まめの創作活動

創作したいだけ

黒金の戦姉妹3話 黄金の残滓(前半)

どうも!


今回も前回の続きになるんですかね。話を切る場所がへったくそですみません。
朝練が中止になった同日、無事乗り切ったクロは普段の日常に戻ります。普段の日常です。普段の日常です。ふだ……


気付いている方もいらっしゃるでしょうが、クロのキャラのモデルはクロメーテルさんではありません。やる気があって、根暗になる前の遠山キンジがモデルになっています。
そしてキンジの体には遠山セツ…つまりホトギの血も混じっていることになります。大和撫子、外界への…未知への憧れ、そしてヤンデレも潜在意識に潜んでいるかもしれません。キャラ付けには困らない逸材ですね。




 

 

黄金の残滓レジデュオ・ドロ(前半)

 

 

 

時刻はお昼。

私は昼食もそこそこに、とある人物を訪ねていた。前線で戦うことが出来るのも、その人物のバックアップがあってこそであり、任務の結果を大きく左右させるある種の力を持つ。

 

扉にはTAR――Terzo Arma Reparto第三装備科――の表示がされていて、ここが武偵高校付属中学二年生の装備科による、"市場"であることが分かる。

 

ローマ武偵中には第一から第七まで、それぞれ一年生には第一、二年生には第二と第三、三年生には第四から第六の、商売――演習を行う場が設けられている。第七はで、同学年にも一人いるみたいだ。

とはいえ中学では基本的に仕入れなんかを学校側で行っており、あくまで商売のを行う場だ。要はここで自分と年の近い顧客武偵を相手にしてイロハを学びながら、で利用できるパイプを作っちゃおう!ってことらしい。

実際ここで結びついた契約関係は高校に進んでも、その実力が確かならプロの道に入ってからも続いていくという話を聞いた。先を見据えてますな。

 

また安全管理ってことで、当然学年によって取り扱える武装も変わるし、違法でなくても改造機械いじりは原則禁止とされていて、許可を取り付けるにはかなりめんどくさい申請が必要になる。

個人が学校から支給された物資は、銃弾や砥石のみならず、銃の整備に必要な薬剤や油まで徹底的に在庫管理がなされ、盗難や横領を防ぐ体制が敷かれている。もし書類に不備があろうものなら……ここではやめておこう。

過去には盗難を行った生徒が諜報科と強襲科の上級生に追い掛け回された事例がある。おそらく雇い主は装備科の生徒だろう。向こうも必死なんだ。ホント恐ろしい話だよね。

 

んで、ここの生徒が単位を得られる頃には学校側もウハウハなわけで、他の科と違いこうして堂々と校内に何個も拠を構えているのだ。

 

 

昼食プランツォはみんなしっかりと食べるので(比例して会話時間も長いので)、早めに済ませて来ると人が少なく交渉はスムーズになるのだ。お昼休み、彼女はいつもここにいる。

 

 

コン コン コン

 

 

「わっ!は、はい!どうぞ、開いてますよ」

 

他の教室よりも立て付けの良い扉を開けると、そこには3人の生徒が仲良く日本式お弁当ジャパニーズオベントーを囲んでいた。

 

 

正面に座ってオロオロとしている、黒髪黒目、身長138cmのは"パオラ・ガッロ"

 

向かって左側、じーっとこちらを観察していた、ちょっとだけくすんだ茶色ビスコットの髪の、は"クラーラ・リッツォ"

 

その対面に座る、背の高い褐色肌、セピア・ロマーノの髪のは"ガイア・ベニーニ"

 

 

3人とも私が仕事を依頼したことがある知り合いだ。

 

子供の頃から家族ぐるみの付き合いらしく、幼馴染というやつだろう。

それがみんなして武偵の道に進むんだから、物好きだよね、人の事言えないけど。

 

 

「皆さんお揃いで。おー、相変わらずおいしそうなオベントーですね」

「よっ。随分はえーな。財布忘れて食いっぱぐれたか?」

 

褐色の少女ガイアがそう言いながら、筒状の揚げ菓子カンノーロを一つ差し出してくる。それ今ベントー箱から出しませんでした?

