは不明だが。

 

 

「う、嬉しいのは、本心です。クロさんと一菜さんが私を支えてくれたのは間違いないんですから、感謝を伝えたいのも本当です……が、それでも……お2人を招くわけには……いかないんです。ごめんなさい」

「フィオナちゃん真面目に考え過ぎー。都合があるんだったらしょーがないって」

「そうですよ、突然提案したのはこちらなんですから。あなたの都合を考慮していませんでした」

 

 

ザンネン!

もしかしてお部屋にお邪魔出来たら、彼女の趣味とかわかるかなーとか思ったんだけど。

彼女の寮部屋にはこれといった一貫した趣味が見られなかった。挙げるとしたらレコードが目立ってたし、それくらいかな。

 

今の遣り取りで、私と一菜がテンションを上げた一方で、今度はフィオナがしょんぼりしてしまった。

彼女の方が断られた側に見えちゃうよ。

 

 

「しかしですよ、フィオナさん。私、こんなこともあろうかと代替案まで用意していたのです!」

「おおー!さっすがクロちゃん!ナンパは1回の失敗じゃへこたれないタフさが必要だもんね」

 

 

なにがさっすがクロちゃんか!

あなたチームメイトに対して失礼過ぎません?堪忍袋の緒で締め上げますよ?

 

 

「代替案?」

「そう!あなたが帰って来てから、私が日本風の誕生会を開催させて頂こうかと」

「つまりは"おもてなし"ってわけだ!和風じゃないからね?」

「2度もパーティの準備をしてもらうのは忍びないですから、私達は私達なりの祝い方をしたっていいじゃないですか」

 

 

まあ、問題は開催場所なんだけど。

 

フィオナも日本風の誕生会――誕生日を迎えた側が主賓となって祝われる――を私達から聞いた事があるので、目がキラキラしてきた。

こっちの反応は好感触だし、この線で話を進められそうだな。

 

 

「で、どこで開くつもり?」

 

 

うぐ、いきなり核心を突いて来おった!

着眼点がよろしいですね……

 

 

「実はうちも、人を呼ぶことが許されてないんですよね…」

 

 

(主に兄さんとカナの問題で)

 

 

「あたしの家ならたぶん大丈夫だけど、パオラちゃんも呼ぶ気でしょ?」

 

 

(なぜバレたし)

 

パオラの料理は本当においしい。

フィオナとの仲も良好なので、是非とも誕生会に呼びたかったのだ。これを機に少しでも彼女の料理を学ばせて頂こうなんて考えもあったり。

 

 

「良く分かりましたね、パーティですから何人かは呼ぼっかなって」

「他にも誰か呼ぶんだと……うちだと手狭かな?」

 

 

フィオナの交友関係は私とはほとんど被らない。

クラスは違うし、ベレッタやパトリツィアのグループとはそこまで仲良くないのだ。

だからクラーラやガイアなら私経由で互いを知っているからまだ問題なさそうだが、パトリツィア、アリーシャ、チュラなんかは呼べず、逆に私がそこまで交友を築いていない陽菜やニコーレ先輩なんかは呼べる。私なら呼ばないけど。

 

 

「フィオナさんは招待したい方はいませんか?」

「………誰でも、いいんでしょうか?」

「もちろんじゃん!祝ってもらいたい人に招待状を出すもんなんだよー」

 

 

誰だろ?フィオナが誰かと一緒に歩いてるところなんて見た事無いから、どんな人が来るか気になる。

 

 

「どなたですか?私が知っている方なら連絡を取りますよ」

「いえ、自分で取ります。受けて頂けるかも分かりませんし」

「ねーねー、それだーれ?強い人?」

 

 

(…一菜?)

 

気のせいかもしれない。本当にごくごく僅かだが、彼女の仕草に違和感を覚えた。

何が?と聞かれても答えられない、そんな微妙な変化。

 

 

「ええ、強い方です。私よりもずっと」

「はっはーん、狙撃手かー」

「狙撃科の先輩ですかね?でしたら、確かにお任せした方が良さそうです」

 

 

(狙撃手の方って変わり者が多いからなぁ)

 

変な所にこだわる人が多く、それが狙撃手の強さに関わるのかもしれないが、強襲科に慣れるとどうしても異端に感じてしまう。

フィオナのチョコ好きもその一端に含まれるかな?いつも食べてるし、そんなにポリフェノールを補給して何に使うんだか。太らないのは羨ましいよね、ずるい。

 

