まめの創作活動

創作したいだけ

黒金の戦姉妹6話 黒紫の講義

どうも!


今回も単発になります。が、次回以降に引き継ぐものもありますので、広義的には前半みたいなものですね。



では、始まります!






黒紫の講義プラグナ・レッツィオネ

 

 

 

「遠山さん。私の戦兄アミコになって下さい」

 

「……」

 

 

おい、どうしてこんな事になったんだ。なんでコイツは、俺の名前を知ってる?

 

 

「いい、と言って頂けないのなら…力づくで」

 

少女が上目遣いでこちらを見つめている。

俺の視線を捉えて離さない、エメラルドの瞳は、ルビーのような鮮やかな赤ロッソの髪の下からでも、その輪郭がくっきりと網膜に映り込む。

 

「それが……武偵流ですよね?」

 

一歩、また一歩と近付く彼女は、俺の部屋に置いてあるものと同じ、ローマ武偵中の真新しい女子制服を着用している。

 

カナの計らいで、仕事の無い休日は遠山キンジとして生活していた。ヒステリアモードは肉体の酷使だけでなく精神もすり減らす。ローマを俺の足で歩いて、観光によってリラックスさせるのが目的らしいな。

昼間はカナも付き合ってくれていたんだが、夜は任務があると帰って行き、その最終イベントが、これだ。意図していないダブルブッキングになってやがる。

 

今日は休日、しかも夜と来た。いくら今夜が明るいからって、女の子が1人で出歩く程も明るくはない。偶然の出会いじゃないな、俺の名前を知っている時点で。

 

(カナが離れるのを待っていた?しかも戦兄妹の申し込みだと?)

 

知っているのかもしれないぞ……俺の、俺たちの秘密を……。

 

「おい、待て!そもそも俺は武偵学校には通ってない!」

「では、あなたは何処の学校に通っているのですか?」

 

一定の距離を保ったまま、俺が後退すると追うように前進してくる。

その歩法はただの素人だが、魔女の件もある。うかつな行動は慎むべきだろう。現に彼女は"力づく"という言葉を使った。

どんな隠し玉があるか、分からない。今の俺では対処のしようも無いだろう。

 

「そんなの、お前に関係ないだろ」

「関係あります。あなたは私の戦兄ですから」

 

それは決定事項なのかよ!

コイツは何を知っていて、何がしたいんだ!

 

「俺は誰かの戦兄になった覚えはない。どうしてもなりたいってんなら、まずは自分の事を話せ」

 

後退は諦め、情報を手に入れることにする。賭けだが、打開策が見つかるかもしれん。

同じく前進することを止めた彼女は―――少しだけ口の端を上げた?

 

丁度裏通りを抜けていた俺は、大通りの隅っこでこの遣り取りをしてるんだが……見物客がいる。

休日の夜だけあって、軽食のついでにこのあたりのおいしいワインでもやっつけて来たのだろう、ちょっと悪酔いした客もいるな。

 

(他人事だと思いやがって。そこの腕っぷしが強そうな兄ちゃん、この目の前の赤ワインみたいなのもやっつけてくれよ)

 

「昨日のお昼頃、あなたにお手紙を送りましたよ」

 

「そんなわけ……」

 

にお願いしましたから、ね」

 

 

 


 

 

 

晴天!乾暖!快風!

 

本日は最高の体育日和!

 

なんとビックリ、同学年みんなで合同体育だ、2時間ぶっ通しで。知らない人がいっぱいいるな。

 

 

合同になるといっても、日本のように教師が全てを整列させて順番に、ではなく、最低限の課題を終わらせて下さい、あとはご自由にみたいな雰囲気。

好意的に捉えるなら自主性や協調性を優先する姿勢だ。

一応丸投げではなく、各クラスの担当や救護科の先生が見守っていて、その正面では自転車の取り合いで発砲が始まった。もう一度言おう、見守っている。

 

みんな自転車大好きだね。分かるよ、街並を眺めながら一周してくると気持ちがいいもんね。

 

私は教師ではないので見守らず、少し左の方を見ると、そこではサッカーをする少年群に混ざって、ガイアがシュートを決めている。半袖短パンの色気がない服装でも、引き締まった脚線美が彼女の健康的な美を表現している。

さすがに足の速さは強襲科の男子に及ばないようだが、ドリブルもループパスもミスが少ない。かっこいいのは認めるけど、トキメいちゃうからこれ以上イケメン系スイーツ&スポーツスイスポ女子にはならないで欲しいです。

 

実況席にはクラーラが座って状況説明をしているが、体よくサボっているだけだろう。運動が苦手で、さっきも周回遅れしてたし。こんな涼しいのに、ご丁寧に四角いビーチパラソルみたいなもので日陰まで作っている。それでもその顔色はあまり芳しくないようだ。引き籠りさんめ。

 

でもね、そのサッカーのミニ試合に、ガイアに付き添って、クラーラより周回遅れをしていた、パオラが参加していることを忘れてはいけない。超絶に運動神経がない彼女は、ガイアと同じ半袖短パンを泥だらけにしている。転げ回ってて小っちゃいから、ボールとの区別が付きにくい。それでもめげずに立ち上がる彼女の下に、こぼれ球がやってきた。

 

(さあ、どうする!パオラ選手。パスか?ドリブルか?正面から相手選手が迫ってくるぞ!)