まーいっか、コース料理じゃないからデザート食べてないし。もらっちゃお。

 

パリパリ音を立てながらデザートを頂く。多分これ、クリームでフニャフニャにならないように二度揚げしてるんだね、内側にかなり火が通ってる。でも甘みを抑えたチーズ風味のクリームが、食感で安っぽくなるのを上品に整えてて、おいしい。

 

「へへっ。なかなかうまく作れてるだろ?そのカンノー、パオラの家の米を砕いて少し混ぜてんだ。自然の甘味ってのが意外とフロマージュの中でも残るんだよな」

「これは…かなりおいしいですね。米粉の揚げ物なら油分の心配も減ります」

 

(なるほど、生地自体が少し甘いのはそういう事でしたか。その上、半殺しの米粉のおかげで固くなり過ぎないと。やりおる、メモメモ…)

 

これを「許可が出たから、公道でペダル付き原動機付自転車モペッド通学出来るぜ!」とか言ってた人と同一人物が作ったとはとても思えないな。

 

その前から校内で普通に大型二輪オートバイA2自動車オート貨物自動車カミオンC1 も乗ってたじゃん。私情での使用は許されてないけどさ。

 

 

彼女ガイアは中学で車輛科に、その道のエリートである。というのも、車輛科という物自体ここでは概念の存在であり、本当は装備科の一員なのだ。

 

中学での免許取得はさすがに許容できない。という方針で、自動車の機構やエンジンの構造なんかの物理工学系の基礎学習と、機械整備を専攻できる――兵站学部装備科車輛専攻とでも言おうか――体制が敷かれている。

だが、その半面優秀な生徒の成長を妨げるのは良くない。という考えも存在し、高レベルな運転適性試験や厳密な健康診断の結果をもって、合格者にはあらゆる乗り物の選択が許されるのだ。これが概念上の車輛科、通称兵站学部車輛科。

 

車輛科の生徒でも任務外の公道の運転は許諾されていないが、なら公道以外で練習すればいいじゃんとばかりにイタリア国内に練習場所を設けるあたり、行き当たりばったり感が否めない。しかも、これが車輛科の人気を爆上げさせ、倍率を急増させた原因なのだ。

 

 

普段の校内の練習とは違い、合宿体制で確保された練習場所コースというのが、あのフェラーリが本店を置き自動車産業に特化したモデナと歴史的なカーレースの聖地シチリア島

 

 

あんたら遊びに行く気満々でしょ。

 

ガイアも夏季合宿に参加したらしく、シチリアでずいぶんお楽しみだったようだ。カンノーって発音もシチリアなまりの発音だし、現地で食べて気に入ったんだろうな。

 

 

「クロさんは本当にたかりに来てたのですか?」

 

マイク付きヘッドホン少女クラーラが不思議そうに首を傾げ、返答を待たずに――こちらは料理が得意ではないので、大きめの塩漬け豚パンチェッタに数種類の野菜をくるんで切り分けたものを小皿(ベントーのふた)に分けてくれている。

ドルチェの次はサラトゥ、つまり塩漬けですね、分かります!

 

「ホントは違うんですが、もぐもぐ…。ふぅ、人間は歌と食と愛をすべてに優先すべきでしょう」

「日本人とは思えない発言」

「"郷に入っては、郷に従え"って言葉が日本にはあるんです」

「ゴーゥ?」

 

困った、つい日本語で言っちゃったよ、なんて説明しよう。郷ってなんて訳せばいいんだろ。故郷だとなんか違うし。町とか国とか?

