まめの創作活動

創作したいだけ

黒金の戦姉妹39話  縁故の梯子

 縁故の梯子ラポール・パッセージ

 

 

何の変哲もない一般向けのマンション。

その一室には地下へとつながる大穴に、今日日珍しい常用の縄梯子が垂れ下げられていた。

 

そこそこ多めに設置された電灯に照らされて足を踏み外す心配は軽減されているものの、上端しか固定されていない梯子とは慣れない間、下を見ることが躊躇われる程の揺れを起こす。 

 

 

ぶらぁ……

 

 

体勢を変えるだけで重心の変化に追随してぶれてしまい、見た目からボロい横縄には足場用の板も棒も無いものだから、一段降るたびにフラフラと足が空中に踏み込んでいくような不安定感が緊張に力む使用者の握力を刻々と奪っていく。

 

 

「おぉう……」

 

 

強襲科の強行潜入演習で行われたロープ降下実習中に、強襲科教諭のイメルダ教官によく可愛がられた私だが、自覚がないだけで実はのが怖いらしい。

え? それが普通だって? …………私だって普通でいいならそうしたいよ。でも荒事の多い武装探偵はそうもいかない。

私を含む同学年の半数は目標降下時間を超過しているとはいえ、プロ武偵でリぺリングが出来ませんなんて落ちこぼれもいいところだ。

 

誕生会の折にも思った事だが、先に通過した一菜もフィオナも、よくホイホイと降りれるよね。こんなの。

一菜は何も考えてなさそうだけど、降下実習経験のないフィオナも慣れた手付きであっさりゴールインしてしまった。

 

これでは私だけ臆病者みたいではないですか!

いつ頃からだったか……父さんに勾玉を教わった時には大丈夫だったんだけどな。

ちなみに落下速度は関係ないようで、床にマットを敷いた高所からの受け身実習では、眉一つ動かすことなく間髪入れずに飛び降りた私は大層驚いた顔をされた。なんせ慣れっ子なもので。

 

 

だから足元が見えようが見えまいが、私は下を見ない。見ないったら見ない。

見ていなければ落ちた先が固い地面かトランポリンか、不確定要素として脳内処理可能だからね。

 

「"素人なクロちゃん、略してシロちゃーん! こっからだと黒いストッキングに包まれた脚線が全部――"」

「"うっさいです!階段、階段の設置を所望します! ――うあっ……"」

 

 

階下から聞こえる男子小学生並みのセクハラ発言に言い返してやろうと反射的に、つい眼下の光景を眺めてしまう。

電灯から電灯へ、子供向けの点繋ぎ絵の要領で追った視線は、残り2m先の硬い地面に立ってこちらを見上げるポニーテールの少女を捉えた。

 

 

「"えーっ! それだと秘密基地っぽっくないじゃんかさー"」

 

 

更に返ってきた答えも子供が喜びそうなお話で、全長約6mの縦穴はそんな理由で縄梯子を採用していたのか。なんとはた迷惑な。

 

しかし、その外見はお子様ないつもと違う。

ダークブラウンの髪と人懐っこく細められたカフェラテの瞳は元通りだが、学校をサボってどこへ遊びに行っていたんだか、防弾制服ではなくボーダーカットソーをインナーに、所々にファーの付いたピンクのノーカラーコートを羽織って、落ち着いた膝上丈のフレアスカートなんかはいている。つまり、めかし込んでるのだ。典型的なブッキーのくせに。

頭でもぶつけたか。あ、私が原因じゃないか。

 

(馬子にも衣裳とは言いますが、元々容姿の整った一菜はキレイ系の服装だと顔のつくりの良さが際立ちますね)

 

はっちゃけた性格に似合わない澄ました格好をしているのが新鮮で、そこから目を離せないでいる内に、徐々に血の気も引いていくのが分かってしまう。

いけない、クラっと来た。いや、一菜にじゃなくて高度に。

 

 

「"だいじょーぶっ! 落ちてきたら抱きとめてあげるよー"」

「"それなら梯子の端を押さえててくれませんか?"」

「"おぅ~任しとけっ、マイパートナー!"」

 

 

ギュッギュイイッ!

 

 

「"オーケー! マイク~、もう何があったって梯子は揺れないサー"」

 

ギュ……ギュギュギュ…………

 

「"オウイェア! コイツは凄いじゃないかジョン、叩いても蹴ってもビクともしないヨー!"」

 

ギュィイ……ギシ……ギシ……

 

「"レッツ、今の内に降りるんだキャシー。梯子と僕はずっと君を待ってあげるけど、ステキな時間と放送時間は待ってくれないんだからネ☆"」

 

ギ……ギギ……ビシ、ビシ…………

 

「"ハハハ、クリスは上手い事を――"」

 

 

――――プツッ……

 

 

「"あ……"」

「"えっ……"」

 

 

手元に伝わった大きな振動。

それは一菜が押さえる下からではなく、固定されているはずの上から私を追いかけるように到達した。

縄を握っていた手が軽くなり、体を支えていた足が宙を踏む。真横を高速で上昇する明かりを目で追う内に、自分が縄梯子以上に不安定な場所へ投げ出された事に気付いてしまった。

 

 

(私、落ちてる――――?)