 

結果は言うまでもない

――彼女は犠牲になったのだ。

 

 

悲しみを背負い、不条理な現実から目を逸らすと、そこには非現実的な光景が広がっていた。

徒手打撃戦ストライキングによる犠牲者の山が絶賛積み立て中。先生方はこちらは見守っていない。惨劇が起きてるんですけど…

 

その中心にいるのはやっぱりあの人。

 

「ふははー!どんどん掛かってこい!」

 

一菜だ。

なんで挑むんだろうとは思うが、事実、また次の挑戦者が彼女に対峙する。

 

「貴様の望みは何だー!?」

「クロ様の超至近距離ブロマイドが欲しいです!」

「そうか!ならば全力で掛かってくるがよい!」

 

おいコラ。なんの取引してんだ!

肖像権侵害で訴えて勝つぞ?!

 

元来、写真というモノが嫌いな私は、なるべく映らないように、撮られないように生きてきた。

言い訳をさせて貰えるなら、武偵ってそういうもんですから。

それをこんな所で、こんな…訳の分からない催しで破られてたまるか!

 

 

スパァァァアアアアーーーーンン!!

 

 

「アップンワンァーーー!?」

「そんな程度で、クロちゃんの写真が手に入るかー!出直して来ーい!」

 

来させんな!

ヤバい!意味わかんないけど、これ私も一枚噛んでることにならない?!呼び出されるとか絶対に嫌だ!

 

「つぎー!」

「うおおぉぉぉおおおーーーー!一発殴ってくれぇぇぇぇええええーーーー!!」

 

 

パチィイイーーーン!バチィイイイイーーーン!スパァァァアアアアーーーーンン!!

 

 

「ありがとうございます!ありがとうございます!ありが――」

 

あ、吹っ飛んでった。

 

「何言ってるか分からーーーーん!!」

 

これは、あれだ……一菜の暴走状態。

ATPの蓄積が過剰になり過ぎて、何言ってるかわからん状態になる危険信号。

 

溜め込んだのか?あいつ、体育の為に、命懸けで山を登り続けやがった……!

 

今の彼女は疫病の矢と戦った時よりも強い。このままだと犠牲者が出るかもしれないぞ。

え?もう出てた?さっきまでの人たちは自業自得なのでノーカンノーカン。

 

駆け足で一菜のもとへ向かう。その間にまた一人吹っ飛んだが、

 

「クロ様のストッキ…」の部分で飛んでったので、何を言おうとしたのかは分からない。

最早、相手の要望を聞く気もないみたいだ。茶番過ぎる。

 

一菜の横顔が間近に見える。さて、始めようじゃないか。

 

「一菜さん、次は私がお相手しましょう」

「その声は……」

 

振り返る一菜の瞳は、薄い茶色の中の瞳孔が燃えるように赤くなっている。

何がそんなに駆り立てるのか、私を見るとその双眸をカッ!と見開いて笑った。

笑っているのに、怒り心頭したキツネが、睨んでいるように見える。

元がキツイ顔なのだ。人懐っこい表情が消えればこうもなろう。

 

 

「やっほー、クロちゃんだ!来てくれるのを待ってたよ!」

「はいはいどーも。その顔で言われると、不気味すぎます。"お守りは?"」

「"胸ポケット"」

「"今すぐ下山を勧めますが……やっぱり?"」

「"当たり前!私に勝ったら聞いてやろう!"」

 

予定通り、いつも通り。

 

「"一菜、今の景色はどんな感じ?"」

「"よーく見えるよ。遠くにある茶屋まで、ダムの端から端までも"」

「"それはなかなか。すぐにでも引き摺り降ろしてあげますね"」

「"藪漕ぎは楽じゃないけど、登って来られる?"」

「"そう思うなら、ロープウェイでも敷設したらっ?"」

 

 

パシュゥッ!

 

――バスッ!

 

 

不意打ちで蹴りを放つ。威力はそこそこだが、普通の人間には反応も出来ない蹴りだ。

それを一菜は事も無げに片手で受け止め…掴まずに手離した。

 

脚を引き戻し、地を蹴って感触を確かめる。割れたな、脛当て。パオラに注文しないと。

対する一菜は堪えた様子もないし、痛がる素振りもない。

赤い双眸をニッコリと細め、うっとりとした顔は酔いが回り始めた反応に似ている。

 

「"来てよ、クロちゃん、私のいる所まで!抱き締めてあげるからさ!"」

 

両腕を広げ、抱擁を促すように私の方へ手を伸ばす。

余裕のアピールも彼女らしい。

ただ、油断しているわけではなく、その目だけは私のどんな行動も見落とさないぞ、とばかりに爛々と輝く。

 

「"一度誰かが通った道なら、登るのは容易いものです"」

 

誘いに乗り、一菜の抱擁に応えるべく、差し出された腕へと近付く。

オーディエンスが湧き始めるのはこの際我慢しよう。

だが、一眼レフカメラ!お前は許さんぞ?