 

 

一窓しか起動していない私の思考能力は、一般の人間と変わらない。私が姉さんのように睡眠期に陥らないのは脳への負担を極力避けているからだ。

普通はコントロールできないらしいものの、結局私自身もON30窓OFF1窓の切り替えが出来る程度なので、そんな便利だとは思ったことがない。能力も安定しない波があるしね。

 

 

「"クロさん、quando sei a Roma, vivi come romaniローマにいるとき、ローマ人として生きるなんてどうでしょう"」

 

途中から脱線気味に悩んでいた私にニッコリとそう言いながら、ミニマム少女パオラが包み紙でくるんだ見たことないやつオリジナル料理を一つ手渡してくれる。

 

「その案、頂いちゃいますね。そういうことですクラーラさん」

「どういうことですか?本籍を移したってこと?」

「惜しいっ!」

「惜しいのはクロさん、私は間違ってない」

 

とか寸劇をしながら手元の物体を観察してみる。

 

(薄いクレープみたいなフワフワ生地に…リゾット?キノコリゾットが入ってる。なんだこれは)

おそるおそる一口食べてみる。と、お?リゾットというよりチャーハンとかピラフみたい。ベチャっとしてないし、生地に卵が多めに混ざってるっぽいぞ?そしてこの淡泊な味は…なんかどこかで食べたような…

 

もう一口食べてみる。すると、何かが中から!トロっとした何かが…!

(これ、餡だ!酸味はほとんどないけど、甘みのある中華餡。これらが合わさると…そうか!これは持ち運び式の天津飯なんだ!!)

 

「ど、どうでしょう…。日本食はだいぶ作れるようになったのですが、日本の方は中華料理も好きと聞いたので…」

 

そういえば最近日本食の練習してたけど、ほとんど食べられてなかったね。おいしいから味見役の私たちは役得なんだけど、日本オタクなのかな?

 

 

フルコースを反対から順番にいただいて満足した私が、

 

「これなら日本の露店で出しても売れると思いますよ。ここだと万人受けはしなさそうですが」

 

なんて、ちょっと余計なことを言ってしまったのを聞いて、ガイアとクラーラがニヤニヤしてる。

 

「そんな心配はしてないよなー。パ・オ・ラ」

「そうですよ、パオラが食べて欲しい人は一人しかいないんですから」

 

思わせぶりな発言をした2人の露骨な視線から察した。

そうなのか。彼女にもそういう男性が出来ていたとは……!

 

色恋沙汰のお話は苦手だけど、誰かの恋バナを聞くのは案外楽しいかも。

わくわくしてきた。

 

「えぇっ!なんですかそれ!?パオラさんいつの間にそんなお相手が!」

「ち、違い……ませんけど、違うんです!食べ物で釣るなんてことじゃなくて、ただ美味しい物を食べて、またおいしいって言ってもらいたくて――」

 

パオラは赤くなりつつも否定はしない。しかも既に実行済みな口振りにビックリさせられた。

さすがイタリア、愛に生きてるね。日本の漫画なら「ちがーうっ!」って言いきっちゃう、ツンデレ展開なのにあっさり認めたよ。

聞いてもいないのに、聞いてる方が恥ずかしいようなこと口走っちゃってるし。そのサービス精神は日本の漫画から学んだのかい?

 

「分かってる分かってる、パオラは純粋な娘だからなー?」

「初めて会った男性に一目ぼれなんて、ジャパニーズマンガ。パオラ可愛い」

「"パオラさん、日本には胃袋をつかむという篭絡方法がありまして…"」

「やめてーーーー!!」

 

 

ガラララーーー!

タッタッタッタ…

 

 

うーんやり過ぎたか、パオラは耳を塞ぎながら走り去ってしまった。てへぺろ×3。

 

「だめだよ、ガイア。あんまりからかったら可愛…かわいそう」

「それをあなたが言いますか。クラーラさんが一番追い詰めていたような気がします」

「とどめを刺したのはクロだろ、最後日本語でなんて言ったんだよ」

 

罪をなすりつけ合う私たちは、にっこり笑顔。何しに来たんだっけ?