 

「あと、もう1人。クラスの友人も」

「どうぞどうぞ、それで一菜さん、6人はセーフ?」

「うーん、む、ムムム…アウトォー!」

「入らんかー……」

 

 

じゃあどうしよう。

6人、いや余裕を持って8人は入れる場所を確保したい。

黙ってレストランに予約を入れるべきなのだろうか。

 

 

「パオラちゃん家ってどうだっけ?」

「お店と連結した小さなお家ですよ」

「そっかー」

「え?パオラさんの家はかなり大きかった記憶があるのですが……?」

「えっ?」「へ?」

 

 

パオラの家ってあのお米屋さんだよね?

日本のコンビニよりも小さい店構えに、小さい家屋がくっついてる建物。

 

裏手には水稲は無くて、離れた場所にあるとか――っ!

 

 

「フィオナさん、それってどこのお家でした?」

「どこ?と聞かれましても、彼女が女子寮から出るまではロンバルディア州の実家に度々帰っていましたよ」

「そーなんだよ、遠いから一度も行った事が無いんだよね」

 

 

そっか、ローマのお店はただの販売店だったのか。

え、じゃあクラーラとかガイアもミラノ方面の人たちなのね。知らんかった、勝手にローマの生まれかと。

 

 

「そうだったんですね、私てっきりローマの販売店が彼女の実家なのかと」

「ローマの販売店……?」

「?そんな事、言ってたっけ?」

「え?」

 

 

今度は2人が首を傾げる。

その動きから、本当に知らないことは良く分かったが。

 

(不味いぞ、話の本筋がズレてきた)

 

逆に何で知らないのさ、彼女は毎日そこから通ってるんじゃないの?

 

 

「この話は止めましょう。本人もいませんし、大きな実家は遠い北の方ですもんね」

「困りましたね、私も女子寮暮らしですし」

 

 

手立てはないのか、そんな私達の間に1つの声が……

 

 

「こーなったら、あたしが一肌脱ぐしかないね!任せといてよ、良い所知ってるからさ!」

「良い所?」

「あなたがオシャレなお店を知っているとは思えませんが」

「クロちゃんは黙らっしゃいっ!隠れ家的な場所だけど、うまく丸め込んで見せるから!」

 

 

"隠れ家"の単語はあの日の光景を思い出させた。

 

 

箱庭に挑む日本の代表として集まっていた。

一菜と陽菜、そして両目を閉じた白髪の少女と電話で聞いたテンションの高い子供の声、語尾に間延びしたナーを付けるやる気のない声。

 

 

まさか、このアホはその重要拠点の1つを惜しげもなく提供しようというのか?個人の私的流用で。

ってか丸め込まれるのはあなたの方じゃないのか?

 

舌戦に彼女が勝利する図を思い浮かべられないので、その矛先が私達に向かないのかが不安だ。

体で責任取れよとか言われて戦場に投げ出されるんじゃ……!

 

 

「一菜さん、一応は成功の見込みはあるんですね?」

「どうして失敗前提なのかは気にしない事にするけど、大丈夫。ダメとは言わせないから」

 

 

そんなに自信満々に答えられるあなたの思考が読めない。実はあの中で一番位が高いとか言わないよね?

見た感じ、会話中に力関係みたいなのは感じなかったけど、リーダーは別にいるんだろう。

 

 

「クロさんは知っているんですか、その隠れ家を」

「いえ、ただそこに住んでいる住人に心当たりがありまして。例えばあなたと一緒に車から狙撃していた白髪の少女とか」

「ッ!彼女がそこにいるんですか!?」

 

 

わお。まさかここで食いつかれるとは。

話はもう面倒では済まなくなることが決定した瞬間だ。

 

彼女の反応は興味津々、さらに友好的な嬉々とした問い掛けだった。

狙撃手同士って勝手なイメージで反発し合うものだと思っていたが、そうでもないらしい。

 

 

「白髪ってなるとちーちゃんか。普段はのんびり山に登って日光浴してるけど、一番説得が面倒な相手だよー」

「私の見立てでも彼女が一番厄介そうです」

「そ、そうですか?とても素直な子だと思ったんですが」

「なんというか…欲望に忠実?」

「あなたが言いますか」

 

 

この戦闘狂が!という言葉は引っ込めた。

闘争本能は紛れもなく彼女の本質ではあるのだろうが、暴走による精神への影響の蓄積が原因の可能性も捨てきれない。

そこを責めるのは的確な指摘ではないから。

 