 

軽い動作で、足元にあった小石を高速で踏み抜くと、計算通りにカメラのプリズム機構に直撃する。

そうそう直せまい、基盤は避けてやったのだ、ざまぁ。

 

そんな私の動作が見えていて、挙句、気に入ったのか。

彼女は普段であれば考えられない位、艶っぽい表情で、潤んだ瞳は小刻みに震えて、視線だけで彼女の気持ちを表現している。

 

余裕アピールへの意趣返しは成功したと言える。

出会った頃からそうだ。私が強かったからこそ彼女は心を開いてくれた。

ことある毎に私の力を確認するべく挑みかかってきて、いつの間にか望まぬ習慣になってしまっている。

だから、予定通り。いつも通り。

 

一菜の手が私の腕に触れる距離まで近づいた。

 

「"クロちゃん早くぅ…。あたし、もうだよぉ…"」

 

あと一歩、それで完全に彼女の腕に包まれる。

背後からコキコキと関節を鳴らす音がして、だんだん出口は塞がっていく。

 

胸と胸が触れ合う距離(比喩表現)で、彼女は私を見上げていた。

甘い甘い色素の薄い茶色カフェ・ラテはいまや完全に、甘酸っぱい鮮やかな赤色ストロベリーに変化している。

そのまん丸の瞳はストロベリームーンのように、2人を結び付けようとその存在を主張する。激しく、情熱的に。

 

こんなに色っぽい状況でも、彼女の香りは天然物のムスクのような野性的な香りに、バニラとアーモンドを加えた、甘く苦いドルチェのようで。

こんなに触発の状況なのに、私の脳は痺れていき、その甘い香りに酔ってしまいそうで、頭の奥がムズ痒い。

 

 

ドクン…

 

(……?)

 

いつも感じる違和感とは違う、不思議な感覚が湧き上がった。

 

心が騒ぐ。何かを求めて。

 

ふと気になり、頭の中に存在する30枚も並ぶ窓枠を見やる。

こうして改めてみると壮観だ。だがまあ、そもそも部屋のような空間がある訳でもないので、広いとか大きいとかって形容は適切ではないか。

周囲が暗いのも私が窓枠以外の何かを思い描いていないだけ。想像の世界には何でもあるが何もないのだ。

 

 

しかし、潜在意識というものは人間の無意識を支配し、時に表層領域を脅かす。

新たな環境のはずなのにどこかで見た事がある気がする既視感デジャブ、こうでなければならないという強迫観念オブセッション、無意識は本人のあずかり知らぬ内に記憶や感情すらも容易く掌握してしまう。

 

 

だからこそ、私が違和感を感じた事は正常な反応であり、異常な事象なのだ。

 

 

1枚だけ様子が違った。

 

窓枠の向こうからは赤い光が漏れ、その光が他の窓枠にも反射しながら浸食していき……半数の15枚は真っ赤な窓に染められる。

 

記憶にない、初めて見た妖しい光景に息をのむ。

 

美術室で見た芸術品の、どのステンドグラスよりも幻想的だ――

 

(あの光が漏れてきた窓枠。あの向こうにはどんな風景が広がっているんでしょうか?)

 

止まらない好奇心。疑問を暴きたくなるのが武偵というものだろう?

 

窓枠に手を掛け、ガラスのように透明な窓へ鼻を付けるようにして、中に広がる世界を遠望する。

 

 

 

 

 

――そこは古びた日本家屋。

 

 

 

 

私の視点は地上より上方。

航空写真ほど高くはないが、マンションの屋上くらいの高度はありそうだった。

 

真っ赤な光に照らされた、木の格子戸に囲まれる小さな民家は増築と解体を繰り返しているようで、その門構えは不釣り合いなほど大きく、家の間取りも不格好。

余りに余った広大な土地の空きスペースには野菜を育ててある花壇や雪見灯篭や池のある庭園が設えられ、離れに土蔵まで備えている。

 

 

そこには立っていた。

 

 

門を抜けたは、正面玄関タタキではなく、その足で小さなトウモロコシ畑を抜け、イチゴ苗作用のミニポット群を保管した蔵を通過し、日本庭園の先にある縁側へと向かうようだ。

 

はこの家の事を知っているらしいし、途中で4本のトウモロコシをもぎ取っていた事から、客人ではなく縁者なのだろう。

 

日本庭園の苔石はかなりの年月を経ているようで、この家がかなり昔から存在していたことをその身で証明している。

 

庭を見渡す縁側には、三毛猫が気持ちよさそうに丸まっており、その傍らでは毬が風に吹かれてコロコロと転がって、と穏やかな時間の流れを感じさせる。

 

 