 

 

 

昼食も終え、のんびりしていた。もう40分も駄弁ってたのか。

 

そういえば違和感があるな。彼女たちの座る位置である。

まるで私がここに来ることが分かっていたかのように、教室の入り口側を空けて、に座っていたのだ。

 

「クラーラさん、そういえば何でココ空いてたんでしょうか」

「クロさんが来る少し前まで、あなたの戦妹さんが来てました。"今日のお昼休み中に戦姉おねえちゃんが来ると思うから、これを渡してほしいんです"って」

 

そういってクラーラはアルミの銀紙をこぶし大――にしては小っちゃいな――に丸めた物を渡してくれる。受け取ると、ただのアルミにしてはずっしりしてるな。

 

(私より早いってことは昼食よりも優先してくれたってことか。カワイイ戦妹です)

 

何だろう…なんかこれ銀紙を見ただけで懐かしい記憶がよみがえる。

これって、もしかしなくても、これって…

 

戦妹あの子が来てたんですか」

 

そう言いながら、みかんの皮を剥くように開いていく。私の推理が正しければこの中には…

 

「後、伝言も"チーズ竹輪チーチク美味しかった?戦姉おねえちゃんの為に昨日の内に登録しておいたよ"だそうで。その…チーチクっていうのは何です?ceciチーチひよこ豆のスープかなんかでしょうか」

 

(昨日かいっ!そもそもあの子は何目指してるの!?)

 

「チーチクというのは日本語です。チーズと"チクワ"、魚をすりつぶして焼いたものの事です」

 

端折りに端折ってテキトーなことを言いながら開いた銀紙の中には…

 

 

お、おにぎり…

 

 

見間違えるハズがない。それは今朝、私が断腸の思いで別れを告げた、純・国産・日本米!

まさか、こんなところで再会するなんて!これは運命、そう、私とこのお米は、結ばれる運命だったのだ!

 

「お、おい。大丈夫か?お前、顔の真剣さがやばいことになってるぞ」

「クロさん。そんな顔、私と一緒の任務に出た時にもしてませんでしたよ」

 

何か聞こえるが関係ない。相棒みそ汁?本気の相手?知らない子ですね。相手に奥の手を出させるなんて愚策以外の何物でもありません。

 

「フ、フフフ…」

「あいつ、米見て笑ってるだけなのになんであんなに殺気立ってんだ!」

「分からない。けど、戦妹チュラさんなら分かると思う。今は…引くときだよ、ガイア」

「よ、よし。パオラを探して戻らないように言っとかないとな。クラーラ、一年生チュラの方は任せたぞ!」

「うん。そっちも出来るだけ早くパオラを」

 

 

開いたままのドアから二人が飛び出て、ガララッ!と、クラーラがドアを閉めた。

続けてカサカサ、カコッ!と何かが立て掛けられるような音、別々の方向に走り去っていく足音も聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

残された私は今、座り込んでいる。

 

 

昂ぶりが少し落ち着いてきた、瞬間だった。

 

 

 

ヒュウゥン!

――ガゥン!

 

 

 

視界の端で何かが輝いた。宝石のような鮮やかな光が大気を割いて一直線に私に殺到している!

おにぎりとの再会の喜びで、緩くなっていた私のON・OFFスイッチが切り替わり、刹那のタイミングで体が勝手に発砲していた。

 

 

 

 

私の銃弾は敵の攻撃を弾き返……さない。

直径2mm程の矢尻、その先端をかすめて行くように擦れ違う。

 

無意識に狙ったのはその後端、矢についている矢羽とほとんど同じ形の、である。もちろんそこに矢筈など存在しない。小人の放った矢ではないのだ。

 

 

 

バチィッ!