 

 

――――スイッチ……ON――

 

 

 

再教訓。

おバカな一菜にやらせてはいけない事。

 

・一菜に落とし穴を掘らせてはいけない。

・一菜にラズベリーを与えてはいけない。

・一菜にウインチを巻かせてはいけない。

・一菜に二人羽織りをさせてはいけない。

・一菜に梯子の支えを任せてはいけない。←NEW!!

 

 

 

 

落下地点の一菜がてへぺろ☆みたいな顔をしていたのが非常に癇に障ったので、差し出された両腕を無視し肩に思いっきり体重を落としてやった。

秋水で全衝撃力2トン超の大半を伝え、自分は両脚に鉄沓の逆の動きをさせて撃力を逃がせるだけ逃がしたのだ。

 

ほんの一瞬、雑技団の気分を味わう私の足元で、小癪な一菜は真似して腰と膝を畳んだものの「ぬわ~ッ!」と叫んで潰れていた。

……が、円座卓を囲んだ現在の振る舞いは至って自然な動き。脱臼はおろか痛いだけで済ませる非人間的な頑丈さを見せ付けてくれる。感覚がマヒしそうだよ。

 

 

「ん。じゃあいいかな。では、これから日本とクロちゃん同盟の決闘の結果を、箱庭のルールに基づいて処理していくよ」

「はい、お願いします。あれだけの啖呵を切っておきながら箱庭の事は良く知らなくって」

 

 

4つ用意された湯呑みからもわもわと上がる湯気が天井に向かい、登っては消え登っては消え。その隙間からは、違和感も超人感も消えた私の良く知る一菜が朗らかな微笑を覗かせていた。

私と一菜が座卓を挟み対面、金の刺繍が贅沢にあしらわれた座布団に腰を落ち着け、私の隣にはフィオナ、一菜の後ろには正座を崩した槌野子と胡坐をかいた三松猫が控えている。

 

そして両陣営の上座に座るのは隠れ家の地上階に建つマンションの持ち主である一菜の……お母様?

つい先ほど、浴衣のような寝間着に半幅帯を締めためちゃめちゃお若い女性が一菜と兎狗狸に支えられつつ初めて寝室から姿を現し、そのまま彼女の脇に兎狗狸がちょこんと正座した。

 

陽菜は己の不行き届きを恥じたとかどうとかで、諜報科の先輩と修行に精を出しているそうだ。昨日の今日で。

 

(あの勾玉の威力は道路を走行中のトラックにブレーキ無しで撥ねられる威力があったと思うんだけど……ニンジュツかな)

 

彼女の生体構造に興味が出て来た。機会があったら修行を見学させてもらおう、フィオナをだしにして。

 

「あの女性は一菜さんの……?」

 

こそっと耳打ちをしてきたフィオナは私同様、学校から直接訪問しているため武偵中制服のままだ。

今日のオヤツはナッツ入りのチョコだったようで、甘い匂いにカカオに香ばしさがプラスされている。

 

「一菜さんの母親、だと思います。目元なんかそっくりですし」

 

フィオナの確認するような問いに応じながらも、私もその女性の特徴から母親で間違いないと確信する。

染めていない一菜と同じ、輝くように光を反射する金髪。前髪が長く垂れた穏やかな表情には皴の一つもなく、造りも雰囲気も1つの理想を突き詰めた完成形。男女問わず彼女に目を奪われる者は多いだろう。

色白の肌に緩く弧を描く唇は桜貝色、目尻が吊り上がった目は優し気にふんわりと細められて、髪は結わずに腰までストレートに下ろしている。

 

一菜のなで肩は母親似らしい。というか大体の容姿は母親から来てるのか。胸以外。

外見だけなら一菜より一回り大きい姉で通りそうだが、纏う空気は一回りや二回りどころでは無く大きいな。胸も。

 

(持つ者と持たざる者。これが格差社会の縮図か……)

 

登山家達が魅了される飛騨山脈の山々と子供たちに愛される公園の砂山を見比べ世の儚さを嘆いていたら、ゴスッと隣から水平に代理のグーパンが飛んできた。

 

 

「"母上、体の具合が優れなければ、いつでも仰ってくださいね"」

「"ありがとう、一菜。でも大丈夫、あなたの大切なお友達を一目見たいとわがままを通したのは私ですもの"」

「"無理しちゃだめだよ、イヅ……トキナ様。あっしが付いてるからね、何でも言ってよ!"」

 

 