は家の中に何事か呼びかけているようだが、窓の向こうにいる

読唇を試みて、の唇を見ようとしたが見えない。

意識すればするほど。違和感がないほどにそこには何も存在しない。

 

仕方ないので数分の間を静かに見守る。

こんなに空が赤いのに、私もも気にはならなかった。

 

 

庭の鹿威しを眺めていると、ついに、先程が話し掛けていた人物が縁側に登場する。

キツネ色の髪で長身の美人さんだった。当然だが見覚えはない。

 

「ごめんなさいね?こんな時に……」

 

鈴の音が響くような、どこまでも透き通った綺麗な声。

 

も返事を返し、両手をいえいえ、と胸の前で振っている。

 

 

三毛猫が首をもたげて、を見上げた。

毬が風向きに逆らって、の足元に転がる。

風鈴は存在を示すかのように、激しくチリーンチリーンと鳴いていて。

庭の苔石すらも、少しだけ動いたように見えた。

 

その一つ一つに、は身振り手振りで対応していく。

摩訶不思議な光景、でも、いつものことのような気もする。

 

は女性に誘われるままに火床のある部屋に上がっていった。焼きトウモロコシでも作るのだろうか。

 

登場人物が屋内に消えて見えなくなってしまったので、縁側に意識を戻す。

勝手気ままな三毛猫は消えていて、近所の子供が裏の水道からスイカを持ってくるのが見えた。

ケモミミなんて付けて巫女服を着た、金髪のちょっと痛い子だ。

フサフサな尻尾も元気に振り切って……振ってんの?

 

金色の尻尾の動力を探ろうとを観察してみるが、ちょっと遠くて分からないな。

 

 

その少女を追っけて、茶色い髪の少女と真っ白な髪の少女、緑髪の少女も現れて、我先にと金髪少女からスイカを受け取っている。仲の良い友達同士、任せてよみたいな気安さで笑顔を向け合う4人の少女達。

確かに金髪の子が一番小さそうだ。ほとんど変わらないけど。

 

きゃいきゃい!と騒ぐ彼女達の服装は個性的で、それぞれ、

 

女幽霊が着てそうな経帷子きょうかたびら額烏帽子ひたいのえぼし

膝上までの股引半たこかやで編まれた法被はっぴ

僧侶が身に着けていそうな袈裟。

 

その誰もが頭の上から耳が出ていたり、細い丸いといろんな形の尻尾を付けていたり。

ファッションセンスが普通の人間とは異なっていた。

 

 

入道雲が人々の日傘となる夏空の穏やかな時間を、慌ただしく駆ける少女達が早巻きに過ごす。大人にスイカを切ってもらう為に全員が縁側から上がっていって、とうとう誰もいなくなった。

 

箱庭のような世界で行われていた観察は早々に終わりを告げる。

化かされた気分だ。結局何もわからないまま。

 

 

 

 

――空はいつの間にか、青空へと変わっていた。

 

 

 

 

(何だったんだ?)

 

窓枠から顔を離すと、15枚の窓枠は全て元通りになっていた。

 

 

「おーきろー」

 

 

鋭く…鋭いのにやる気のなさそうな声が聞こえる。さっきの美人さんと違って、この声は聞き覚えがあるな…

 

 

………そうだ!救護科の担任のゾーイ先生の声だ。

つまりなんだ、私は俗に言う保健室にいるということだ。

 

何があったか覚えてない。それどころか気がしない。

 

でも、夢のように、ちょっとだけ覚えていることがある。

 

 

 

 

――――私、死に掛けてたかも――――

 

 

 

 

 


 

 

 

体育の授業が終わり、救護科棟で休んでいた私は、何事もなかったかのようにケロッとしている一菜に看病されていた。

 

ゾーイ先生は私の容態を確認すると、いくつかの質問をして、体育の授業に戻っていった。

結構まじめだよね、あの人。手当は適当なのにね、適切だけど。

 

 

一菜との徒手格闘戦は、私が一本勝ちを捥ぎ取ったらしい。

それも何となく、ふんわりとは覚えている気がするが、主観的な観点ではないと表現できそうだ。

 

口では説明できないが、どこか遠くから。例えるなら、さっきまで見ていた、窓枠の向こうのを覗いていた時のような。

 

 

「"クロちゃん……ごめんね。ちょっとだけ、制御を誤っちゃった……"」

「"その言葉は、私が死んだときにでも言ってください"」

「"うぅ…"」

 

どうしたんだろう、彼女らしくない。

いつもなら「クロちゃん死なないじゃん」とか平気で返してくるのに。

 

顔も赤い。反動が残っているのかもな。

 

よく知らないが、彼女の力の源であるATP――生体エネルギー――とは、超能力者ステルシーからしてみれば、魔力を使うのに消費するというものに該当するらしい。

 

彼女のテンションが高いのはATPの値が異常に高いからかもしれない。登り続ければあんな感じに暴走する。

初めて見た時は同性ながら、その別人のような妖艶さに、ちょっとだけクラっと来たものだ。

 

逆に、精神力を急激に減少させる"下山"という行為は、酷いと鬱病まで発症する。だからコマメな下山を行わなければならない。

 