 

 

 

回転する甲矢。そこについている3叉の矢羽の内、1つを銃弾で擦れ違いざまに捥ぎ取ると、矢は電源を切られた扇風機のように惰性回転になり、弾速も急激に落としていく。

 

弾速が落ちたおかげで、体を横にズラすことは出来そうだが、あの針に着弾の衝撃は与えたくない。

弾を弾で防ぐ(くびき)で撃ち落とすのも無しだ。

音速で空気を貫く銃弾とも、風に乗って彼方から飛来する矢とも違う小さな凶器は、おそらく圧倒的な運動量で質量的に勝る弾丸を容易に退けるだろう。

 

壁に当たれば私の腕と同様に大きな破壊を伴う。

アレを見たのは初めてではないのだ。

 

 

 

シュバッ!

 

 

 

私は先端の金属部には触れないように、左手を一気に引きながら母指と中指で細長い円錐形杉成型のシャフト部分を挟み取る。

ちょっと引くのが遅かったみたいで、矢が円錐で滑るように指の間を抜けようとしてきて……止まった。

 

摩擦で少し熱いから気付かされたけど、シャフト部の表面はわざと荒くしているらしい。掴まれるなんて予想はしないだろうに。掴んだんだけど。

 

 

第二射はない。お相手さんもちょっとは驚いてくれたのかな。

 

 

冷房のない室内の温度を下げるために開け放たれた窓、そよぐ風すら火薬臭い外を見ると、人影がある。隠れるつもりもないようで、こちらに向かって無警戒に歩いてきた。

 

Hop la...よい、しょっと……

 

え、犯人が窓から普通に入ってきた。これは盗人猛々しいというやつですか。

 

 

トパーズのような黄褐色の髪を腰まで伸ばし、エメラルド色の瞳を持つ白磁のように白い顔は、目が3、4割ほど閉じており、せっかくの美人顔がもったいないくらい、全くやる気を感じられない。

潜入のために用意したのだろう学校の制服は事もあろうに高校の制服で、鉄鋲が並べられベルトで締め付けられた厳つい見た目のブーツを履いている。さらにブーツには先程のが先端を隠すように、装着されている。

 

吹き矢の筒は手に持っていないが制服のどこかに隠してるんだろうと思い、少し眺めていると、あった。思いっきり見えてる。

銃のレッグホルスターみたいにしてるようだけど、その筒30センチ定規より長いからね。丈の短いスカートの下、これまた真っ白な脚の太ももにピッタリくっついてバッチリ露出してる。

 

さあ、私はどこから突っ込めばいいんでしょう。

 

 

 

HiこんにちはResiduo d'oroレジデュオドロ。やっぱり生きていたのね?元気そうで良かったわ」

「ええ、おかげさまで。今も左手に火傷を負ったところです。お礼に学校案内でもしましょうか?この時期のおすすめは教務科マスターズですが、あなたの格好は高校生のようですので尋問科(ダギュラ)なんかも良いんじゃないでしょうか」

「あらあら、お構いなく。もう見て回ったわ。でもあなたみたいに親切な子はいないわね」

 

(その格好で?そりゃみんな避けるだろうよ。高校の先輩とかやばい人間しかいないでしょ)

 

自分のことは棚に上げて先輩を化け物扱いするが、間違ってないだろう。カナみたいなのもいるんだし。

 

いまいち行動目的の量れない人だ。

彼女の危険性を知る私のホームグラウンドで試すように攻撃し、ぬけぬけと武器も構えず姿を現した。状況を鑑みればコソコソと探りを入れていた私を排除しに来たと考えるのが自然だ。

 

 

「何しに来たんですか?私が一人になるのを待っていたようですが、今度こそ始末するつもりとか」

「そんなことしないわよ。私の武器も見切られちゃったみたいだし、あなたが邪魔しないなら私も戦闘は望むところじゃないの」

 

……掴みどころのない人だ。

表情から考動の機微を読み取れないが、確かにその脱力した目から殺気や戦意は見受けられない。

 

「それはありがたいです。私闘は良くありませんので、次は仕事で会えるといいですね」

「あらあら、こわいわ。意地でも邪魔するのね?」

 

とりあえず、争うつもりはなさそうなので、あることを確認するために正面から対峙する。

 

「"夜道に気を付けてくださいね?"」

Oh Dearあらあら.Fifone!臆病者ね!