母上呼び頂きました。母親確定。

頭のてっぺんとお尻から獣成分を発してはいない。八重歯は尖っているけど、あくまで個人差の範囲で収まる程度。よかった、一菜は妖怪とのハーフではない事が証明された。

ただし、一般人ではない。寝たきりの体では全てを制御しきれないのか一菜以上に人間らしからぬ、漏れ出しただけでヒルダに匹敵するほどの妖気が、彼女も普通の人間ではないのだと身に沁みて感じさせる。

 

けど……彼女の存在感は薄い。水のように透けて見える。

こんなに美人なのに、街中で目の端に映っても気付けない。こんなに大きく見えるのに、彼女がそこに存在すると脳が理解しているから彼女を把握できている。

フラヴィアみたいに意図的に隠してるんじゃない。

おそらくは……存在を形成する個の輪郭の消失が近い、という事なのだろう。

 

「"兎狗狸ちゃんも、ありがとう"」

 

苔石ではなく名前を呼ばれたのがそれだけで嬉しいといった緑髪の少女が、頭からハートマークを飛ばしながら頭を撫でられている最中、トキナさんは一菜に目配せする。

 

「それではまず、決闘の結果から。あたしが代表戦士を務めた日本代表は、先の決闘によりクロちゃん同盟に敗れたことを認め、その傘下に属し協定を結ぶことを声明します」

 

頷きを返し高々とそう宣言する一菜だが、閉鎖された地下の一室に彼女の声がこだます必要はあるのだろうか?

私達以外に聞こえないし、聞こえる必要もない。しかも、クロ同盟にちゃんは付けなくていい。

 

 

「一菜さんは元気ですね。決闘ではボッコボコにしましたし、学校も休むから心配しましたよ」

「ボ、ボッコボコにはされてないよ! 途中までクロちゃんの方がボッコボコだったじゃん!」

「終わりよければ全てよし。まあ、私は方法や経過も大事な要素だとは思いますけどね」

 

 

親が見守る手前、暴れ馬の一菜さんは膝に置いた両手の震えが肩にまで連動されている。さてさて、彼女の我慢はいつまで保つのやら。

昨日は戦いの後に拉致されて、一菜の容態を見届けてあげる事が出来なかった。おまけに今日は学校を休んでいた。小さじ一杯分くらい気に掛けていたけど、挑発されてムキになって返してこられるのなら大丈夫だろう。

 

あ、でも学校を休んだ件については相談して欲しかったな。私、一菜、パトリツィアが不在でここ一週間ずっと討論グループで独りぼっちだったパオラには説明を要求されたし、班分けでエマが乗り込んで来るしで大変だったんだからね。

 

 

「それでなんだけど、今後の戦いはあたしたちも協力する。苔石ちゃんも「兎狗狸だよっ!」、ちーちゃんも「ん」、なーちゃんも「な~う」、ここにはいないけど陽菜ちゃんもクロ同盟の仲間として扱ってちょうだい」

「いわんとすることは分かっていますが、杞憂ですよ。私は誰かを使うとか、指揮官じみた割り切った考え方は出来ませんから」

「おっけーおっけー! 一応ね、い・ち・お・う。クロちゃんって、たまーに変な事言うからさ」

 

(変な事? 一菜に言われると傷付くなぁ、変な事を言うとか)

 

「変な事とは?」

「小っちゃい子好きって噂もあるし、3人は小っちゃいし……強制するのは禁止! だから……あ、相手の意思を尊重してね? ね? 絶対だよ?」

 

 

やたらと焦りながら念を押して、さっそく変な事を言うちびっ子の方の日本人は、その噂の原因が自分にあるとは露にも思っていなさそうだ。

確かに関係が最も良好な方々は小さいけどさ、パオラもチュラも。しかし私にそんな趣味はない。

右から「クロさんは小っちゃい子好き……」と、がっかりしたような声が聞こえる。こうして誤った噂は拡がるらしい。

 

 

「失礼ですよ、一菜さん。私にそんな趣味はありません」

「ほ、ほんと?」

「本当ですか!?」

 

 

きっぱりと否定したのに前と横から聞き返される。なんでだ。

 

自国の戦闘員の身の安全を確認した一菜はホッとした様子で、フィオナも私が犯罪に手を染めないと分かり胸を撫で下ろしていた。

この人達、チームメイトにどんな印象を持ってるんです?