表向きは平気なフリをして、裏では生きるために不快感を取り込み続けるのだ、一生。

 

超能力者達は羨ましいと言うだろうが……私は嫌だな。

 

だから大目に見る、今回の事も。

彼女の気持ちは何となく分かるから、だって大切なチームメイトだもんね。姉さんの受け売りだけど。

 

「"どうしても気になりますか"」

「"……うん"」

「"一菜さんは勝者の言う事を1つ叶え……"」

「"だっ!ダメーーー!!そ、それは、まだ駄目!まだ……その……"」

「"まだ何も言ってないですよ"」

 

負けたらさっきの無しって、小学生じゃないんだから。

まだ駄目ってなにさ。「勝負はついていない」とか言って病み上がりに襲い掛かってこないでよ?

 

「"違うのだったら……考えてもいい……けど"」

「"違うの?"」

「"だ・か・ら!さっきのお願い以外だったら……その……ッ!!もうっ!前向きに考えてあげるって言ってるの!"」

 

意味が分からない。会話が成り立ってる気がしないぞ?

決定的に私と彼女の間には、会話の前提条件が揃っていない。

 

「"さっきのお願いって言うのが分からないんです!私はそのさっき目が覚めたばかりなんですよ!?"」

「"さっきはさっき!もっと前!クロちゃんが!私を負かす時に言ったってやつ!!"」

 

痛みの残る体を押して上半身を起こす。

そうまでして反論した私に、一菜も負けじと身に覚えのない自論を展開してきた。

 

「"なにそれ……私は俺なんて言いません!あなたの聞き間違いでしょう!?"」

「"言った!言った言った!絶対に言った!!聞き間違えじゃない!でハッキリと!"」

 

だめだ。彼女は今、精神が不安定なんだ。

 

無理もない。"ダムの端から端"ってことは、山頂がもう少しでその目に映る寸前まで登っていたという事なのだ。

そこから落下速度を緩めることなく突き落とされた。

肺の圧迫も、気温の急上昇も、彼女の精神に多大な負担を掛けたに違いない。

 

記憶が吹っ飛んで錯乱する程に。

 

私は男口調になる事はあるが、それでも俺なんて言ったことはない。

一菜は間違っている。

 

 

この時は、私も少し正常な精神ではなかった、んだろうな。

起きたばかりだったし、窓枠で見た異様な光景。

 

 

――――私も……ちょっとだけ波が乱れていた。

 

 

「"もう、いいです!どうせ最初から叶えて欲しい事なんてありませんから!"」

「っ!――――」

 

どうした?一菜が黙った。私の発言を黙認した、訳では無いらしい。

怒りからか、羞恥からか。彼女の肩は震えている。

 

本当に、どうしたんだ、一菜?

なんで言いたいことを言わない?

怒りたいなら怒る。恥ずかしいなら誤魔化す。いつもの一菜はこんなに長く黙り込んだりしない。

 

何がそんなに気に入らないんだ?何が原因なんだ?

一菜をそんなに追い込んだんだ?

 

「"……そっか、分かった"」

「"一菜?"」

 

泣いてるの?怒ってるの?笑ってるの?

 

なんで今、あなたの顔はそんなになの?

 

 

「"えへへー、冗談冗談。まさかあんなに高い物をお願いされると思ってなかったからさー"」

「"高い物?"」

「"もー!ボケるには早いよ!だいじょーぶ、約束は守るって!"」

 

 

一菜はコロッと態度を変えた。……そのつもりなんだよね。

 

 

「"なにさー、その顔。信じてよー!悪気はなかったんだって!"」

 

 

また嘘を吐いて…

 

 

「"今度一緒にしご……学校で会ったら渡す!それでいいでしょ?"」

 

 

初めて私に自分の話をしてくれたみたいに……

 

 

「"いつもお世話になってたしさ!これぐらいお安いってもんよ!"」

 

 

自分だけが不幸になれば呪われればいいんだって………

 

 

「"たまにはにもお返ししないと!でしょ?"」

「"――っ!!"」

 

 

 

 

言い合いをしてた方がマシだった。

 

 

 

 

その笑顔は、どんな殴打よりも重たくて……

 

あなたが私の名前を呼んでくれないのは――――

 

 

 

 

―――死に掛けるよりも、ずっと苦しいよ――――

 

 

 

 

何が"彼女の気持ちは何となく分かるから"だよ。

 

何が"大切なチームメイトだもんね"だよ。

 

 

 

私は今の彼女の気持ちを――――なにもわからないじゃないか!

 

 

 

何がそんなに気に入らないんだ?

――私が彼女の発言を……考えをただの暴走だと軽視して無下にした。

 

 

 

何が原因なんだ?

――私が彼女を拒絶した。もう、いいって彼女との歩み寄りを否定した。

 

 

 

誰が一菜をそんなに追い込んだんだ?