 

 

オッケー分かった、喧嘩売ってんだね。

じゃない、分かりました。やっぱり彼女は――日本語が分かる。

 

この前の任務中、完璧に動きを予測し攻撃されたのは、一菜に送ったが日本語だったからなんだ!

ローマ武偵中に来て日本語が分かる人なんてあまりいないから油断してた。

 

早急な作戦会議が必要になった。

早速、今朝の朝練がカフェタイムになって無くなったばかりだけど。

 

 

「"日本語を話すことは出来るんですか?"」

「"少しだけならしゃべれちゃいます"」

「…………」

「…………」

 

 

 

……日本語は得意じゃないのね、カタコトではないけど、いきなり可愛い声で子供みたいな丁寧語を話すから、鳥肌立っちゃった。

 

 

 

「イタリア語で構いません」

「ええ、助かるわ。日本語の発音は難しいのよ」

 

恥ずかしそうにちょっと視線を左に泳がせ、胸元あたりでお前クビな?みたいに左手をヒラヒラさせるジェスチャーをした。この話は終わりってことらしい。

自分でも変な事には気付いてるんだね。

 

いや、それにしても十分綺麗な発音だったよ、どこで勉強したら声まで変わっちゃうんだろう。

 

 

緊張を緩めないためにも、会話を本題へ戻そう。

戦うにしろ戦わないにしろ、彼女の身柄を看過するわけにはいかない。

 

「では、本当の目的を教えていただきましょうか」

「学校見学よ」

 

勢いのままちょっと強めの語気で問いただしてみるが、そりゃ誤魔化すよね。

この人いくつ位なんだろ?外見は高校生でもギリギリ通じなくは無い。しかし彼女から放たれる大人の余裕とでも言うべき雰囲気は、私やカナよりずっと年上に思わせていた。

 

「今が仕事中という判断をしても構わないと?」

「プライベートと言っているでしょう?私は潜入工作なんてつまらない任務は受けないわ」

 

何言ってんの?みたいな顔をしてプロらしからぬ発言をしてくる。

 

「さっきの攻撃は……」

「あんなのあなたには挨拶みたいなものでしょう、レジデュオドロ」

「そんな物騒な挨拶があってたまりますか!全人類が引き籠りになっちゃいますよ」

 

(……おや?ツッコミに対してリアクションが無いぞ)

 

 

冗談だよね……?とは思ったが返答が怖いので尋ねるのは止めにした。

それに、人を食ったような態度を取られると疲れてくる。一人で騒いでる気分になるな。

これみよがしに深く、大きなため息を吐く。

 

 

 

ス…ススス、ガッ!

 

 

「あっ…」

 

 

足を滑らせるようにして歩み寄られ、肩をぶつけて半回転させられる。

 

 

 

 

ギュッ!グイィ…シュルルッ、ググッ、ダダンッ!

 

 

 

「うぐっ!」

「油断はいけないわ。あなた、集中力があまり持続しない、悪い癖よ?」

 

 

(動けない…完全にキめられた!)

 

立ったまま、左腕を上げた状態で頸動脈を絞められている。さらに壁に押し付けられ、足の甲を相手の太腿に乗っけるようにして、少し反った片足立ち状態だ。壁に体重を乗せているようでビクともしない。

 

呼吸と…バランスを取るので精一杯。

倒れたらそれこそ完全に制圧されてしまう。

 

でも、頭に浮かぶのは痛みや苦しさではない。この状況に陥った原因――

 

 

(スイッチがOFFになってる……なんで……っ!)