 

「あとは戦後処理に関してなんだけど」

 

進行役の一菜的にはさっきの不躾け過ぎる確認で最終局面を乗り切ったらしい。腑抜けたまま話を進めないので、一度操舵席を奪う。

決闘場の修繕費なんて部外者のパトラが柵を壊したくらいしか無いので、一菜から回収するのはお門違い。決闘の戦後処理も大したものではないのだろうし、いくつか質問させてもらおう。超常現象は超常の存在に聞くのが一番。餅は餅屋だもん。

 

フィオナには悪いけど日本語を使わせてもらうよ。

私が戦う理由の1つは吸血鬼や魔女との共闘も辞さないアンダーグラウンド。箱庭なんてものに巻き込んでおいて今更だけど、ここから先は完全に私情でしかない。

 

「"ところでお尋ねしたいのですが"」

「"ぽ? お主さんが知りたい事には興味ある、興味あるよ! あっしがなんでも答えてあげる"」

「"それは期待が持てますね。では、どなたでも構いません。小さな情報でも偏った知識でもいいので、『宿金』と呼ばれる金属について知っている方はいませんか?"」

 

この発言が軽はずみだったとは思わない。

少しでも多くの情報が欲しかったから、5人もいれば1人でも知っていればいいと思っていた。

でも、これは失言だった。

 

……ここに私達以外の人間がいなくて良かった。

 

 

「"ぽぽっ!? ぽぽぽぽっ!?"」

「"や、宿金……ナー"」

「"遠山、それはどこで?"」

 

 

日本側の動揺っぷりがすごい。兎狗狸と三松猫が目を白黒させて意味もなく姿勢を低くしている。一見冷静な槌野子も揺れ動くのを止め、声には怒気や積怨の意思も窺えた。

ずっとにこやかに見守っていたトキナさんの顔も心なしか険しくなっているのかも。

 

一菜だけがレーザー照射の出来る槌野子の目線を隠すように手で制し、私の視線が他の誰かに向かわないようジッと目を合わせ続けた。

これ以上の発言を誰にもさせまいと、問いを飛ばした私を目で制したのだ。

 

 

「"答えなくてはいけませんか?"」

「"いやー、ごめん……答えなくていいよ、クロん。それは絶対に話しちゃいけない物、二度と口にしないでね? ……母上"」

「"…………ごめんなさい、少し眠っていたの。もう、すっかり目が覚めてしまったからお話を聞かせてくれる? 箱庭の戦後処理はどうなったのか"」

 

 

全員が全員、宿金の事を少なからず知っている。だが、もう口にするなと一菜に用命された。きっと、私の為に。私の発言を揉み消した。

それをわざわざ蒸し返すのが正しくない事ぐらい理解できてる。

 

見通しが甘かったな。詳しい人に聞けば方法の1つくらいは見付かるものだと思ってた。

しかし、知っている人は知っているから話せない。自らを餌にした箱庭での受け身の捜査は初っ端から頓挫してしまったらしいよ。

 

まあね、操舵したところでオールを漕いでくれる人がいなきゃ前には進まないしな。

 

 

「戦後処理とは言っても……クロちゃんとフィオナちゃん、弾代と医療費以外の賠償はどうする?」

「決闘で医療費を貰うのも気が引けます」

 

 

何事もなかったかのように再開される談議では、一応代表同士の取り決めとして辛うじて勝利を得たクロ同盟への賠償責任を果たす意向のようだけど、外交のイロハを学ぶのも面倒臭い。

調印だのなんだのを持ち出されたらたまったもんじゃないので、やれやれと首を横に振る。

 

「賛同します。戦争ではありませんので、賠償なんて必要ありませんよ」

 

フィオナも私の判断に異存なしの従順な返答。

そんで、こっちを見る目を煌かせないで。そういう意図はないんだよ、本音は利用規約を読まないでチェックを付けるそこらの一般人と変わらないんだって。

 

 

損失は他国の代表戦士に私達の戦闘データが流出してしまった事が一番でかい。

あの戦いだけで『不可視の銃弾』も『勾玉』も一菜とのダンスも公衆にお披露目したね。真似なんて出来やしないけど、対策はされちゃうかも。

 

――いや、違うな。

一番の問題は……フィオナの存在だ。彼女の参戦が最も由々しい情報なのだ。

 

 

「フィオナちゃんは無償で雇ったの? これで終わり、とはいかないんだし」

「条件付きです」

 

 

私には私のままでいて欲しい。正義の味方で、フィオナの希望であり続けて欲しい。

……だそうだ。彼女にしては珍しい、ハッキリとしない曖昧な表現だったな。

 

 

「条件? どんなの?」

「い、いいじゃないですか一菜さん! クロさんも、個人の契約なんですから守秘義務を守って下さいね!」

「ええ、まあ。言いふらしたりはしませんよ」

「怪しいなっ! なになに、なにさー! 教えてくれたっていいじゃーん!」

 

 

一菜とフィオナの間で教える教えないの喧騒が続き、10秒後にはチョコレートスイーツの話に変わる。これが私のチーム。

箱庭の今後があるというのに、緊張感のない2人を見ていると日常の一部が戻ってきたことをひしひしと感じて、肩の荷が軽くなった。ほんの1割だけ、軽く。

 

軽くなった分引き締めないとね。

次のターゲットは……未知の敵なんだから。

 

 