――私が彼女を追い詰めた。あんなに痛々しい笑顔をさせて。彼女が1人で苦しむように、全ての悪を彼女に押し付けた。

 

 

 

 

分かっていた、分かっていたのに……

 

 

 

 

私は何も言えなかった――。

 

 

 

 


 

 

 

俺は今、大通りから2本入った裏通りの、隠れた名店?とやらに来ていた。

 

 

目の前に座るのは、ヴィオラとか言う女子中学生だ。

金持ってんなー。中学生のくせに、俺も中学生だけど。

 

過去に武偵の活躍で被害から救われたらしく、武偵への理解がある店だった。

防弾制服での来店者にも悪い顔せず、アポもなしに裏口から入場させてくれた。

個室……はたぶんコイツの仕業だろう。俺への配慮のつもりか。

 

自分はドレスコードとか言いながらノースリーブのキレイな淡い緑のドレスでおめかししてるし。この店との付き合いは長いんだな。どの店員とも、顔が通る。

 

 

 

「キンジさんが無事に戦兄となってくれて嬉しいです」

「そんなこと一言も言ってねーよ」

 

 

第一声がそれかよ。

 

あの後、野次馬どもが鬱陶しいので、裏通りに戻ったら「お話しするのに、おすすめの場所があります」とか言いながら連れてこられた。

 

俺は話すことなんてないんだが……カナがロハの仕事ばかりを持ってくるもんだから金欠状態。

夕飯も家で済まそうと思っていたところで……誘惑に負けた。

 

まあ、話するだけならいいだろ。そんな事よりうまいコース料理を楽しむ方が優先だ。

食うもん食ったら、有耶無耶にすればいいしな。

 

つーか、個室だからいいが…相当豪華だぞ?ここ。

トイレも事前に済ませろって言うから済ませたが、マナーってもんはどこの国にいても面倒なもんだぜ。

 

そう思いつつも、ヴィオラの見よう見まねで膝にナプキンを乗せた。

……が、これはずっとここに置くのか?口を拭いた後に戻すのは嫌なんだが。

 

「ナプキンは折り畳んだ内側を、こーやって拭くんですよ?」

 

そんな俺の心配を見抜いたように、ジェスチャーを交えながら教えてくれる。

知らないのは俺の問題だし、小馬鹿にされているわけではないので不快感はない。

 

さっきから見ているが、一つ一つの所作が洗練されてるな。

これでただの中学武偵ってことはないだろ。

 

メニューを見てもさっぱり分からないので、相手の情報を出来るだけ集める。

注文は、あいつと同じものでも頼めばいい。

 

「苦手な物やアレルギーが無ければ、おすすめを頼んでしまいますが」

 

またか、俺の頭の上には吹き出しでも出てんのか?

 

「ああ、ない。適当に頼む」

「何か、食べたい物…ありませんか?」

「コース料理ならそれで充分だろ。食い過ぎは良くないぞ。体に悪い」

 

ああ、懐に大打撃だ。

浪費家はボディーブローみたいにじわじわ来るぞ?

贅沢病ってのもあるしな。

 

「お気遣いありがとうございます。では当ててみましょうか?」

「当てる?何をだ」

 

(ボディーブローでも打ち込む気か?)

 

体面に座る少女の細腕から繰り出される打撃を想像して、効きそうもないなーと腹をさする。

 

ヴィオラはメニューをパラパラとめくり、うーんという顔をした。

そしてメニューをこっちに向け……

 

「これなんかどうですか?クロさんの好きな……カルボナーラ!」

 

なんでクロの好みを知ってるんだよ。

しかし残念ハズレだ。俺はそこまでカルボナーラは好きじゃない。

パスタの気分でもないしな。ざまぁみろ。

 

言い返そうとヴィオラに目を向ける。

 

「どうです?当たってますか?」

「……」

 

にっこりと微笑んだ彼女の手元、開かれたページには、"カプリチョーザ"を指で示す彼女の手があった。

 

 

―――おすすめが一番おいしいモノよ

 

 

夢で見た、カナの言葉がフラッシュバックする。

 

ゴクリ…

 

喉が鳴った。確かに今何を食いたいか聞かれたら、俺はこれを選ぶかもしれない。

コースにピザが付いてくる可能性もなくはないが、おそらく定番はパスタだろう。

高級なリストランテなら尚の事、小皿に取り分ける必要があるピザは、頼まなければ用意しないかもしれないな。

 

「なんでそう思った?」

 

ここは1つ試してみるか。

さっきのあいつのというのが、俺の考えている事を読んでいるとしたら、俺の無意識の思考まで読まれたことになる。

もしそうなら、この食事会はご破算だ。そんなやばい奴とコースなんてゆったり食ってたら丸裸にされるぞ……!

 

「カン。……が大半を占めますが。そうですね、キンジさんが私を見ているとき、私もキンジさんを観察することが出来るんですよ?」

「ああ」

 

ヴィオラは人差し指を立てて、教師を真似るように空気の黒板を叩く。

 

「キンジさんは私を警戒し、私の体格や能力、周囲への影響力と立ち振る舞いから私のの調査をしたとしましょう」

 

(何が言いたい?)