 

 

「うふふ、レジデュオドロ、やっぱりいい香りだわ。でも今日はちょっと薄いわね。駄目よ?女の子はしっかりオシャレしないと」

「あっ…がっ!」

「大丈夫よ。今日は仕事じゃないから、殺しはしないわ」

 

 

たとえスイッチがONになってもこんなガッチリ絞められたんじゃ厳しいかもしれない。片足だけじゃ力が……

 

 

 

パパン!

 

 

 

「!」

「!」

 

エメラルドの瞳を見開き、トパーズの髪をなびかせて距離をとる。

 

自由になった体ごと発砲音のした方向に視線を向けると、両手に銃を持ち、ダークブラウンの尾を引いて窓から少女が飛び込んで来た。

 

隙をみせる私と相手の直線上に立って射線を切りつつ、銃口を相手に、こちらには背中を向けながら状況の確認を――

 

 

「話が違うよ、クロちゃん!」

「いきなりなんですか!」

 

 

――してくれなかった。

 

開口一番、嘘吐き判定。この一瞬であなたは何を思ったんだ。

 

 

彼女は前回、相手の姿を見ていない。

状況確認もしてくれないみたいなので、こちらから説明に入る。

 

 

「一菜、あれがです」

超能力者ステルシー…!」

 

 

普段の緩い表情筋を引き締めていく。相手の危険性に気付いたようだ。

私のスイッチも完全に入ったな。しばらくは大丈夫だろう。

 

 

「"その矢は止められたみたいだけど、ケガは大丈夫なの?"」

「その話は後で、彼女は日本語が分かります」

 

一菜はマジで?みたいな顔で振り返ったが、すぐに向き直る。驚くよね。

 

「私も2つ聞いてもいいですか?」

「あたしも残り2つ聞きたいことがある」

 

こういう場合はスマートに済むよう、私から交互に質問すると決めている。

 

「どうしてここが分かったんですか?」

「ガイアんがパオラんを探してて、クロんがお米を睨み殺そうとおもしろいことしてる、って言うから見に来ただけ」

 

偶然ってことね、そりゃそうか。

気付いたらいなくなっていたが2人には感謝しないとね。

 

「クロん、今から行けそう?」

「問題ありません。一菜の方はに行けますか?」

「ごめん、昼に下山したばっか。までしか登れない」

「それなら私に合わせて下さい」

「いいよ!じゃあ最後に…」

 

彼女は体勢を低くして重心を落とし、最後の質問をしてくる。

その足元には無残に打ち捨てられた…いや、よそう。私は見てない。

 

「作戦名は?」

「"3on3前3ー後3"で距離を詰め続けます。残弾管理だけ気を付けてください」

「うしっ!よ、そんなにから」

 

 

一菜が駆けていき一気に距離を詰めていく。

私もベレッタM92FSを右手、レンタルのマニアゴナイフを左手に、ガン=エッジの体勢をとり、後に続く。

 

 

 

ここからは…タッグだ!

 

 

 





クロガネノアミカ、読んでいただきありがとうございました!
 
 
どうでしょうか、登場人物のセリフ、見分け(聞き分け)られましたか?
一気に登場したので特徴は最低限にとどめましたが、先に謝らせて頂きます。


まだ増えます。ごめんなさい(てへぺろ)。


あと、注意事項が!
"quando sei a Roma, vivi come romani."
パオラさんが教えてくれたこのことわざ、これは正しくはありません。寸劇挟むために"i"を抜いちゃってます。正式には、
"quando sei a Roma, vivi come i romani."
となるそうです。
"ローマ人として"ではなく"ローマ人みたいに"が正しいので、誤用のありませんよう、お気を付けください。

戦いは次回!"3on3"一菜さんの戦闘スタイルも出て来ますので、黄金の残滓(後半)もうちょっとだけお待ちください。