水を差すのも忍びないと、茶を一口。

粒あんの羊羹に添えられた竹楊枝へ手を伸ばす私は彼女の変化に勘付いた。偶然、じゃないかもしれない。深層心理とか、たぶんそんなの。ふと、気になったのだ。

 

小さく息を吸って、桜貝色の唇と白茶けてしまった小豆色の瞳を控えめに開いていく。

彼女にとってはそれが全開なのだ。若くして大病でも患ったのだろう。

 

「"同盟は結べたのね。立派になったわ、一菜"」

 

その眼差しに三松猫はビクッとしているのに、一菜も槌野子も平然としていた。いや、槌野子の前後左右に揺れる風鈴運動も止まっている。

 

どうにも視線を向けられた一菜には話の予想がついていないようだ。

 

 

「"一菜"」

「"はい"」

 

 

彼女の弱々しくも透き通った綺麗な声は、威圧的でもなくトゲトゲしさもないのに何故か警戒してしまう。

妖気に当てられると本能的に神経質にはなる。これは経験則で得た知識だ。

しかし、前例が少なく妖気に当てられたせいだと断定するのは尚早かもしれないな。前例があるのがなんとも言えない気分にさせられるよね、私の人生。

 

(…………?)

 

鋭敏化した神経は室内に奇妙な居心地の悪さを拾い出す。

場の雰囲気ではなく、胸騒ぎを催す事象の前触れのような。

 

地震……?ではないか)

 

日本人特有の感性で地震を想起した私は振動を感じたのではなく、音――コンバータから生じるモスキート音や気圧の変化で発生する耳鳴りのようなものが聞こえた気がしたのだ。

 

音も消え、フィオナに反応はないので気のせいかと流そうとした時、今度は僅かに空気が揺らぎ始め、これまたすぐに納まった。

一菜も気付いていないのか「"なんですか?"」と普段の彼女からは考えられない敬語が母親に向けて飛び出す始末であり、寒気が走った体まで震えてしまう。キミガワルイヨ。

 

 

「"あなたからカンの欠片を取り上げます。良いですね?"」

「"――っ!"」

「"ぽえぇっ!?"」

 

 

(カンの欠片?)

 

缶? 管? 幹?

 

私はその言葉の意味が掴めず日本代表の様子を窺うが、微笑みを崩さず告げたトキナさんの発言に対する反応は様々だった。

一菜は目も口もカメラのシャッターで切り取られた写真のようにピクリともさせず絶句し、兎狗狸は撫でつける手を押し返してトキナさんを見上げ、言葉の真偽が分からないと訴えている。

そして槌野子がコクコクと2度頷くと、三松猫は無言のまま腕を組んでそっぽを向いた。この2人は知っていたって反応だな。

 

 

「"……母上、それは…………。それは、我にかの巫女達を。ひいては……伏見様や玉藻様のご意向を蹉跌させ疎隔せよと?"」

「"やむを得ません。あなたが扱えるのは今まで通り4つまでとします。今回は20の欠片を持ち出したようですが……槌野子さん"」

 

 

名指しされた槌野子は両眼を閉ざしたまま、ダークブラウンの下げ髪を水平にする勢いで振り返った一菜と、黒茶の丸耳をぼさぁっと苔色の髪の間から発露させた兎狗狸に一瞥をくれてから、その大きな口を小さく開く。

 

 

「"ちーは、イヅを失いたくない。三松も。兎狗狸、あなたは?"」

「"ぽっ!? そ、そんなの当然、失いたくないよ! でも、だったらを取り上げるのはおかしいよッ!"」

「"どこもおかしくナー。イヅは箱庭の終戦まで大人しくするんだナ"」

「"っ! だめ! イヅは普通の人間として学校に通うの!"」

 

 

ギャンギャン吠えつく兎狗狸とは対照的に、話題の主役である一菜は沈黙したまま真剣に悩み、母親の意を類推している。

字幕も吹き替えも無しに突然始まった日本ドラマの状況が読めず私に助けを求めるフィオナには、説明する材料が足りていないので『ごめんね』のウィンクをしたら俯いて押し黙ってくれた。

マバタキングも用いずに以心伝心出来た事に感動したよ。これぞチーム!

 

 

「"私も、イヅを学校に通わせたい。同意、私に賛同して"」

「"無理だナ。思金がいる場所にノコノコ向かわせられんナー"」

 

 

20個持ち出した『今回』というのは決闘の事で、カンの欠片と呼称されたのが『殺生石』なのだろう。一菜は4つの殺生石の内、常に2つを御守りと称して持ち歩いている。

彼女自身が一週間の訓練だけであれだけの力を手に入れられはしないのだから、底上げされた力の大もとは数を増量した殺生石と考えるのが妥当。多く持ち出した目的は私への警戒だ。

 

 

「"否定。私が守る、兎狗狸も。三松も手伝う"」

「"バチカンの懐にナ? 思金の影も暗躍する危険地帯で果たして上手く行くもんかナー"」

「"……不明。法化銀弾ホーリー殲妖弾イカンキラー、西洋魔女の結界1つ、戦況は変わる"」

「"ほらナ~。イヅの身柄は安全な場所に置くべきだナ"」

 

一菜の力――イヅナの能力は殺生石によるものなのだろうが、よくよく考えてみるとどうして殺生石の所持数で力の総堆積量が増えるのかが疑問点として残る。

生命力を吸い取るだけが殺生石の効果ではないのか?