 

事も無げに俺の思考をまた当てられた。

バレているのなら誤魔化す必要もない。相槌を打って気持ちよく話させるとしよう。

 

「大体あってる」

「私は見ての通り非力ですし、所作なんかは子供の内に覚え込まされました。キンジさんの見立て通りでしょう?」

 

そういってメニューを台の上に戻し、こちらを見ていた店員に笑顔で合図を送る。

店員が去っていき、こちらを向いた彼女は、

 

「その時間を全て、私がキンジさんのの調査に使ったとしたら?」

「内側の調査?」

「第1.情報は一にして全、全にして一。たった一つの情報が、多くの場で証拠として利用されるのです。医学でも、科学でも、法律でも、経済でも」

 

スケールがデカくなってきたな。俺の好きな食べ物から政治経済は連想できないだろ。

 

「例えば、私がキンジさんの食べたい物を当てることで、キンジさんが戦兄になってくれます」

「ならねーっつってんだろ」

「キンジさんは永遠に私を愛してくれます」

「愛……っ!何言ってんだお前!それに、永遠なんてありえない」

 

意味不明な会話の真意を捉えられないまま、その話の収束点を予想する。

 

「ほら、私は今1つの情報をエサに、2つの情報を手に入れましたよ?」

「2つの情報だと?」

 

ヴィオラは座ったまま両手を上げ、空を仰ぎ見る。

両腕を順番に動かしながら説明をする。

 

「キンジさんが愛という言葉、異性との関係に積極的ではないことと、永遠という言葉、ロマンチストではない現実主義者なことです」

「なんだそれ、ふざけてんのか?そんなこと知ってお前に何の意味が……」

 

俺に言葉を言い切らせず、右手で素人が剣を構えるような仕草をする。

 

「第2.情報はどんな武装よりも、確実に所有者の力となる。非力な私には、剣も槍も必要ありません。どうせ使いこなせないのですから」 

「屁理屈だ。たとえ使えたとしても、そんな情報に大した力なんて……」

「第3.情報の価値ちからはその目線によって容易に変わる、時間による視点の移動も考慮せよ。従って無駄な情報など存在しません。キンジさんから得た情報も見方によっては大きな力足りうるのです」

 

少しずつ追い詰められていく気がする。

あいつは銃も何も構えていないのに、テーブルのナイフですら満足に振えないはずだ。

 

「第4.情報はまず花を見て、次に幹を見て、枝葉を見たらまた花を見る、そうしてやっと最後に根を掘り見よ。情報を得る順番とはとても大事なものです。花を見ずに幹を見ても、何の木なのかは判断しづらいです。幹を見ずに枝葉を見ても、その木の大きさはおおよそでしか判別できないでしょう。花は時間と共に咲き、散ってしまう、次に見た時には時期がズレて様子が違うかもしれません。そうして全ての情報を得て、初めて物事の根深い部分が見えてくるのですよ!」

 

「さっきの内側・外側ってのは」

「その通りです、キンジさん。あなたはこのリストランテに来て、やっと私の外側を…花を観察しました。私はすでにキンジさんの内側……枝葉の調査に掛かっています」

「っ!」

 

「第5.」

 

ヴィオラはこちらを一心に見つめ、俺の食べたい物を当てた時のように、にっこりと微笑んだ。

 

 

「情報を守るのは、情報だけでは足りない、情報はどこまでも脆い。この、私のように……。私にはあなたが必要なのです、遠山キンジさん」

 

 

先程の店員がワインボトルを運んできて、本当に少量だけ注いで戻っていった。

 

「お酒はお互い飲めませんが、口を濡らすだけお付き合いください。私もこのワインは好きではないんです」

 

注がれたのはプルーンの果実のように濃い深紫のワイン。銘なんて怖くて聞けないが、知る必要もない。

 

「なぜ、俺なんだ?」

 

要望には応えない。それはおそらく契約の証印のようなものだ。日本でも盃をかわすって言葉があるくらいだしな。

 

ヴィオラは、ワインを唇につけてテーブルに戻し、席を立った。

そして、その濡れた唇を開く。

 

「本当は脅して、なんて方法は取りたくなかった…」 

 

(いきなり物騒なことを言い始めたな。なんでそこまで俺にこだわる)

 

こちらも応じるつもりはないが、向こうも理由を話すつもりは無いらしいな。

 

「遠山キンジさん……いえ遠山クロさん。どうしても、私の戦徒になっていただきます。私たちは箱庭を生き残らなくてはいけないのです!」

「やっぱり……知ってたのか。俺の能力を」

「カン。……が大半を占めますが。情報とは意外なところから得るものです」

 

そう言って、にっこりと笑う。

 

やられた……!)

 

ヴィオラは俺とクロの繋がりを疑ってはいたが確信はなかったんだ!