 

「あの…彼女も……」

「ふはは!悪いなフィオナちゃん。あそこを利用するとなると、強制的に4人増えるぞー!」

「ああ、やっぱり……」

 

 

うるさいのが2人になるのか。

それでもまだ、ベレッタとパトリツィアに挟まれるよりは何倍もマシだが。

 

 

「それとクロさん、出来るならで良いのですが」

「はい、なんでしょうか」

「カナさんも呼んでは頂けないでしょうか?」

「……ふふっ。それを聞いたら姉さんも喜びますよ。任務を最速で終わらせて駆けつけてくれるに違いありません」

「ありがとうございます、よろしくお願いしますね!」

 

 

なかなかの大所帯になってきた。

 

 

フィオナ、私、一菜、パオラ、陽菜、カナの武偵メンバー。

 

えと…と、とく…お化けさん、ちーちゃんさん、幽霊さん…あれ、被った?の日本代表メンバー。

 

フィオナが誘う狙撃手さんとクラスメイト。

 

 

総勢11名。

 

 

「こんなに人が入るんですか?」

「まだ余裕かな?いつでも宴会会場を用意するのが従一位の嗜みだって母上が言ってたからねー!」

「随分と飲んだくれな発想で」

「でも、凄いですね。一菜さんの交友は思わぬところで巡り合うものですよ」

「まーね!あたしも結構な年月を……まーね!あたしは色んな人間と関わってきたからね!」

 

 

なんか言い直したな?

しかしそれよりも驚くべきは、玉藻の前と繋がりを持っているであろうあの3人と一菜が行動を共にしている事だ。その関係も良好そのもののようで、彼女も玉藻の前と繋がっているのでは?と疑ってしまうほど。

 

過去に一菜は玉藻の前に会ってみたいと言っていた。

やっぱり生きてるの?って聞いてみたら、分かんないと答えた。

 

あの時の一菜と今の一菜は同じ人間ではないのだろうか。

今の彼女の様子を見るに、トロヤの様に自在に入れ替わる訳ではなく、時間を掛けて徐々に記憶を塗り替えている感じがする。

 

 

だからきっと私は、この微妙な違和感を感じながらもいつまでも気付けないのだ。

そして、その変化の原因は……

 

 

(また、こいつが原因なのか……?)

 

 

胸ポケットの上から、御守りに……一菜の命を救ってきた殺生石の欠片に触れる。

 

全てが謎に包まれた物質。

生命力を吸い、エネルギーを吸収し、挙句私はこれを使って他人の能力すら使いこなしてしまった。

 

そしてこの中には一菜の一部ともいえる存在が息づいている。

トロヤとの戦いに挑む直前に、私は。これが先に挙げた能力を解放する条件だったのかもしれない。

 

 

 

――そうだ、殺生石の中には。異なる記憶を持ったが、いる!

 

――殺生石は……大妖怪は、まだ、生きているのだ!

 

 

 

目の前にいる一菜はあの時の一菜と同一人物で、大切な記憶を殺生石の中に移している最中。

それは彼女が箱庭で死ぬ可能性を示唆しているのだろう。

 

……それだけじゃないかもしれない。

記憶を持ったままだと彼女にとってがある、そんな可能性も考えられるぞ。

 

 

 

失わない為に、自分から消す。

 

怖いんだろうか、悲しいんだろうか。

 

それとも、何も感じないんだろうか。

 

 

「一菜」

 

 

勝手にスイッチが入った。

聞くのか?私よ。本当に聞いても良いのか?

 

お前は絶対に後悔するぞ?

 

 

「ん?呼んだ?」

 

 

予想はついているんだろ? 

それでも確認が必要なのか?

 

  

「一菜」

「どした、クロん」

 

 

 

知ってどうする、お前にはどうすることも出来ないだろ?

 

 

「お尋ねしたいことが……」

 

 

 

分かった。もう、止めない。自ら絶望を求めるお前の考えは、ワタシには分かりかねるぞ。

 

 

 

「あなたはフラヴィアとヒルダを知っていますか?」

 

 

 







クロガネノアミカ、読んでいただきありがとうございます。


今回は戦闘なしでした。
つまりはギャグ回ってやつですね。


内容としては――

・チームで任務に当たった。
・パオラの新商品はお返しした。
・フィオナの誕生日を祝う事にした。
・一菜の変化に気付いた。

という所。