 

「"犴を野に放つわけにはいかナー。玉藻様との契約が切れた以上、三浦の管理下に収め続ける必要があるナ"」

「"その事実は認める。輪廻還元の魂、今生45番目。満ちたあいつは、復活の機会を窺って、引力を強めた。結果、イヅは自我の保持に、保険をかけた"」

「"そいつが敗因だったんだナ?"」

「"肯定。1匹はぐれた犴は、20匹の犴に離反。普通なら、考えられない勝利。異常"」

 

 

……そうだ、記憶や絆や思い、それ以外にも人格を作り上げる要素を一菜は詰め込んでいた。私が預かっていた殺生石の中にも一菜がいたように。

それに、これもずっと気になっていた。

 

 

殺生石は蓄えたエネルギーをどうしているのか』だ――――

 

 

未だ微かに湯気の立つ玉露をまた一口頂く。

茶請けの羊羹も手付かずだが、流石にこの空気の中で前歯に粒あんの皮を引っ付けてモッチャモッチャする気は到底起きない。

 

そういう作法ではないのだが、日本文化が良く分からないフィオナも続いて緑茶を音を立てずに口を付け、せっかく立っていた茶柱を「私のアホ毛の二番煎じです」とでも言わんばかりに横倒しにさせた。

中国産ほどマイルドではないものの、渋みの少ない玉露日本茶に馴染みのない彼女の舌の上も抵抗なく通過し、その特有の香りで首をひねらせる。美味しいとも不味いともつかない感想を持ったようだ。

 

「"それを、成し遂げさせたのは……"」

 

フィオナの微妙な顔をニヤニヤ眺めていたら、突如として槌野子に収束していた視線が私にターゲットを変えメッタ刺しにする。トキナさんも笑顔を深くしてこっちを見ていた。

 

そういうゲームでもないのだが、空気を読んだフィオナも続くように私を凝視する。ものの数秒で逆襲された。

違うよ? 見られても、私、何も言わないよ?

 

 

「"遠山。あなたが、犴の1つ、変えた。そして、イヅから犴の魂、ひと先ず、引き剥がした"」

「"復活も先延ばしにナー"」

「"私が?"」

 

 

日本代表側から向けられる冷ややかな視線に過去の記憶がダブって見える。

……思い出した、強襲科の授業だ!

現役軍人指導の下に行われた刃の無い武装を用いた近接格闘C Q Cの講義。刀剣だけの小競り合いがほんの些細な意見の食い違いから激化した時の、ヤバい奴を見る周囲の視線と似てるんだ。相手は言うまでもなく正面のあいつ。

放課後の寄り道を賭けた――私はカリッカリのライスコロッケが良かったのに、負けたからサックサクのミルフィーユになった――軽い言い合いは、山の表面を削る雪崩のように勢いと迫力を増して学校の備品をいくつも飲み込み、終わる頃には人に乱暴するナイフが人に乱暴されて全滅していた。

 

 

どうしてそのよろしくされたくない視線が私を見てるんだ。決闘で何したっけ?

イヅナをリードしてダンス披露宴、最後の瞬間は「あほんだらがー!」って頭突きした……ような気がするけど、頭突きが届く距離に接近するまでの記憶が必死ゆえに飛んでるんだよね。

 

一菜さんはなに、なんで赤くなってそわそわするの?

表情筋もだらしなく緩んで……決闘中に幸せな思い出もあるらしき反応。どういうことなの? Mなの? Sなの?

 

 

「"イヅ、答えて。あなた、遠山に出会った、今でも。今生を捨てても良い。なんて言える?"」

「"我は……"」

「"イヅ……"」

 

 

静まり返る部屋に、時間が流れる。

誰も、何も。せわしない兎狗狸すらも、強く握り締めた両こぶしを胸の前でくっつけたまま口を挟まない。

 

私もフィオナも一菜の答えを待った。

命を捨てていいなんて、もし彼女が首を縦に振ろうものなら、今度という今度はボッコボコに鉄拳更生してやるぞ。フィオナと2人掛かりでな!

 

 

一菜。

まだ、その答えに考える時間を必要とするのか?