それをまるで既知の情報であるかのように話すことで、俺自身の口から真実として奪った。

ご丁寧に自分の持つ情報という武器を惜しげもなく投入して。

言葉だけで圧倒された俺はコイツなら知っていても不思議ではないと思わされた。

 

情報の価値は目線によって変わる。

ヴィオラのもたらしたいくつもの情報は使いこなせない俺にとっては価値が低いが、俺を追い詰めるには十分すぎる武力を持っていた。

逆に彼女にとって、たった一つ吊り上げた『俺がクロである』という情報は大きな価値があるのだろう。そして情報という武器は奪われたとしても自分の手元から消える事はない。同時に奪い返すことも不可能である。

 

この戦いは一方的な敗北と相成った。

相手の土俵に乗せられてしまった時点で、俺の敗北は避けられなかったのだ。

 

「第2と第3を覚えていますか?」

「第2と第3……」

 

頭の中で思い出そうとする。それが失敗だった。

 

 

 

――ちゅっ。

 

 

 

頬に、キスされた。

 

ヴィオラが、俺の隣に、屈んでいて、柔らかくて瑞々しい、少女の唇で。

 

 

呆然としていた意識が立ち戻る。

 

血流は!?

……問題ない。驚きが勝ったらしい。

 

 

もう、彼女はこちらを向いていない。

背を向けたまま、細い人差し指をピッと立てて俺に話の続きをする。

 

 

「おさらいです。第2.情報はどんな武装よりも、確実に所有者の力となる。私の武器は情報だけ。あなたが手を出せば、私はこの場で為すがままでしょう。ですが、情報のは、いくらでも増やせる。あなたはこの店を掌握しなければいけなくなりますし、それで終わらないかもしれません。情報は時間も空間も所有者も、あらゆるものを超えて、標的の弱点を照らし、撃ち抜きます」

「……」

「第3.情報の価値ちからはその目線によって容易に変わる、時間による視点の移動も考慮せよ。あなたの恋愛下手は、私の非力さでも突破できそうです」

「随分堂々としたハニートラップだな」

「今の内に、油断しておいてください」

 

そういって笑う彼女は、さっきまでのにっこりとした笑いではなく、初めて本当の笑顔を見せたような気がする。

 

「もうすぐ前菜が来ますよ。マナーを守っていただきましょう」

「まずお前が席に着けって」

「そうですね。今日は……ちょっとだけ疲れました」

 

フラフラした足取りが気になる、この短時間でなんでそんな疲れるんだ。

俺と会う前にどっか散歩でもしてたか。どうでもいいけど。

 

席に着いたヴィオラはワイングラスを俺の方に傾けて揺らす。

 

「乾杯しましょう」

「俺の分もやるから、1人でやってろ」

 

結局グラスを差し出し続けたヴィオラに根負けし、1回だけチンッ!と鳴らしてやったら。スゲー喜んでんのな。

「もう一回!」とか言われたが、もうやらんぞ。そんなに楽しい事か、これ?いつでもできるだろ。

 

 

前菜が運ばれてきて、さあ食おうかという所で、ヴィオラがまた立ち上がる。

 

(お前がマナー守れっつっただろ!)

 

謎の奇行に、眉をひそめる。

そんな俺の心も知らずに彼女は本当に楽しそうに宣誓を始める。

 

 

「では、本日は私とキンジさんとクロさん…はもう戦妹がいましたね、私とキンジさんの戦兄妹結成を記念いたしまして…」

 

(強制だけどな)

 

「2人をつなぐ絆、濃い深紫プラグナのワインの名を取って。第1回"黒紫の講義プラグナ・レッツィオネ"の開催を宣言します!」

 

 

そう、高らかに、俺とヴィオラの絆とやらを強く結びつけるように。誰かにその言葉を届けるように、宣言するのだった。

 

彼女の唇と、俺の左頬。そこに見えない絆が繋がれた。

鎖のように頑丈で、ゴム紐みたいに伸縮自在な絆が。

 

 

 

「かんぱーい!」

「だから、もうしねーよ!」

 

 

コイツの目的は不明瞭だが、自分を守らせようとしていた。

痴漢やひったくりなら構わないが、は勘弁してくれよ?ほんとにさ。

 

「……そういえば、有耶無耶にされたが、カプリチョーザはどうやって当てたんだ?」

「カン。……が大半を占めますが。情報とは意外なところから得るものです」

 

本日3度目の同じセリフだよ。こりゃお手上げだ。まいった。

 

 

 







クロガネノアミカ、読んでいただきありがとうございました!


キンジの前に現れたヴィオラ、正体も目的も不明な彼女は、今回の題名である”黒紫の講義”の開催を宣言しました。格好良く名付けてますが、要するに、2人による懇親会、食事会、情報交換の場です。

キンジが応じなかった為、頬へのキスで済ませましたが、本来は互いの唇をワインで濡らして…というのが本当の絆の結び方です。しかし、成立条件はワインで濡れた個所を合わせるだけで良いので、見苦しいですが指を濡らしてもOKでした。


一方のクロは、一菜とのすれ違いになってしまっています。なんでこんなことになってしまったのか、それはまた今度。答え合わせとしましょう。


情報は武器也!