 

 

「一菜…………」

 

 

……いや、いいんだ。存分に悩むといい。

 

あなたが背負ってきた一族の使命。

カナに叱責された生き方。

私達と歩んできた武偵への未来。

 

あなたがずっと悩んできたこと。

その全てを、あなたが大切にしている証拠だから――

 

 

「クロちゃん……」

 

 

――だから、ごめんなさい。

へ……へっ……!

 

 

「――っくちんっ!」

 

 

……頑張ったけど、我慢、出来ませんでした。

 

 

「"……ぷふっ!"」

「"ぷははっ! あはははー! お主さんの胆力はすっごーい!"」

「"唖然"」

「"ぶち壊しだナー"」

「クロさん、それは何という芸なんですか?」

 

 

一斉に笑われ、呆れられ。

フィオナは注目されたからクシャミをしたとでも思ったらしい。当然、私の生理現象は見世物じゃないよ。よもや、こんな時まで噂されてるんじゃ……

 

 

「"……ぷふっ、うふふふ……クロさんはとてもお強い、凛々しい方だと伺っておりましたが、同時に可愛らしい方でしたのね"」

「"め、滅相もない……"」

 

 

嫌味ではなく彼女はコロコロと鈴の音を立てて心から子供のように笑っている。

噴き出し方は一菜そっくりだったよ。母娘どっちもキツイ顔形なのに、彼女達の方がよっぽど可愛い笑顔が似合うね、断言する。

 

だって私は彼女の笑顔が好きだから。

馬に乗れ、人に添え。

彼女の笑顔がもっと見たくなって、仏頂面の少女に話し掛けた。

彼女をもっと知りたくて喧嘩を買ったんだから。

 

 

袖で口元を隠すトキナさんは久しぶりに笑ったみたいで、くたっと疲れを露わにした彼女を兎狗狸が支える。その笑い疲れてなお眩しいほどの笑顔を見て、兎狗狸が、槌野子が、三松猫がキョロキョロ顔を見合わせて笑い出した。

 

そうそう、そういう周囲を魅了し明るくさせるところもそっくりなんだ。

殺生石を使う力に負けないくらい、代わりの効かない素敵な特技なんだよ、一菜。あなたはイヅナの力だけを持つ人間なんかじゃない。

 

 

床の間に戻るように促されるも、最後に、とトキナさんは日本の真の総大将として宣言した。日本代表の進路を。

 

「"槌野子さん、三松猫さん。あなた達の意見は……双方尊重しましょう"」

 

彼女の意見に槌野子は期待を込めて頬を上げ、三松猫は不安気に眉をねじ下げる。

どういう意味なのか、それもすぐに解ける謎だ。答えを待てばいい、彼女の口から語られる正解を。

 

ま、予想は付いてるけどね。八割方。

 

 

「"ここにある25の犴の欠片の内、20は私が管理し、一菜は4つの欠片を持ちなさい。そしてあなたはこれまで通り学校に通わせます"」

「"ナっ……! と、トキナ様、それでは危険なんだナ! あの学校は正に争いの渦中、一度踏み入れば4つでは自分の身を守れないんだナッ!"」

 

 

フーッ! と勢い任せに跳ね上げさせた髪の間から、毛を逆立たせた三角耳を突起させる。やる気のない目は切羽詰って鋭く研がれ、一菜の事を実直に案じてくれていることが明白だ。

トキナさんが彼女より格上なのは間違いないのに、それでも異を唱えてくれている。

 

その様子に感銘を受けていたのは私と一菜だけ。

……じゃないよね、やっぱり。

 

 

「"なーちゃんのそういう所、大好きよ。私がイヅナだった頃も、あなたは頻繁に会いに来てくれたものね"」

「"にゃッ!?"」

 

「"あっ! その話、あっしも知ってる! トキナ様の大好きなブドウを買いにぎゃあっ!"」

「"な、なんで知ってるんだにゃーッ!"」

 

「"定番。従二位以上、大体知ってる。惚気話。題名は通いづ――"」

「"どこから広がったにゃッ!?"」

 

 

にゃーにゃー暴れまわる三松猫に掛ける言葉はない。いいじゃないか、仲間内で惚気たって。

"なーちゃん"呼びは親の影響か。なら今の彼女は"にゃーちゃん"だよ。

 

(それにしても『私がイヅナだった頃』ねぇ…………)

 

イヅナとは三浦家の力の根源。てっきり殺生石の扱い方さえ知っていれば晩年までその力を揮えると考えていた。

しかし、彼女の言い方は今や殺生石の力を使えないかのように聞こえる。

呪いや狐憑きかと思っていたイヅナの力は何かしらの契機を以て発現者が承継していく、世襲制の役職みたいなものなのだろうか。

 

当代イヅナを担う一菜に制されてようやく座り直した三松猫は、話は終わってないぞとばかりにドッカと膝を立てた。正面の私達には中身が丸見えだけど、気にしない性分らしい。元々の格好もアレだし羞恥心が薄いのかな。

ねえ、フィオナ。チラッと睨まないで? そういう趣味はないってばさ。

 

 

「"一菜を安全な所に置きたい、そうよね、なーちゃん"」

「"そう言ったのは三松猫だナ"」

 

呼び方を変えろと反論気味に肯定するという珍しい一言を皮切りに、再び研ぎ直した眼光を突き合わせる。

 

「"あるじゃない、この世界で一番安全な場所が"」

「"……? この世界で?"」

「"一番安全な場所ナ?"」

 

 

トキナさんはそこを見ている。

 

(ああ、間違いない。それは私達が最も望む展開ですよ)

 

私にはその謎の答えが分かった。世界で一番難しいなぞかけに尻尾をくねらせる面々には悪いが、こちらには振る尻尾も無いのだ。

だから、フィオナにも、ここまでの話を通訳してあげるよ。翻訳機が必要な翻訳機、一菜の代わりにね。

 

 

「"あっしの殿中とか?"」

「"安全な場所とはどこの事でしょうか、母上?"」

 

 

4人の問いに、彼女は答えない。

目線すらもそれぞれに向けられることはない。

 

 

それが答えだ。

 

 

一菜が母親の示したヒントを追う。

目線を辿って、辿って。

 

そうだ、一菜。来い。真っ直ぐに追い続けろ。

安全な場所と私達はずっとあなたを待ってあげるけど、ステキな時間と登校時間は待ってくれないんだからね。

 

 

やっと言える、その時が来た。

目と目が、めぐり合う。

 

 

「おかえりなさい、一菜。ようこそ、私達のチームへ」

「!!」

「あっ、酷いですよクロさん!話が全部終わってからって決めたじゃないですか!……一菜さん、おかえりなさい。ようこそ、私達のチームへ」

 

 

この同盟は、チームの再々結成ってとこだね。一菜はもう手を離して先をゆくことはないと信じよう。

 

 

笑顔、笑顔、呆然、微笑み、笑顔、苦笑い、苦笑い。

 

五分咲きの花は時間と共に開花が進み。

桜の木なら奇跡の十分咲きを達成してしまったよ。一輪も散る事無く、ね。 

 

「クロちゃん……フィオナちゃん……!」

 

ああもう、顔をくしゃっとさせないでよ。あなたが泣くと、釣られちゃいそうになるんだからさ。

手が焼けるなぁ。あなたも……素直じゃない自分も。

 

 

「しかーし、あなたはただで守られるようなタマじゃない。一菜も、私達を守って下さい。馬車馬の如く」

「んだとーっ! 誰が馬だ!」

「もう……クロさんは照れ屋ですね」

 

 

このままじゃせっかくの花が三輪もしわしわに萎れちゃうところだった。

感動の涙も悪くないけど、やっぱりフザケてなんぼだ。私達は。

 

座卓を飛び越えた一菜を両腕で止めようとしたら回避された。卓上をバシンと叩いて方向転換しやがったよ。

両肩に水平飛び膝蹴りを喰らったら呼吸も数秒止まっちゃったね。結局、奇跡は奇跡、さっそく一輪散ってしまった。

 

 

「無事ですか?」

「痛くて涙が出そうです……」

「でしょうね。今の失言は自業自得ですよ、クロさん」

「ほっとけ、フィオナちゃん! どーせ数分後には復活してるって」

 

 

 

あいたたた…………

これが。この痛みが日常……だったか。

やっぱり思い出は楽しい時間のハイライトシーン。嫌な体験はプロ映像クリエイターの脳がカット多用の編集で器用に美化しているものだよ。手にするとそれほどでもないって思っちゃうよね。

 

 

「き、今日のところはこれくらいにしておいてあげます……"じゃじゃ馬娘さん"」

Huh?ほーん? You are like a deer caught in the headli...ビビってるんじゃ……

「"やめろ英語やめろォ! 分かんない、ユアライカディア―って『やーい、おまえ鹿人間』という意味ですよね? 太々しい態度って言いたいの? 新手の悪口ですか⁉"」

「"ぶはぁっ! ちょっ……鹿人間て……!"」

 

感動して泣いたり、煽られて怒ったり、人のリスニング能力を笑ったり、片時も同じ表情を維持出来ないチームメイトだよ。

腹を抱えて爆笑する一菜に半眼を向けていたら、胸を押さえて苦しそうに笑いをこらえるトキナさんも見えた。意図的ではないんですけど、なんか……笑われる英会話能力ですみません。

 

「"いやー、笑った笑った。2日連続で酸欠になるところだったよ。決闘の果たし状ならいつでも買うし、次は1対1で、あたしはずっと待ってるからね"」

「"あなたは……同盟でしょうが…………"」

 

 

だから、どんなに辛い時も忘れないぞ。

私は日常の中にいるんだ。誰が何と言おうと。

 

ここが……このローマが私の日常なんだ。